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/88/:周りの思い

 街を発ってから数日、俺たちは近場の村を収めた。

 最早手慣れた感じで人を集め、ルールを決め、そこから集団生活を始める。

 反抗するものには出来るだけ話をして、それでもわかってもらえなければ拘束と、手順通りだった。

 ミュラルルの様な奴もいなくて、前回よりも楽に事は進み、現在では村内で信頼関係が芽生えてきている。

 全ては順調、特に気にかかる点も無かった。


「ヤラランさん、いつも夜は屋根の上に居ますね」

「んっ? また来たのか……」


 村にある家屋の1つ、その平べったい屋根の上で胡座をかいているとミュラリルが後ろに降り立ち、俺の下まで寄ってきて隣に膝を抱いて座る。


「来ますわよ……どこ行ったのか不安になりますもの……」

「別に消えたりしねぇよ……カララルが面倒だから逃げてるだけだって言ってんだろ?」

「……はい」


 夜には3人で同じ建物で生活するべきなのだが、いかんせんカララルが暴走する。

 明主様〜、明主様〜と近所迷惑も大概なのだ。

 俺の姿が見えなければ静かに読書しているので最近では殆どカララルと顔を合わせていない。

 きっと今も本を読んでるんだろう。

 この場所でまた新しい本を読めるようになったんだから。


「……しかし、圧巻ですわ。ヤラランさん、たった1日で村を治めるだなんて……」

「もう慣れっこだしな。大したことじゃねぇよ」

「……大した事ですわよ。人が貴方に従う。きっと何か、惹きつけるものがあるんですわ……」

「……惹きつけるもの、ねぇ?」


 後ろの床に両手を付いて腕に体重を掛ける。

 はぁ、惹きつけるもの。

 俺にある魅力的なものって、なんだろうか。

 善行に身を惜しまない?

 自分ではこれぐらいしか思い浮かばないな、


「例えばどんなだよ? 俺の惹きつけるもの」

「えっ!? え、と、その……」

「……?」


 急にしどろもどろになり、目を泳がせるミュラリル。

 え、なに? 思い付かないとか?


「た、たくさんありますわよっ。快活ですし、男らしいですし、良い人ですし、とても優しくて頼りになりますし、あと、その……カッコいいですし……あの……」

「…………」

「え、いや、ごめんなさいっ! その、これぐらいしか思い浮かばなくて……」

「いやいや、真偽の疑わしい所もあるけど、そんな風に思ってくれてるなら嬉しいよ。ありがとな」


 何も言われないとかじゃなかっただけ、俺としては嬉しい。

 元は王女だし、人を見る力は多少ある……と思う。

 そんな人に褒めちぎられるように人を惹きつけるものを列挙されたんだ。

 カッコいいとかはあまり気にしたことがないし、快活だの男らしいだの、いまいち基準のわからんものは疑わしい点もあるが、言われるだけありがたい。


「え……いえ、わたくしは……当たり前なことを述べただけですわ……」

「でも、人を褒めるのって難しいらしいぜ?」

「ヤラランさんは、褒める点がたくさんありますもの……」

「……そうかい」


 自分では思い浮かばなくても、他人にはそうでもないらしい。

 まだ出会って1カ月も経ってないのに、よく見られてるもんだ。

 逆に俺がミュラリルの良い所を5箇所挙げろっつわれても無理なのにな。

 ……もうちょっと周り見るか。


「……さて、と。もうそろそろ寝ようぜ?明日も朝からやることは山盛りだ」

「えっ……その……一緒に、寝ますの……?」

「……? なんか含みのある言い方が怖いし、俺はカララルの所に戻ろうか?」

「い、いえっ! そんな事したらあの女がヤラランさんに……その……もう……」

「…………」


 赤面して顔を伏せるミュラリル。

 ……なんだ? 俺よりカララルが嫌いなのか?

 まだそうだと断定する発言が無いし、言及しないけど……。


「……どっち?」

「……一緒にいてください」

「はいよっ。肌寒いかもしれんが、このまま寝るか」

「……はい」


 そのまま俺は体を倒し、瞼を閉じる。

 後のことなど何も考えず、眠気に身を任せると意識は闇の中へ落ちていった。











「……どうしてそんなに、鈍いんですの……」


 隣で緑の着物を着た少年が眠りにつくと、わたくしは1人、げんなりしたように言いました。

 てつきり豪快なイビキでもかくかと思えば少女のようにすぅすぅと寝息を立てている彼。

 女性と2人っきりなのに、そのまま1人で寝てしまうなんて……。


「……酷いですわよ、まったく……」


 わたくしも帽子を外して、ぴたりと彼に張り付くように横になる。

 今はこれでいいでしょう。

 これだけでも贅沢極まりないですもの。


「……明日はもうちょっと、貴方の心で大きな存在になるよう、頑張りますわ……おやすみなさい」


 そう言って微笑み、わたくしもゆっくりと瞼を閉じる。

 意識が沈むまで、それほど時間はかからなかった。

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