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/38/:問答

 どこかからか聞こえた破裂音のようなものに、私は一瞬心臓が止まったように感じた。


「……な、なんだ?」


 しかも目下の動物達は駆け足で散らばっていき、周囲から消え去った。

 動物達の走る先を見る。

 人が居る。

 オレンジの髪をした黄色い着物の女が手を叩いている。

 音の原因も奴らしい。


「……なんだ? どうなってる?」


 ひとまず近場の建物の屋上に降り、影から太鼓を取り出す。

 オレンジ髪は何かを動物達に言いつけ、それから大きな建物の中に入っていく。

 その後には動物達も続いて行った。


「……なんだ?あんな大勢……まさか――」


 ヤラランが捕まった?

 いや、私と離れてからまだそんなに時間ぞろぞろとも経ってない。

 殺されたにしても、血の跡なんて見てない。

 いや、屋内に侵入して殺された――?


「……ヤララン!」


 外にいる動物は1匹も見えない。

 今なら自由に動ける。

 私は太鼓を肩から背中に下げて飛び降り、着地せずに低空飛行で奴らの入ってった建物の周りを飛ぶ。

 中でも一番煩い部屋、そこの窓を覗き込む――。


「クソ猫テメェ! 骨を俺に投げつけんじゃなねぇよ! 痛っ!?」

「キシャァアアアアア!!!」

「ニャモ〜」

「メェエエエエ!!」

「羊! お前は参戦しなくていいんだよ!」

「ほらほらみんなやめてっ。ヤラランくんも困ってるから……」

「…………」


 初めに見えたのは猫に向かって骨を投げつけるヤラランだった。

 そしたらガヤガヤと他の奴らも喚きだして、なんか和気あいあいとしている。

 …………。

 ……。


「……なに遊んでんだテメェッ!!!?」

『!?』


 とりあえず叫んだ私は、きっと悪くないだろう。

 心配するだけ損だった……。











 重たそうな足でキィが表から部屋に入ってくる。

 凄く頰がヒクついていらっしゃる……。

 ……なんかあったのか?


「ヤララン、テメェ……」

「な、なんだよ……?」

「……後で覚えとけよ」

「…………」


 それだけ言って部屋の隅に座って猫と戯れ始める不機嫌なキィさん。

 俺の方も引きつった笑みしか返せず、似たり寄ったりになってしまった。

 ……なんか悪りぃことしたかな?

 後で聞こう。


「ヤラランくんのお嫁さんって怖い人だね〜」


 メリスタスが肩やら膝下に猫を携えながらなんでもないように言う。

 俺は吹き出してしまい、慌ててその言葉を否定する。


「嫁じゃねーよ!」

「えっ? そうなの?」

「違う違う、キィっつーんだが、まぁ家事もできるし女らしい部分もあるけどまだまだ嫁入りにゃ程遠いからな。仲間だが、嫁じゃあねぇよ」

「そうなんだ……お似合いだと思ったのになぁ〜」

「お前は俺らを見た一瞬で何を悟ったんだ……」


 眉を(ひそ)めるあたり、本当に残念そうだった。

 見た感じで判断するなよ……。


「そんな事より、話があるんだよ。聞け」

「あ、ごめん。どうぞどうぞ、話して?」

「……おう」


 苦笑しながら催促するメリスタス。

 漸く本題に入れそうだが、さて、何から訊いたやら……。


「……なんでこんなに動物がいるんだよ? なんのために集めてるんだ?」


 部屋を埋め尽くすほどの数の動物を見ながら尋ねる。

 これだけの動物を一箇所に集めるのは苦労した事だろう。

 何の目的があるのかは気になるところだ。


「うーん……お母さんが動物に好かれやすくて、気が付いたらこんなになってたから、僕にはなんとも言えないな……」

「お母さん?」

「うん。衰弱死しちゃったんだけどね……」

「……。悪りぃ、嫌なこと思い出させちまったな」

「ううん。もう1年くらい前のことだから……」

「1年、ねぇ……」


 それは少なくとも1年は此処にいるってことか?

 動物達と隊列をなして動こうだなんて普通は思わないだろう。

 さっき追いかけっこした時の動物達の動きも街に慣れていたものだったし、結構な間ここにいるはずだ。

 だがそうなると、問題があるはず。


「食いもんは無いのか?」

「食べ物? 食べ物はね、ナルーが必要なだけ出してくれるから大丈夫。向こうの方に果樹園や川もあるしね。僕は行かせてもらえないんだけど……」

「……さっきも名前を聞いたけど、そのナルーって奴はなんなんだ?」

「私でございます」

「!?」


 3人しかいない部屋に、聞き慣れぬ声がして驚嘆する。

 声を発した者、それは6本足の牛だった。

 猫を何匹も背中に乗せてつぶらな瞳で俺を見つめてくる。

 まだら模様がついているし、乳牛だろうか?

 いや、どっちでもいい。

 牛が喋っているだなんて、俺は夢を見てるのか?


「……ナルー、さん?」

「はい。なんでございましょう?」

「……牛?」

「牛でございます」

「…………」


 頭が痛い。

 なんだ、喋る牛って。

 商人として動物の名前はある程度わかるつもりだが、こんな種類は聞いたこともないぞ。


「ナルーはね、善幻種(ぜんげんしゅ)なんだよ」


 と、俺の疑問を表情から読み取ったのか、メリスタスが答えてくれる。


「善幻種? なんだよそれ?」

「人間に善悪があるように、動物にも善悪があるの。その中で善意が強いと、1つ階級が上がって固有能力と言語を備え、姿が変わるの。大昔に1頭か2頭しか目撃されてないらしいよ?そう本で読んだんだ〜」

「……成る程ね。それで固有能力が……」

「食物を生み出す、というわけでございます」


 牛の表情など読めんが、ナルーが目を閉じてニコリと微笑んだ……気がする。

 なんつーか……不気味だな。


「善幻種について書いてある文献さ、僕が読んだ限りでも10行ぐらいしか書いてなかったし、知らないのも無理ないよ」

「そりゃ6本足の牛が俗に伝わってたら衝撃的だからな」

「そ、それもそうだね……」


 メリスタスは苦笑し、ナルーは足をたたんでその場で丸くなる。

 まぁ、大体この村跡の事情も理解した。

 そもそも動物が多過ぎて迂闊に動くべきじゃないし、食べ物に困るわけでもなくずっと根城にしてる、と。


「……話は大体わかったよ。ありがとな」

「ううん、いいよ。でさ、こっちからも質問していい?」

「もちろんだ。答えてくれたからこっちも答える」

「わぁ、ありがとう……」

「……その前に、もう1つだけ訊いてもいいか?」

「え? なに?」

「……お前、男?」

「…………」

「…………」

「……男だよっ!?」


 しばしの沈黙の後、顔を真っ赤にして答えてくれた。

 髪なげーしなんかなよなよしてるし、わからんわっ。

実は女ではない。

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