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/64/:悪と信用

「ラァァアアッ!!」

「クッ――!」


 あれから5分ほど経っただろうか。

 俺とミュラルルの戦いは圧倒的に俺が優勢だった。

 どんな魔法が来ようと空間を手で破って無力化し、こちらは“掴めば”勝ちなのだ。

 距離を詰められたらもはや勝ち目などない。

 ましてや空中、逃げるしかないのだ。


「シィッ――!」


 男の肩に目掛けて腕を振るう。

 移動するのはミュラルルの方が速く、後ろに後退して腕は空を掴み、ビリビリに引き裂く。

 引き裂かれた青色は布のようにヒラヒラと落下していき、俺はまたミュラルルを追う。


「当たりやがれっ!」

「嫌だねっ! そんな反則技、喰らってたまるかいっ!」


 風邪を切る音と共に俺の腕は乱暴に振るわれる。

 狙いを定めた彼の懐は当たるよりも早く上昇してまた空を破く。

 俺の後ろにはもう、破かれて出来た大の大人2人分ほどの灰色の穴が幾つもできていた。

 それだけ避けられたのだが――当たるまで追い続けてやる。


「チイッ! いつまで持つんだ君は!? いい加減魔力切れになれよ!!」

「生憎、こちとら世界一善魔力が多い男なんだよっ! 【力の四角形(フォース・スクエア)】ァアア!!」

「【拡大空間(スペース・スプレッド)】!」


 発動したオレンジの四角形から出た圧力の塊は真っ直ぐ風を唸らせながら向かうも、ミュラルルが両手を広げれば空間ごと中心から左右に裂かれ、望まぬ方向に飛んでいく。

 それでも構わない、隙ができるのならば。

 力の四角形を発動した瞬間に、俺は四角形を避けて飛んだ。

 風邪を切る音と顔に当たる空気は痛く、けれど標的は見逃さず。

 俺は、奴の手を掴んだ。


 ビリリッ――!


「ッ――」


 乱暴に掴んだ空間は引き裂け、ミュラルルの左手が乗った布状のそれを、俺は捨てた。

 ミュラルルの左腕は肘から下が見えず、灰色の空間にそのまま結合する。


「なっ――! 動けな一一!?」

「降参しろ。お前じゃ俺に勝てない」


 右手をミュラルルの顔手前で広げ、降参を促す。

 力狩りの前には何もかもが無意味だ。

 コイツに勝ち目など、初めからない。


「……降参したところで、君達は俺をどうすると?」

「安心しろ、殺す事はない。暫く拘束するが、飯も出すし拷問はしねぇから気軽に捕まりやがれ」

「……へぇ」

「取り敢えず、剣は没収だ」


 左手で人差し指をくいっと手前にやると、ミュラルルの持つ剣は奴の手から離れて宙に浮いた状態になる。

 普通にミュラルルは強かった。

 こんな奴に武器なんて渡しておくわけにはいかない。


「……それで? 俺はまだ動けないから見張ってる、と?」

「いや、どうせ何もできないだろ。遠距離攻撃されりゃ厄介だが、なんとかならんでもないしな。降りさせてもらう」


 俺はミュラルルに翳した手を離し、彼に背を向けた。

 少しずつ離れ、ゆっくりと下降を始める。


「…………」


 すると、後ろから何かを呟く声が聞こえた。

 空気を裂き、何かがこちらに向かってくる気配がある。

 最早その何かの影は俺を覆い、今すぐに食らおうとしていた。

 まったく、背を向けたらすぐそれかい――


「【二重/力の四角形(デュアル・フォース・スクエア)】」


 振り向かず、ただ呟いた。

 背後に巨大なオレンジの面を2枚出現させ、後ろ向きに空気の塊を放出させる。

 チラッと背後を見れば、巨大な炎の塊は圧力に消滅させられ、慌てふためいたミュラルルが見えた。

 俺はなんとも言えない表情で溜息を吐き、魔法をキャンセルする。

 今アイツを吹っ飛ばすと、もう腕も戻らなくなるから。


「大人しくしてろ。次はない」

「……ッ〜」


 冷や汗満点でこちらを睨んでくるミュラルルから身を翻し、俺は再び下降を始めた。

 まったく、これだから悪い奴ってのは信用できないねぇ。











 降りればまず、【赤魔法】を纏って全速力で走ってきたカララルに抱きつかれた。

 それで俺もろとも吹っ飛んだが、【無色魔法】で浮かせといて今では何もできずにいる。

 それから、キィが無傷なことに驚いた。

 結構な高さだったのになんで無傷なんだと思ったが、死んでるよりは何百倍も良い。

 後からはフォルシーナとアカルバーグ兄妹と俺の方にやって来て、無事を確認し合った。


「圧勝でしたね〜。流石は私の考えた魔法」


 フォルシーナが胸を張って【力狩り(フォース・ハント)】を褒める。

 俺が使ってる魔法なんて大概はコイツが考えたものだが、そこは使い手の俺を褒めろよ。

 褒められても気持ち悪いから別にいいんだけどさ……。


「使い手の俺がいいんだろ」

「そうですそうです。流石はヤララン様」

「あの男を打ち負かすとは、お見事です」

「まぁアイツがここらでどんくらい強ぇのか知らんけどな。俺の敵じゃねぇよ」


 アカルバーグ兄妹の讃美を受け取り、少し調子に乗った発言をしてみる。

 ミュラルル自身も自分は王の次に強いとか言ってたし、それなりの強さなのは実際に戦ってて、動きが俺と同等だったりするからわかるんだが……。

 王? 王って誰だ。

 王が居るってことは……この大陸に――国があるのだろうか?

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