/45/:ナルーの力
まぁ普通、って話です。
「お前、世界一善魔力多いとか言ってるけど、ただ世界一バカ魔力が多いだけなんじゃねぇか?」
「んな魔力存在しねぇっつーの!」
唐突に言われたキィの蔑みの含んだ発言を突っぱねる。
いや、唐突でもない。
俺が猫に囲まれてたら眠くなってきて昼寝ブッこいてたのが原因だというのは勿論わかってる。
「西大陸を平和にしたいのは、お前の脳内が平和だから現実の混沌が満足なんねえからなのかな? 私にはわかんねぇや」
「わかんなくてよろしいっ! いいじゃん昼寝。眠かったら寝る。コレ、俺のいつものスタイル」
「呑気にしてるとケツに【雷撃】食らって死ぬぞお前」
「女がケツって言うんじゃねぇ!!」
「私の勝手だろ!? つぅか怒るとこソコかよ!?」
「ま、まぁまぁ2人とも……落ち着いて」
些細なことで怒り心頭の俺たちの間にメリスタスが割って入る。
場所はちょっと寒いが元村長宅のリビング、真昼間だというのに俺たちのせいで喧騒が絶えなかった。
「勝手だって言うなら俺の昼寝も勝手だろうが。そんな怒んなよアホ」
「心配して言ってんだろうがバカ。ヤラランは西大陸舐めすぎなんだよ。いつ襲われてもいいようにしてろっての」
「はいはい、わかりましたよっ……もう知人がいない所で勝手に寝ねぇから。これでいい?」
「それなら良いぞ。まったく、困った男だぜ……」
やれやれと言いたげに肩を竦め、腰に手を当てるキィさん。
世話焼きな所は良いんだがアレだな、どっかのおかんみたいだ。
……将来、もしキィに子供ができたらその子は大変だな。
とにかく喧嘩は収集がつき、話題も無くなってシーンと静まり返った。
動物も割と集まってるが、戯れあってたり寝転がったりと騒がしくない。
「お坊っちゃま、そろそろ食事に致しましょうか」
「あ、うん。そうだね」
ここでなりを潜めていたナルーが提案し、メリスタスが承認する。
食事ということは、ナルーの能力を近場で見れるということか?
これは興味深い。
口から吐き出して作りだすとかだったら最悪だけど……とにかくそうでない事を祈ろう。
「じゃ、僕はみんなを呼ぶから」
「お願い致します」
「ん? また手を叩いて呼ぶのか?」
「そうだよ〜。声を出すより響いて凄いんだからっ。じゃ、呼んでくるね〜」
尋ねてみると陽気に笑いながら答え、艶やかなオレンジの髪を揺らして退室して行った。
ほほう、手を叩く、手を叩くねぇ……。
「キィさんよ」
「あん?」
「これはもうあの楽器しかねぇと思わねぇか?」
「は? いきなりどうした? というかニヤけんなよキモいなぁ」
「お前は一言二言多いんだよ!」
「おおっとスマン。本音が口から出やすくてな、つい……」
「てことはそれ全部本音か。良いだろう、後で決闘でも――」
俺の言葉は、すぐさま耳を襲った爆音に掻き消された。
パァァアアアンと、とても大きな衝撃音。
それが2回、3回と繰り返される。
咄嗟に俺たちは耳を塞いで鼓膜が破れないようにした。
やがて音が止み、テトテト歩いてメリスタスが戻ってくる。
「みんなも外出て〜。ここだと全員入れないからさ」
「……お前、手加減とかしねぇのな」
キィがゲッソリとした顔で呟く。
メリスタスは不思議そうに小首を傾げた。
「え、なにが?」
「……なんでもねぇ。外出るよ」
「うん、お願いね」
メリスタスが先行し、後からゾロゾロと動物|(ほぼ猫)と俺たちが外に出る。
陽はおよそてっぺんに位置し、雲が一つか二つあるような良い天気。
いかん、また昼寝したくなってきた。
「それじゃあみんな……とヤラランくんたちも、適当に座って」
「ん? おう……」
ナルーとメリスタスを前に、猫達、俺とキィ、その他の大きい動物という配列で並んで俺たちは座った。
俺たちの前にはなんかもう100匹以上猫がいる。
なんだコレ、すげー幸せ。
「なぁヤララン。まさかあの牛、吐いたもん食わせたり……」
「やめろ、言うんじゃねぇ……」
同じことを思っていたらしく、キィが不安を口にする。
そしたら流石に俺も嫌だ。
「じゃあナルー、お願いね」
「畏まりました」
生唾を飲み込むような思いだった。
さて、どうやって何ができるやら……。
ナルーは目を一度閉じ、気を落ち着かせている。
やがて一気に刮目し、強く鳴いた。
「モォォオオオオオ!!」
刹那、ナルーの頭上に光の塊が出現する。
大きい塊で、大人でも抱えきれないような大きさの丸っぽい塊。
光が収まってくると、生魚や串に刺さった焼き魚やら切り身やら、魚類ばかりと少量の草が混ざった塊だった。
塊は空中で分解されていき、どさどさと地面に落ちていく。
『……おおー』
俺たちは重ねて驚嘆する。
とにかく予想とは外れて良かった。
しかも思ったより面白い光景で楽しかった。
「適当に分け合ってください。足りなければまた出しましょう」
そう言ってナルーがニコリと笑い、猫達が我先にと魚を奪いに向かう。
カッコいい、なんだあの牛、ただの牛じゃねぇ……。
いや、冗談じゃなくカッコいいぞ。
「なぁヤララン。見た感じ生魚ばっかだったろ?」
「え? おう、そうだな?」
「だから私が手加えて料理するよ。今日は機嫌悪くしてて悪いと思ってたし、なっ? いいだろ?」
「……別に気ぃ遣わなくてもいいのによ。しかし、確かに料理はして貰いたいね。頼む」
「おうっ! 任せろ!」
にひにひと擬音が聞こえそうな笑顔で応じ、キィがナルーの出した魚へと向かっていく。
……こうして見るとやっぱり家庭的。
……ホントにもっと言動や行動が女らしければ完璧なんだが、これからなってくれればなぁ……。
「えっ、キィちゃん料理するの? わー、凄いねー」
「別にそんな凄くねぇけど……そうだ! お前もやるか!」
「え! やるやる! わーい、頑張るぞ〜」
「…………」
なんだあの2人、仲良いな。
……女っぽいメリスタスと男っぽいキィ。
――これは!?
まさか!?
……いや、ないか……。
俺がくだらぬ妄想を膨らましかけてる間にナルーはまた昼寝を始め、キィ達は料理をしにどこかのリビングに向かって行った。
他にも、メリスタスの料理を俺が実食して腹を下したり、追尾球体に着色して空気圧縮の爆発を擬似花火として楽しんだり、猫に囲まれてまったりしたりと、濃密な1日を過ごした。
そして夜が来る。
陽気な頭を切り替え、戦闘に備える夜が――。




