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/81/:花見・後編

物足りないかもしれませんが、花見は終わりなんです。

 誰がどこでいつの間に作ったのかは知らないが、花見の会場では酒が出回っていた。

 酔ったおっさん達が続出し、街の若者達に絡んだり酔っ払い同士肩を組んで歌っていたり、ワイワイ騒いでいた。


「おぉ〜、盛り上がってんじゃん」

「ん? おぉ、ヤラランか。おかえり」

「あぁ、ただいま」


 ボケーっと眺めながら言うや、キィに出迎えられる。

 当然ながら酔ってる様子もなく、というか草食ったせいで口周りに泥が付いている。

 酒なんて飲みそうになくて良いが、やはり女性としての嗜みが足りない。


「口周り汚ぇぞ。ほら、拭いとけ」

「え? あっ、本当だ」


 自分の頬に手を当てて確認するキィに緑のハンカチを渡してやる。

 素直に受け取って口元をゴシゴシと拭き、一瞬ビクッとして次の瞬間にはクシャミをした。

 そしてハンカチで鼻をすする。

 なんて失礼な奴だ。


「あ、ごめん。つい鼻かんじゃった」

「ついってなんだよ……。俺は良いけど、他の男にやったら引かれるからな? 注意しろよ? そして洗って返せ」

「へいへい。つーかさ、なんかここに居ると鼻がムズムズするんだよ。もう帰っていいか?」

「良くないから。ムズムズすんのは花粉のせいか? フォルシーナ戻ってきたらマスク貰え」

「マスク? よくわからんが、わかったよ」


 それだけ言うと、またさっき自分がいたシートの上に座り、ボケーっと周りを眺め出すキィ。

 そんな様に呆れながらも、俺は騒いでる人たちの中に紛れていった。


「見ろー! これが【最終究極俺の光(ファイナル・アルティメット・マイ・ライト)】だ!!」

「なんだそれ!!?」

「紫色じゃん! アハハハ!!」


 左手を見ると、酔ったおっさんが着物の腰帯を頭に巻きつけ、両手と頭上に禍々しい紫の光の球を出しており、ネーミングの残念さが笑いを起こしている。

 紫の花びらが舞い散る中だからこその色なのか、本当に自分の出せる色が紫なのかは定かではない。


「見よ、この吸引! 花びらを全て吸い取ってやろう!」

「いやいや、俺の吸引力の方が凄いね! 頭で吸い取ってやる!」

「きたなっ!?」

「何してんだよお前らー!?」


 右手では、地面に落ちた花びらを頭や手に魔法を掛けて吸い取っている。

 3人ぐらいの男がやっていて、何人も観客がいた。

 みんな笑っている。

 俺たちが此処に来て2週間、すっかり仲良しになったと思う。

 表面上なのかどうかはわからないが、みんなに笑顔があることは平和の象徴であろう。

 だって、平和じゃなかったら笑えないだろう?

 なら、これで良いんだ。


 もう此処は平和になった。

 一人一人で生きようとするよりも、協力した方が平和になるし、生活が容易になる。

 最初っから殺し殺され合うような場所をまるっきり変えれば、平和になるのは道理で、そんな簡単な事を誰もやらずにいただけ。

 先導できる人がいなかった……もしくはしなかっただけなんだ。

 ミュラルルのような抑止力があったのもそうだろう。

 だが、脅威は排除され、今はみんなで絆を紡ぎあえる――。


「【黒魔法(カラーブラック)】」


 3本、気を押し退けて物質創造の力を持つ黒魔法で、人が10人手を広げて横並びできるような巨大な黒のステージを出現させる。


「【白魔法(カラーホワイト)】」


 光と色を操る白魔法で幾つかの光球を生み出し、ステージに色とりどりの光を浴びせる。

 簡素ではあるが、ステージはこれでいいであろう。

 あとは演奏される曲に合わせて光の色、強弱をつければいい。


「……さて」


 くるりと身を翻せば、突然のステージの出現にほとんどの奴が行動を止め、騒ぐ声も止んだ。

 それは(さなが)ら時が止まったようだったが――


「今から演奏会を始めるぞぉぉおお!!!」

『おおぉぉぉぉおおお!!!』


 俺の一言で、全員が引き締まった笑顔がで拳を天へと伸ばした。

 深い絆を今日もまた紡がんと、みんながみんな、盛り上がりを見せる。


 そんな時、視界の端に、戻ってきたフォルシーナの顔が映った。

 不貞腐れた様子は微塵もなく、俺の事を見て優しく微笑む。

 だから俺も笑みを返し、こっちに来いと手を振って手繰り寄せる。

 フォルシーナはゆっくり歩いて来て俺の横に立ち、用事が分かっているのか、影から神楽器達を出した。

 俺も同時にヴァイオリンを出す。

 ギターは無いが、6種類も楽器があればいいだろう。


「さぁ! 告知したように演奏会だ! 誰が最初だー!?」

「俺だ! 俺に弾かせろー!」

「最初は俺が貰う!」

「お前アコーディオンだっけ! 一緒に弾くか!」

「私に弾かせてー!」

「じゃんけんしろお前ら! もしくは纏めて演奏してくれー!グループ作ってもいいし独奏でもいいぞー!」


 声が飛び交う中、あまり縛りのない指示を出しておく。

 俺たちの周りの楽器をかっさらって行って、演奏の邪魔にならないように2人で舞台から退散した。


「ここも、平和になりましたね……」

「だなっ。しかし、ここはまだ大陸の初めだ。早く進むためにも、来週にはここを出るぞ」

「承知しました……」


 俺の言葉を肯定するフォルシーナ。

 そこにあるのは憂いのある瞳ではなく、明るい少し艶やかで優しい瞳だった。


 やがて、音楽の演奏が始まる。

 明るい演奏の音の方に人々は寄せられ、ステージの前は混み合っていた。

 ここも、もう大丈夫だろう。

 あと、懸念なのは――。


 ミュラリルに目を向ける。

 彼女はシートに体育座りで座りながら舞台の方を興味深そうに眺めていた。

 最後の懸念、それは、彼女の自国での扱いだった――。

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