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/90/:乙女の怒り

「乙女といえば恋ですよっ!」

「ほへ〜……」

「なんですかその気のない返事は!?」

「……ほ〜」

「大して変わってないですっ!」


 俺は意気揚々と会議室に入ったはずだった。

 フォルシーナから乙女のなんたるかを知るために。

 なのに、恋だと……?

 俺には無理だ、そんなにポワポワしてない。


「そもそも、キィが俺のこと好きになるわけねぇだろ?」

「……は? 本気で言ってるんですか?」

「当たり前だろ……」


 フォルシーナだって、理由は知っているはず。

 俺とキィはまず恋人にすらなれないと。

 俺が特殊性癖ってわけでもないしな。


「……貴方は自分とキィちゃんとの関係を知っていても、キィちゃんからすれば貴方は他人なんですよ? 十分に貴方を好きになる可能性はありますって」

「いや、キィの目利きならもっといい男見つけるだろうしな。俺なんかあり得ないって。もっと良い国の王子とかだな」

「貴方は元、侯爵家の嫡子でしょうがっ」

「えー? 俺って上品じゃねーしな……飾り気もねぇし。顔も体格も頭も良くて裕福な所に嫁がせてぇなぁ……」

「貴方はキィちゃんの父親かなんかですかっ」


 フォルシーナがツッコミを入れてくる。

 もう殆ど家族だし、いいじゃん。


「……まぁ、ヤラランか恋愛云々なんて興味ないのは今更なので、一先ず置いておきましょう。乙女といえば、色々と着飾りたいものなのです。綺麗である事は何よりも自信があるのです」


 人差し指を立て、無駄にぐるぐる動き回りながら、新たな説明を始める。

 身綺麗だの、可愛いだのといった話らしい。

 俺は無駄に長い机に(ひじ)ついて踏ん反り返りながら聞いた。


「例えばですね、ここに髪飾りがあります」


 言って、フォルシーナは胸元から黒いピンに赤い花の装飾が付いた髪飾りを取り出す。


「これをこう……どうですか?」


 髪飾りを自分の頭の左側に持ってきて髪に留める。

 どうですか?

 そんなこと尋ねられても……。


「そうですか」

「……なんですかその反応はぁぁあ!!」

「あんっ!?」


 何故か逆ギレして机をバシンと叩いてくる。

 どうですかと言われても、そうですかとしか言えんだろ……。

 一体なんなんだ……。


「女の子が何か可愛いものや綺麗なものを身につけたら、たちまちそこを褒めるんです!それが、乙女心をわかってるって言うんですよっ!」

「……よくわかんねぇなぁ」

「もぉーっ! この髪飾りだってフラクリスラル随一のアクセサリー店で手に入れたのにっ!そんなに私が可愛くないですかっ、そーですかっ。もういいですよっ、ヤラランなんて蟻の心でも知ってればいいです、ふんっ」


 頬を膨らませてそっぽを向く彼女。

 何でキレてんのかよくわからんが、乙女心がわかってねぇのが悪いのか?

 よくわからんが、褒めればいいんだろ?


「可愛くないなんて、俺そんな事今まで一度も言ったことねーだろ。その髪飾り、似合ってるぞ」

「…………」


 フォルシーナはそっぽを向いたまま動きを止めた。

 ……反応がないが、ダメだったのか?


「……褒めるのが」

「ん?」

「遅いですよぉぉぉぉおおお!!!」

「!?」


 動き始めたと思えば、バンバンと両手を机に何度も叩きつけだす。

 なんだ!?壊れたのか!?


「錯乱してんのか!? 大丈夫かよ、おい」

「ええ錯乱してますとも! なんで貴方は! そんなに乙女心がわからんのですかぁぁぁあああ!!!!」

「いや、わからねぇから教えてもらってんだろ!?」

「黙りなさい! もう、ほんっとに、この鈍感の塊がぁぁああ!!!」

「机持ち上げんじゃねぇー! それは死ぬ! やめろ! うおっ!?」


 俺は咄嗟に飛び退き、フォルシーナが投げてきた机を躱す。

 無駄に長かった机は床との衝突で真ん中からバキバキに折れ、無残にも床に散らばる。


「このぉっ!」

「!?」


 さらなる追撃があった。

 室内にある棚、タンス、その他の雑貨を次々とその華奢な腕に持って投げつけてくる。

 投げ方から軌道を読んで躱すやいなや、バリン、ドン、グシャと様々な擬音が後には続いた。


「おい! ちょっと落ち着けよ!」

「ヤラランのバカ! 私はその一言を言われるのをどれほど待っていたことか! 知りもしないくせにぃぃいい!!!」

「なんの話!?」


 追撃はまだまだ続いた。

 写真立てだろうとドレッサー(何故こんな所にある?)も次々と投合してくる。

 容易く避けられるが、いい加減止めなければならない。

 俺は赤魔法で筋力増強を施し、次に投げられた人間サイズの銅像を拳で粉砕した。

 そして、部屋の奥まで逃げていたのに、たった一歩で彼女の下まで駆けて両腕を掴む。


「いい加減にしろ、アホ。そんな怒ることだったなら悪かったって……」

「…………」

「…………?」


 フォルシーナの少し涙のついた目が俺の目と合う。

 もともと怒りで赤かったが、またさらに顔を赤くさせて、バッと掴んだ手を振りほどかれる。

 そしてすぐさま彼女は体をよじらせ、俺に背を向けた。


「……近いですっ。少し……今だけは、離れててください……」

「……。悪かったよ」

「ヤラランが謝らなくていいんです……。私が1人で騒いでるだけですから……」

「……そうかいっ」


 錯乱させるようなことを言った俺が悪いんだろうが、俺自身がよくわかってない以上、フォルシーナが気にするなというならそうする。

 まったく……長く一緒にいるというのに、まだわからないことが多いらしい。


「おーい! どうせヤラランかフォルだろ! うっせーぞ〜!」

『む?』


 その時、部屋の戸から1人の少女が現れる。

 頭の後ろに2箇所髪を括っている、キィだった。

 先程を騒音を聞きつけて来たのだろう。


「って、なんだよコレ!? あーあー、まだ私も広告書いてるのにさ、なんでこんなに汚しちまったんだよ……」


 部屋の惨状を見てキィは唖然としていた。

 テーブルは折れてるわ、タンスはぶっ壊れて中のものがブチ撒けられてるし、ガラスや俺が砕いた銅片やら、とにかく部屋が汚い。


「……ちょっと、乙女について語ってたんだよ」

「……は? なんじゃそりゃ」


 事情を一言で説明しても上手く伝わらなかった。

 キィは仕方ないというように両手を腰に当ててため息を吐く。


「私も手伝ってやるから、さっさと片付けるぞ」

「おう……」

「はい……ごめんなさいね、キィちゃん」

「別に気にすんな。普段世話になってるしな〜。掃除道具持ってくるから、無色魔法である程度やっといてくれ」

「おう……」

「はい……」


 キィは呑気に言いながら退室して行った。

 フォルシーナはため息を吐いて無言のままに片付けを始めていき、俺もそれに倣った。

 まったく、もう乙女云々はこりごりである。

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