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/69/:死人へ

 ミュラルルの遺体が見つかったのは、日中を少し過ぎた頃だった。

 フォルシーナに監視を付けたかと問われ、俺は慌てて数人付かせた途端に監視達が報告してきたのだ。

 報告者達とフォルシーナを伴って、俺は急いでまた薄暗い空き家を目指した。


「ミュラルル……」


 その一室にある遺体は、笑っていた。

 目を瞑り、不敵に笑う彼の顔は実に彼らしい。

 横に倒れた椅子にへばり付けられたまま、彼は口から血を流して――。


「……ヤララン、犯人に心当たりはありますか?」


 フォルシーナが横から問いかけてくる。

 俺は首を横に振った。

 ミュラルルは、自分で多数から恨まれていると語っていた。

 だからこうなったのも仕方ないのかもしれない。


「ふむ……」


 顎に手を当てながら、フォルシーナがミュラルルの口元に指を当て、その指を自分の鼻先に持っていき、匂いを嗅いだ。


「……毒殺じゃないですね。匂いがしませんし、食べ物を吐いた形跡もない」

「……て言うと?」

「自決、もしくは呪いみたいなものでしょうね。呪いなんてのは根も葉もない表現でしたが、契約違反だから、みたいな罰則か……口封じに殺されたとか……」

「…………」


 俺は眉を半分下げて口を(つぐ)んだ。

 口封じとフォルシーナが言って、死因をもう理解した。

 俺に殆ど喋ったから、コイツは――。


「……心当たりが……あるんですね?」


 俺の表情から察したフォルシーナが恐る恐る尋ねてきた。

 今度は俺も、首を縦に振った。


「ミュラルルは、自分の死を予期していた……。多分、出身国のアルトリーユの魔法使いが、遠隔的に殺したんだろうな……」

「……左様ですか」

「……監視されてんだろうな。ミュラルルは、自分の死体の処理はきちんとしろと言ってた。燃やすか埋めるかって……。死体を介して、俺たちの様子を探らせないように……」

「……ヤララン」


 肩が、少し震えた。

 なんなんだよコイツさ、ほんと。

 悪人ヅラしてたくせにさ、忠告までくれやがって……。

 お前本当は――良い奴だろ――?


「……人が死ぬたびに泣くのはやめてください」

「……うっせー」


 普通に話せて仲良くなれそうだったのに、死んでしまうなんて悲しかった。

 だけれど、泣いているわけにもいかない。

 今現在も見られてるかもしれないなら、言いつけ通りに死体を処理しよう。

 目元を伝う涙を腕で拭い、フーッと息を吐いて自分を落ち着かせる。


「……火葬しよう。いいか、フォルシーナ?」

「もちろんです。ただ、見られてるなら人目に付かないよう、こっそりやるのがいいでしょう。悪を増やそうとアルトリーユ側が(おこな)ってるのに、私達が街の再興しようだなんて知られれば国総上げで潰しに来るかもしれませんよ? 100人近くの私たちでは軍隊に勝てませんからね」

「もう、バレてるんじゃねぇのか? 声とかは……」

「魔法作ってる身としては、声を拾って届けるというのは、今の人類だと難しいですね。私ならできなくもないですが、あと10年は声を拾えないでしょう」

「……そうか」

「ましてやアルトリーユなんて小国では厳しいです。だから【無色魔法】の遠隔投射で途切れ途切れの映像を見るのが精一杯かと。ですので、再興している様子を見せずに火葬するのが最善ですよ」


 魔法の技術に優れたフォルシーナが言うのであればほぼ間違いはないだろう。

 俺は頷いて行動を決めた。


「わかった。じゃあ、人目のないところまで飛ぶぞ」

「はい」


 遺体は見ているのも辛く、黒魔法で作った長方形の箱――それは(さなが)ら棺桶――で包み、俺たちと共に無色魔法で浮遊した。












 火葬は終わった。

 街から遠く離れた森の中から狼煙が上がっている。

 燃えていたものは言うまでもない。


「……演奏は終わりだ、フォルシーナ」

「はい……」


 そうして俺たちは静かに楽器を下ろした。

 先程まで流れていた鎮魂曲も今は木陰の中へと消えて音もしない。

 緩やかな風の音が耳に入るのみで、その儚さは形容できない。


「……なんで逃げなかったんだろうな」

「……はい?」

「コイツなら逃げようと思えば逃げられた。俺に追いかけられれば厄介だろうけど、死を待つよりはマシだった筈なのに……」


 やがて燃焼対象を失った炎は風により消えた。

 残った灰と黒ずんだものがゆらゆらと揺れている。


「……誰かに伝えたかったんでしょう……自分の事を。そして、貴方に変えて欲しかったんだと思いますよ。この酷い世界を……」

「……そうか」

「はい……」


 納得のいく回答ではあった。

 街を再興しようと言った俺をどう捉えていたのかはわからないが、少なからぬ希望は持っていたのかもしれない。

 餌場だったからと俺達を襲いつつも、この現状がなんとかなるんじゃないかって、希望を持って――。


「……【緑魔法(カラーグリーン)】」


 土を操り、燃え残ったものを土に埋めた。

 少し盛り上がった土にネムハイルの剣を突き立てる。


「……じゃあな、ミュラルル。お前の事は、勝手に()い奴だと思っておくよ」


 楽器を自らの影の中へと落とす。

 そして静かに、俺たちはこの場を過ぎ去った――。

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