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/63/:劣勢

「ほらほら、人が自己紹介したんだから、君たちも自己紹介したらどうなの? そういう常識ある?」


 片手を腰に当て、もう片方の手でピッと俺たちを指差すミュラルルという男。

 よくわからない男だった。

 これから俺たちを殺すつもりなのに自己紹介を求めると?

 なんだコイツは……。


「私はキィ、コイツはヤラランだ」


 さらっとキィが名を教える。

 するとミュラルルはうーんと唸り、首を傾げる。

 少しすると何かを思いついたのか、彼は人差し指を立てた。


「あ、聞いてなかったや」

「はぁっ!? ふざけてんのかテメェ!」

「うるさいよ? まったく、下品な女だなぁ。別に名前を聞いてあげるとは言ってないしぃ〜? ねぇ〜?」


 クスクスと笑い、こちらを挑発してくる。

 キィは無言のままに刀を赤く発光させていて、今にも飛び出しそうだった。


「おい……あまりふざけた事抜かすと脳みそ撒き散らすことになるぜ?」

「さぁて、どうかなぁ〜? 俺に勝てる奴なんて“王”ぐらいだし? ぽっと出っぽい君達が束になっても俺には勝てないと思うけど?」

「口だけはよく回るじゃねぇか。ぶっ潰す!【赤龍技(せきりゅうぎ)】――」

「クククッ、やってみてよ。あー、姿消すと卑怯とか言われるかな? 消さないであげよう!」

「おい、待てキィ――」

「【轟力閃赤(ごうりきせんか)】!!!」


 俺の制止も全く聞かず、キィは刀を一閃した。

 発生した巨大な衝撃波はすぐさまにミュラルルに届き――通過した。


「なっ!?」

「そんな力技で勝てるわけないじゃん?ね ?そもそもさ、俺は飛んでるんだから【無色魔法】使えるのわかるよね?【無色魔法】で空間を少しの間引き剥がしちゃえば、そんな大雑把な攻撃はいくらでも避けられるわけ」

「なるほどね。わざわざご説明、ありがとよぉ!!」


 言うや否や、キィは飛び出した。

 遠距離攻撃が無効化されるなら近距離で対処すればいい。

 だけどそんな事は、相手だって承知のはずで――


「ネムハイルの(つるぎ)――」


 キィが突きの構えを取りながら目前に迫るのに対し、男は後方に下がりながら刀を悠然と構えた。

 構えもなく、片手を腰に当てているが――目つきが変わった。

 先ほどまでのふざけた雰囲気は、今の彼にはどこにもなく――。


「キィ!退けぇ!」


 脳内で危険を察知した刹那、俺はキィを追っていた。

 しかし、追うのも叫ぶのも、あまりにも遅過ぎた――。


「【青龍技(せいりゅうぎ)】、【氷雪旋舞(ひょうせつせんぶ)】!!!」

「【帝槌の破壊(エンハンマー・ブラスト)】」


 至近距離にて2人の魔法が発動された。キィの突きから放たれた吹雪の竜巻、それはミュラルルの刀一振りで真下を向き、キィ自身も地面に向かって垂直に落とされる。

 目にも留まらぬ速さで吹雪もキィも地面に吸い込まれ、轟音と共に衝突した。

 巻き上がる土埃がキィの生死を不明にするも、上空から落ちて生きているかなんて、そんなものは明白だった。


「――【力狩り(フォース・ハント)】」


 ならば、俺がコイツをぶっ潰すのに、憂慮は何もない。

 全力でぶっ倒す――。


「1人死亡〜。次2人目〜」

「生憎と次はねぇよ。敗北するのはテメェだ」

「そう? ククッ、だったらいいねぇ〜?」

「行くぞ」


 薄笑いを浮かべる金髪の青年に向かって、俺は最大出力で飛んだ――。











「【空抱擁(エア・イムブレイス)】」


 なんだか不穏な空気なのは即座に読み取れたために私の対応は早く、キィちゃんの落下予測地点に暖かな空気の団塊を用意しました。

 ですが――次にやってきたのは吹雪と風の塊であって、およそ空抱擁は意味を成さなかったでしょう。

 だけれどキィちゃんの体も、地面に跳ね返った【氷雪旋舞(ひょうせつせんぶ)】によって受け止められたことでしょう。

 多少傷は追ってるでしょうが、今から治しに行きましょうかね。


「セイニスさん、セラユルさん。少しここでお待ちくださいね。カララル、私達は行きますよ?」

「ライバル死んだ! グッジョブ!」

「そんなこと言ってると八つ裂きにしますよ? ほら、来てください」

「ヒィ!? は、はいっ!」


 愛故の悪意とでも言いますか、それがだだ漏れなカララルを伴って私はキィちゃんの所までのんびりと歩いて行った。

 【氷雪旋舞(ひょうせつせんぶ)】によって立った土埃も晴れ、地面に叩きつけられた後もなくただ倒れているキィちゃんを見て安堵する。

 なんとか無事で外傷もないみたいでした。

 この子にはなるべく死なれて欲しくありませんからね。

 無茶しないでほしいですが、ヤラランに似てるからどうとも言えませんねぇ。


「空中戦だと、カララルも援護できませんか……」


 空にある豆粒大の2人――ヤラランと変な男を見ながら呟いた。

 接近していて、しかも力狩りを発動しているなら時期に決着がつくことでしょう。

 あの技は全ての攻撃が通らないし、掴まれたら空間ごと破壊ですからねぇ……元に戻るのに数時間ですし、心臓を止めるにはゆうに足ります。

 そうでなくても、相手を戦闘不能にするには幾らでも可能ですからねぇ。

 負けることはないと思いますが、念を入れておきますか。


「カララル。私は少し様子を見てきますね」

「え、はい」


 曖昧に頷く彼女を見て、私は羽衣で空を飛んだ。

 あの青年がやったように、体の色を晴天に変えて――。

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