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/33/:紫の猫

さて、猫の村のお話です。

10話ぐらいやるかもしれません。

少しは(超弱気)いい話だと思うので、よろしくお願いします。

 飛行開始から1時間経たずで1度俺たちは森の中に降下した。

 整備なんてされてない雑然とした道は当然草だらけだったが、大剣より軽い刀を使って適当に切り、休憩に入る。


「悪りぃな、ヤララン……まさか魔力をこんなに食うとは思わなくてさ……」


 辛そうな顔をして切った草を集めたクッションの上に寝そべるキィが陳謝する。

 休憩に入った理由、それはキィの魔力切れだ。

 矢張り俺と比べりゃ魔力も乏しく、1時間も飛んでられない。

 寧ろ、これだけ飛べたのは羽衣の魔力消費が少なかったからと言える。

 もし使えたらだが、無色魔法を使ったならキィは20分で根を上げただろうから。


「こういう時のための神楽器だと思うがな。出して身につけとけ」

「おう……」


 黒魔法の代表格である影操作で自身の影から小太鼓を取り出すキィ。

 横になってそれを抱きかかえた。

 俺も影からヴァイオリンを取り出し、キィに近寄る。


「……なんだよ?」

「背中に立て掛けといてやる。魔力の上限がデカイ方が回復もはえーだろ」

「……ありがとよ」

「どーいたしましてっ」


 キィの背にヴァイオリンを立てて、また少し離れた場所に座り直す。


「ま、村も見えてたし、ゆっくりしてこうぜ」

「……面目ねぇ。待たせて悪りぃな」

「気にすんなよ。仲間だろうが。いや、俺に待たせたくなきゃおぶってやろうか?」

「ガキ扱いすんじゃねーよ……くそ〜、元気さえありゃブン殴ってやんのに」

「だったら暫く寝て、回復したら殴りかかってこい。わかったな?寝ろ」

「…………」

「……なんだよ?」

「……ありがとな」

「……おう」


 言って暫くすると、キィは目を閉じて寝息を立て始めた。

 なんだ、今日はやけにしおらしいというか女らしいというか、どうにもキィらしくない。

 ……まだあの草の効果が残ってんのか?

 1度フォルシーナに診せた方が良いのかもしれないけれど、別れて行動すると決めて行動中である以上は当面の目標を達成すべきだろう。

 それまで、何も支障なければいいんだが。


「……ニャ〜」

「んん?」


 暇だからか、つい考えに没頭していると鳴き声が聴こえた。

 猫の鳴き声、か。

 気弱だったが、さて、どこからくるものか。


「……【無色魔法(カラークリア)】、【無色防衛(カラーレス・プロテクト)】」


 キィを取り囲むように無色防衛を発動する。

 相手が猫であるならば魔法も無いし、流石に突破されないであろう。

 俺も立ち上がり、周囲を警戒した。

 草木生い茂る森の中、猫ならどこにでも隠れられるだろう。

 特に首元が危ないが、こちとら羽衣を解除してマフラーにしている。

 少なくとも即死はない。


「猫、どこだー?」


 呼び掛ける。

 だが返事はない。

 出てくる気がねぇのか、はたまた……。


「ニャァア!」

「ッ――」


 覇気の篭った雄叫びと共に、猫が木の上から飛び出してきた。

 前足からは5cmは伸びている鋭い爪が見える。

 敵意満点って訳ね。


「【緑魔法(カラーグリーン)】――【木の四角形(ツリー・スクエア)】」


 猫に向けて手を(かざ)し、魔法を発動する。

 手のひらから中心に出現したのは薄緑色の半透明な長方形。

 顕現した四角形(スクエア)からは無数の木の根が飛び出して行く――。


「ニャッ!?」


 根は猫を正確に捕らえ、体全体を包み込んだ。

 四角形(スクエア)はその場で固定され、俺は自ら猫の頭を掴んで木の根を解く。


「よう、猫。危なかったな?落ちそうなところを助けてやったんだぜ?そうだよな?」

「ニャ、ニャァ……」

「…………」


 小さなうめき声でも、猫相手だと怯んでしまうものだ。

 俺は頭ではなく、両脇を抱えるように両手で持った。

 薄い紫色の、体の細い猫。

 コイツが例の猫の1匹か?


「……情報は引き出せそうにねぇよな」

「?」

「……まぁいいや。なぁお前、魚食うか?骨抜いてあるのがあるんだよ。ちょっとそこで待て」


 そっと猫を地面に置いて、言うことを聞いてくれてるのか動かないのを確認して影の中に手を突っ込む。

 村付近の海で取った魚の切り身の束が吊ってある糸を取り出して、切り身の1つを猫の前に置いた。


「別に害とかねぇから食えよ」

「…………」


 猫のくせに慎重派なのか、ツンツンと爪で触ったり匂いを嗅いだりしている。

 少しして諦めがついたのか、ガツガツと頬張り始めた。


「うめぇか?」

「ミャ〜♪」

「そーかいっ……人間も猫も味覚は共通なんだな。俺もその魚好きだし」


 ボケーっと会話をしてみる。

 猫は甘い声を出すばかりで返事らしくもなく、虚しいだけだった。

 つーか襲ってきた癖に、魚貰ったら手のひら返しかよ。

 まぁ幸せそうに食ってるからそれでいいんだが。


「……食ったか」

「ニャッ」

「あ! テメッ!」


 切り身を1つ完食すると、薄紫色の猫は草むらに飛び込んだ。

 ちっさい体で草ん中行かれると追いかけようがない。

 ……追いかける必要もないか。

 これでいいだろう。


「……仲間連れてきたりしなきゃいいけどな」


 そしたら面倒くさいが、それならそれで、また相手をしてやろう。

 まぁ、杞憂に終わるのが一番だが……。


 俺はその場に座ってボケーっとした。

 なんだか暇だ……。

 キィの寝顔でも見ているか?


(くれっっぐれも!キィちゃんに手を出さないように!!)


「…………」


 いや、やめておこう。

 流石にあれだけ言われりゃ俺も意識してしまう。

 適当に雑草でも食ってみるとしよう。




 それから数分経たずして腹を壊したのは、寝ていたキィには気づかれなかったのだった。

最後のフォルシーナの言葉、カギカッコに悩みました(謎

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