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/3/:協力

 村から少し離れた森の中、その中で座れる様なスペースを見つけて三角形を描く様に三人で座る。

 俺の光魔法は三人の中心、その頭上に浮遊していた。

 聴こえるのは海の波音と風の音、夜の森では少し怖いくらいだった。


「……さて、まずは自己紹介でもしようかねぇ」


 あっけらかんと言ってみる。

 明るく言ったつもりだったが、少女の方は鋭い視線で俺を見つめている。

 警戒は全然解かれていない。


「……俺はヤララン。商人だ。こっちで肩書きが意味を持つかしらねぇけどな。で、こっちがフォルシーナだ。はい、挨拶して」

「フォルシーナです。ヤラランの従者を勤めてます。よろしくお願いします

「…………」


 フォルシーナが商人の顔でニコニコと挨拶をする。

 少女は顔色一つ変えず、口を小さく開いた。


「……キィ。そう呼んで」

「おう。よろしくな、キィ」

「…………」


 開いたてをキィに伸ばす。

 多少ためらいながらも、キィは手を握り返してくれた。

 しかし握手した手はすぐに離され、キィが話を進める。


「それで、何が訊きたいの?」

「取り敢えず、制度とかだなこの大陸はどんな制度で生活してるんだ?」

「……制度ねぇ」


 少し言い淀んでから、キィは言った。


「そんなものはないよ。法も秩序もない。ただやりたい様にして生きている。自分で殺した死体は自分で埋めるのが暗黙の了解だけどな」

「はーん……。自治区とか、ないのか?」

「自治なんてないさ。いや、自分自身だけを皆自治してる。手を組んで生きる奴もいるけど、半年と立たずに破綻する。私も一回裏切られて殺されかけたよ」

「……そーか」


 法は無く、生きるために必死ということなんだろう。

 特に食に困るだろうな。

 例え畑や田んぼを作ったところで、自分のために生きる人が食物を奪っていくだろう。

 自治などない、か。


「……誰も信用してない空間なんだな、きっと」

「当然でしょ。信用? そんなものは裏切られるに決まってる。裏切られる前に殺る。それが自然よ」

「…………」


 人を信じずに生きていくことが自然。

 俺よりもチビな女の子がそんな事を言う。

 仲良くすることを考えずに、人を殺すことを考える。

 嘆かわしいことだ。


「訊きたいことはそれだけ?」

「……いや。まだある。あそこの、ワイヤー張られた向こうはなにがあるんだ?」

「あそこはここらで一番強い奴が居るだけ。魔法が使える人が強いのは当然でしょ?食料と女を囲って、結界だかよくわからないもので弱い魔法使いを退けてるわけ」

「へーぇ」


 安全な土壌を構えて高みの見物ってわけか。

 魔法という力を持って生まれたから、力で自分の安定を確保してる、と。


「じゃ、あそこ潰すか、フォルシーナ」

「そうですねー」

「……え?」


 あっけらかんと言ってみる。

 キィは驚いたようで、眉を跳ねあげた。


「……今までの話を聞くからに、アンタら新参者でしょ? 勝てっこないよ」

「バカめ、俺は世界一善魔力が多い男だぞ負けるわけねぇだろ」

「……ここらの魔法使いは、全員アイツに殺されたの。魔力が多い少ないより、テクニックだよ」

「……テクニックねぇ」


 張り巡らされたワイヤーを思い起こす。

 テクニックね。

 あんな分かりやすいバリケードで”ここは俺の縄張りだぞ”と主張するような、猿山に居る猿みたいな奴のテクニックなんて、怖くないな。


「はっきり言うが、俺は負けん。なんたって強いからな。この自信が裏目に出たことは……そんなにない」

「そんなにって……ちょっとはあるんなら、やめときな。新参がすぐ死ぬのは可哀想だ」

「けどソイツを倒したらお前らも食料が手に入るし、困ることはないだろ? 違うか?」

「……なんだ、アンタ? 食料を分配するつもりか?」

「あたりめーだ。善魔力が多いっつってんだろ」

「…………」


 キィは再び口を閉ざした。

 そしてなにがおかしいのかプッと吹き出した。


「……アンタ、変わり者だよ。とんでもないバカだ」

「誰も俺が天才だなんて言ってねぇだろ。つまりバカだ。バカで何が悪い。バカをバカにすんなよ!」

「バカバカ煩いですよ、ヤララン」

「おう、すまんすまん」


 調子に乗っていると叱責を受ける。

 流石は我が従者、しっかりしている。


「……いいね、私も協力させて」


 不敵に笑ったキィが申し出る。

 俺とフォルシーナは一度顔を見合わせ、微笑んだ。


「……って言うと?」

「ワイヤーの向こうの男の事、知ってる限り教える。その代わり、私を数日食べさせて。良いか?」

「あたりめーだ! 仲良くしようぜ、キィ」

「フフフ、勿論」


 キィの手を両の手で掴む。

 最初にできた、新しい仲間の手を――。

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