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/84/:残る

 翌日も天候に恵まれ、暖かい日差しが世界を包んでいた。

 門出には良い天気だろう。

 俺たちは量の少ない荷造りを終えた後に俺が外で人を集め、改めて出発を宣言した。


「待ってくれ、ヤララン!」

「? なんだ?」


 ここを去る事を告げると、人垣の中から1人の男が俺の言葉を止める。


「ここのリーダーは、誰になるんだ……?」

「……。あー……」


 その質問は当然至極の疑問であった。

 リーダー、つまりは指導者がいないと上手く機能しないだろう。

 この街での指導者、か……。

 俺の頭にふと思い浮かんだのは……。


 チラリとミュラリルの方を見た。

 彼女は俺の視線に気付くと何故か顔を赤らめて俯いてしまう。

 王族だろうが、なんだか頼りない。


 次いで、アカルバーグ兄妹の方を見た。

 俺の視線に気付いたセイニスが我こそは!とガッツポーズを決める。

 なんだか自信ありそうだが、どうだろう……?


「ヤララン様、この街はわたくしに一任ください!」


 もうポーズだけじゃなく直接言ってくるセイニス。


「随分な自信だな。何故だ?」

「先日はお隠ししましたが、わたくし達はこの大陸に修行に来ているのです! 甘やかされて育ってしまった手前、見知らぬ環境で強くありたいと思い、一思いにこの地に足を運んだのです! 貴族としての力をつけるためにも、どうか!」

「どうか!」

「…………」


 片膝ついて両手を胸の前に合わせて懇願してくるセイニスと、それに続いてセラユルが膝を折る。

 なんともくだらない理由に呆れてしまい、俺は思わず近くに立っているフォルシーナに顔を向けてしまった。

 彼女はニコリと微笑み、唇だけを動かす。

 だが、俺にはなんと言ったのかわかった。


「却下」


 なるほど、俺と同意見らしい。


「却下だ。お前らは人の上に立てる器じゃない」

「なっ!!」

「納得のいく理由を説明願います!」

「こればっかりは自分で考えねぇと成長しねぇよ。俺が言うのもなんだが、もっと頭使って考えろ」

『……はい』


 ピシャリと言うと、2人は押し黙った。

 誰もが死に物狂いだったのに修行で来たとか、それだけでもふざけてるのに目的を公言するなんてアホすぎる。

 不信感ただならぬコイツらには任せられん。

 ということは……どうするべきか。

 他にも貴族のおっさんとかおばさんはいる。

 でも今のセイニスの発言で貴族はちょっとな……。

 ……よし。


「……キィ」

「……ん?なんだよ?」


 俺に呼ばれると、後ろにいる草を食べてた少女は顔を上げた。

 目が合うと、たった一言だけ言う。


「ここに残れ」


 たった一言で、彼女の目は点になった。


「……。え、マジで?」

「マジだ。お前が指揮を執れ」

「自信ねぇよ……。お前らが居ないと寂しいし……」


 手に草を持って、彼女は俯いた。

 俺は安心させるように優しい口調で言う。


「俺と一緒に過ごしてきたお前ができないとは思えないぜ? 大丈夫、俺と話し方も似てるしな」

「そーいう問題かっ、ての……」

「自分を信じてみろ。大丈夫だから、な?」

「……そこまで言うなら、やってやるよ」

「よし、俺の隣に立て」

「はいよっ」


 草を捨て、どっこらしょと立ち上がり、俺の横まで歩いてくる。


「……みんな、こっち見てる」

「怖いか?」

「……少し」

「安心しろ。みんな俺たちの仲間の良い奴等だろ?」

「……。あぁ、その通りだな」


 キィの迷いは振り切れたのか、彼女の目は澄んでいて背筋は真っ直ぐとなった。


「キィをこの街のリーダーにする。全員、キィの指示には従うようにっ!」

『おぉぉぉぉおおお!!』


 歓声が上がる。

 というか野郎の雄叫びみたいなのが多かった。


「なんだテメェら! キィに手ェ出したら承知しねぇからな!」

「ヤラランさんには言われたくねぇ!」

「女(たぶら)かしやがって!!」


 観衆の中から男どもの不満な声が相次ぐ。

 おいおい、いつ俺が誑かした!?


「誑かしてねぇよ! 変なことは何にもしてねぇつってんだろ!?」

「女性囲っててそんな嘘つくなよぉ!」

「嘘じゃねぇし!思い違いだわっ!」

「うっせーよ男ども!ヤラランも黙れっ!」

『はい、すいません』


 キィに叱責を受け、口喧嘩になった男達と声を揃えて謝罪する。

 そして思った。

 普通にやっていけそうだな、って。


「キィ、困ったことがあったらタルナに相談しろ。お前なら村まですぐ行けるだろ?」

「わかった。お前らこそ気を付けろよな?」

「わーってるって」


 そして、俺はキィの肩に手を置いて、踵を返した。


「後は任せる」

「頼まれた」


 揺るぎない意志のある返事を聞き、俺はフォルシーナとカララルの顔を交互に見て、出発を決める。


「行くぞ、フォルシーナ、カララル」

「はい」

「付いていきます、明主様」


 俺が街を出る方に歩み、俺が通り過ぎてから彼女達は付いてくる。

 その後ろにはキィがいなくとも、不安も迷いもない。

 上手くやれると信じているから――。


 振り返ることなく、俺たちは森の中へと足を進める。


「さぁ、ヤララン達は行った! この街は私らで頑張るぞ!」


 後ろから響く、その声に勇気付けられながら――。

これにて第3章は終了です。

2章から次章までは即興で考えた設定であり(善幻種とか、重要なところもありましたが)、4章から先が原初で必要な設定が多分に含まれます。

なんだかハーレムになってきたヤラランですが、ヒロインは最初から決めてあります。


ここまでお読みになってくださった方、どうかこの先もお読みくださると作者としては嬉しい限りでございます。


次回、第四章はキィの章ともいえます。

心の弱い作者ですが、頑張りますので、よろしくお願いいたします。

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