/5/:没収
森に差し込む優しい光は木々に触れて大地を活性化している。
日差しがまばゆい、心地のいい朝だ。
結界を張って、森の中でそのまま眠ったのだった。
「……ん。眠っ」
俺は眠たい体を起こし、のそのそ座って胡坐をかく。
辺りを見渡すと、火が消えて燃えカスだけ残った炭、大の字で寝転がるフォルシーナ、そして――
「よぅ、起きたのか」
ちょっと口の悪いキィが、昨日よりも緩んだ吊り目で俺を見ていた。
男らしさ全開に胡坐をかき、膝に肘を付けて頬杖を着いていた。
「……おー、起きた。お前朝はえーな」
「習性だよ。いつ寝首かかれるかわかんねーからな」
「……大変だねぇ」
結界の中に自分で結界張っておけば安心だろうが、【無色魔法】が使えるかどうか知らないし、言わないでおく。
「じゃ、朝から悪いけど、ワイヤー野郎の奴の事聞かせてもらえないかね?」
「……相方には聞かせなくて良いのかい?」
「いいよ。どうせ戦うの俺だし、それに……」
「それに?」
「イキナリ戦ったらフォルシーナが驚くだろ。その方が面白い」
「…………」
何故だか白い目で見られる。
開発担当であるフォルシーナに戦いなどさせるわけがない。
フォルシーナが聞いて戦法を考えるのもいいが、それぐらい俺でもなんとかなるだろう。
わざわざ起こす理由がない。
「……ま、私は何人に教えようが構わないけどね。いいよ、始めよう」
「おう」
キィが小さく手を叩き、さぁ訊いてくれと言わんとする。
俺は顎に手を当て、何から聞くかを決める。
「得意技は?」
「【赤魔法】の【炎の鞭】。火の鞭で相手を縛り上げて焼き殺すのさ。ただ、それは私が見た限りであるし、暗殺に近い形だ。平地で堂々と戦い挑むってんなら他にあるだろうね」
「はーん、なるほどね。火、火か……」
この世界では、1種類魔法が使えるのが普通。
2種類の魔法が使えるのは珍しい。
3色なら国家魔導師レベル。
結界と火――無色と赤で2種、かなりの使い手なのかもしれない。
それでも全色使える俺の敵ではないのだが。
「基本的には【赤魔法】の魔法弾飛ばして翻弄させて鞭で捉えるってスタイルかな。森で上から見てたけど、かなり悪質だよ」
「でも、森でないとできないほどなんだろう? つまり、魔法弾は発射間隔か球自体が遅い、違う?」
「正解だよ。発射間隔は遅かった。なるほど、遅かったのは森でないと翻弄できなかったのね」
それを聞いて、俺は一つの結論を下す。
「こりゃ雑魚だな」
腕を組み、あっけらかんと言う俺をキィがボケーっと見ていた。
それから1時間が経ったか、その辺り。
俺たち3人は森を出て村らしき所に戻ってきていた。
日の光があると言うのに粗野な木の家並みは全て閉ざされており、しかも人通りはない。
表を歩いているのは俺達だけ……。
「……気味が悪ぃな。なんで道があるのに人が通らないのかな、キィさんよ?」
「表を歩くなんて、ハイ狙ってくださいと言ってるようなもんだ。アタシ達はお前の結界があるから兎も角として、普通の人は通ろうとしないよ」
「……そーかいっ」
嫌な話である。
因みに、歩きながら張っている結界は昨日使ってた物と同じである。
移動と同時使用は可能だ。
「……ヤララン、件の家が見えて参りましたよ」
「そーだな」
「どうするのです? 家主を呼ぶにしても、出てくるようには……」
「ここは一発カマすに決まってんだろうが」
「……やっぱりそうなるんですね」
と言った所で、背中に背負ったヴァイオリンをグッと引っ張られる。
俺は立ち止まり、背中を見た。
フォルシーナが楽器ケースを冷めた顔で掴んでいた。
「……言いたいことあんなら言えよ」
「楽器は取り上げます。ダメです。戦いで使うのは許しません」
「魔力40倍にするって援助だけじゃん。まぁ、いいけどさ」
両腕を後ろに回し、スルスルとケースが落ちていく。
フォルシーナがケースを捕まえ、黒魔法の影にしまった。
「律儀な奴だなぁ、お前は」
「フ、楽器は人間同士の戦いに巻き込んではなりませんから」
得意顔で主人の死亡率を上げるフォルシーナさん。
敵陣近くでなにしてくれるんだか。
しかし、相手は弱い。
それがはっきりしている中、別に困ることはない。
「ほら、行くぞ」
「はーいっ」
「…………」
乾いた土の上を踏み、いよいよ昨日来た所まで戻ってくる。
特に作戦も立てず、ここまで来てしまった。
だが、やることはやろう。
「お前ら下がってろ。フォルシーナ、わかってるだろーが、いざって時はキィと離脱してくれ。結界は自分で張れよ?」
「了解です」
「キィ、お前は――」
何か言おうとして、キィの顔を覗く。
が、何も浮かばない。
「……今日の昼飯の事でも考えて待ってろ」
「……はいよっ。なぁ、ヤララン」
「あ? なんだよ?」
「頑張んな」
「……あん?」
まさかの一言に、疑問を返してしまう。
するとキィは悪戯っぽく笑った。
なるほど、からかったらしい。
俺がからかって昼飯云々と言ったとでも思ったのだろう。
「……ボチボチ頑張るかねぇ」
それだけ言い聞かせると、フォルシーナがキィの手を引いて後ろに下がる。
数メートル離れた所まで確認すると、俺はワイヤー向こうの家に向き直った。
「……世界一善魔力の多い男、一丁やりますかっ」
メイルの背に差し込まれた剣を、俺は静かに抜いた。