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/1/:神楽器

1話2000文字前後で進めてまいります(たまに4000文字とかになったりする)。

 東大陸の半分以上の面積を占める大国、フラクリスラル。

 その中心都市であるアルスラルの一角に建った4階建ての建物、ヤララン商会。

 中では従業員が書類のまとめと接客をする最中、最上階に居る俺はフォルシーナ他技術班が作成した神楽器を手にとっていた。


「……随分重いな。ヴァイオリンの癖に」

「そう言わないでください。これでも軽くしたんですから」


 念のためにあけておいた空き部屋には窓もなく、俺の【白魔法】による灯りのみが唯一の光。

 室内に居るのは俺とフォルシーナだけで、【緑魔法】で作った木と蔦でできたテーブルには6つの楽器が並べられている。

 アコーディオン、シンバル、太鼓、フルート、ギター、ベース。

 全部で7つ、そのうちのヴァイオリンは俺が手に持っていた。

 2kgはあるだろう、こんなものを使って演奏していては肩が凝る。


「あくまでも魔法設計を織り組んでるんですからね。技術班がどれだけ涙を流したことか……」

「ふーん……まぁ、効果が期待できるなら良いんだけどな」

「えぇ、効果は保証します。こんなものは2度と世界で作られないでしょうね。金銭と技術的意味で」


 神楽器には4つの効果があるように設計してもらった。

 その代表的な効果が魔力の増幅。

 持ち主の魔力を40倍に引き上げる。

 魔力を40倍にすれば、誰でもこの世で最強になれる事だろう。

 莫大な金がなければ、こんなものは作れなかった。


「……どうすれば起動する?」

「常時です。楽器に魔力を流しておけばいつでも使えますよ」

「危ねぇな。いつの間にかクレーター作ってるとか、嫌だぞ」

「魔力さえ繋がなければ良いんですよ。寝て居る時とかは心配いりませんって」


 開発者が言うにはそういうことらしい。

 なら良いんだが……。


「しかし、楽器が兵器だなんて嫌なものですね」

「兵器にもなる、だろ。本当の40倍にした理由は“4つ目”の能力なんだからな」

「……とか言って、身を守る、つまりは戦うために使うんだから、同じじゃないですか」

「それはこの先次第だっつーの」


 戦う時に魔力を補給とかしなければ良いんだろ?

 それなら神楽器がなくとも事足りる。

 使うんなら空いっぱいにシャボン玉出したりして遊ぶ時にするさ。


「とにかく、俺はコイツを貰う。ケースとかねーの?」

「勿論ありますよ。はい」


 言って、影の中から黒いケースを取り出した。

 なんかの動物の皮を黒く染めたのであろう硬質なヴァイオリンケース。

 持ちての他にも、背負えるようベルトが着いている。

 手渡されたケースを開いてヴァイオリンを仕舞い、背に当ててベルトを体に巻く。


「……よし、まぁこんなもんか」

「……? 何がですか?」

「いや、準備だよ」

「ですから、なんの……?」

「西大陸に行く準備」

「…………」


 フォルシーナは白目を剥いた。

 その目でこっちを見るな。


「……準備、ですか……?」

「ああ、そうだけど?」

「……持ち物、見るからに剣とヴァイオリンだけじゃないですか……」


 絶望したかのようにフォルシーナは床にすがりついた。

 俺がとんでもないバカに見えたのだろう。

 まったく、見てくれだけで判断するのは商人として5流だぜ。


「影ん中に1億フラ入ってるし、飲食物も1週間分くらいは入ってる。心配すんな、俺はそんな情けなくねーよっ」

「や、ヤラランが成長している……」

「ふははは、張っ倒すぞ?」

「じょ、冗談ですよ……」


 立ち上がって、無理に引きつった笑みを向けるフォルシーナ。

 都に居てなまった体、久しぶりに動かそうかなー、あははははー。


「で、私も準備するんですか?」

「おう」

「今日?」

「今日だな」

「そんな急に……」


 再び床にすがりつく。

 立ったり打ちひしがられたり、忙しい奴だ。


「正直、俺やお前が居なくても店は回せるだろ。俺の顔が効かなくたって名前でいくらでも売れるし、何かあれば通信ぐらいはするさ」

「え、通信機なんて発明されてましたっけ? 技術班でもそんなものはできてないのに……」

「んーなもんあるわけないだろ。飛んで返ってくるんだよ、1人で……って、なんだよその顔」

「……それ、通信って言わないです」


 フォルシーナのしてる顔は何もかもを諦め、もはや笑うしかないといったところだ。

 俺は別に、おかしなことを言ってるつもりはないんだがな。


「考えてもみろ、フォルシーナ。魔力が40倍なら、大陸の横断ぐらいできると思わねぇか? しかも、俺の魔力が40倍だ。大陸の1/3を飛んで商品を戻しに行った俺が、できないとでも?」

「……いえ、私は貴方みたいに無茶しないので考えがいかなかっただけです」

「うるせっ。いいからさっさと荷物まとめろっ」

「はいはい、わかりましたよ……」


 やる気なさげに楽器を自分の影に落としていき、最後にため息を残して退室して行った。

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