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/18/:悪意

ご指摘あればよろしくお願いします。

 海に残された俺たちは【白魔法】で明かりを灯しながら村に戻った。

 昼同様に魚を、そして森に向かったもう一方の班が捕らえたという猪のような動物の肉を調理してもらいながら、暇な村人は家に松明を掛けて残った奴は焚き火を囲っている。

 フォルシーナは料理組の指揮に就き、キィはボケーっとした目をしてメラメラと燃える焚き火を見ていた。

 そんな俺はというと、焚き火を眺めていたタルナの横に座っていた。


「やい、ヤララン。昼間はよくも俺をこき使ってくれたな」

「怒るなよっ。良くやってたじゃないか」

「俺は面倒なのが嫌いなんだ。単純作業や散策なら歓迎だが、人を動かすのは疲れる。あまりやりたくないね」

「……ま、それは今後の働き次第だな」

「……頑張って働くとしよう」


 タルナが項垂れる。

 そんなに働きたくないかお前……。

 結構頼りにしてるんだがなぁ。


「所でさ、タルナ。お前は東大陸に行きたいか?」

「どうしてそれを訊く?」

「料理ができるまでの暇潰しだよ。で、どうなんだ?」


 タルナは炎を見つめ、細目になって告げた。


「……行きたくないな。いや、戻るだけ戻るのもいいだろう」

「……戻る?」

「元は商人だったのさ。商売で恨み買われてね、いつの間にか此処に居たのさ」

「……そら災難だな」


 商売で恨みというと、先ほどのドレトスを思い出す。

 奴も行商してる頃の俺たちを此処に追いやることができたんじゃなかろうか?

 ……いや、行商だし追いかけられないか。


「俺をこんな境遇にした奴は知ってるんだ。もしもう一度会えたなら、この大陸に連れ込んで俺の苦労を味合わせてやりたいよ」

「だから戻るだけ戻る、か?」

「あぁ、今は随分楽だけど、単騎だと動くのも怖いし、動物も見つからないし、何日も食べない日が続いていたんだ。この苦労を味合わせたいよ」

「…………」


 苦労を味合わせたい。

 それは確かな復讐心から来るものだろう。

 ……明確な悪意かもしれない。


「此処に来た理由は、やっぱり正当じゃないんだな」

「当たり前さ。俺は商人でそういう事情には少し通じてたからわかるけど、ここには悪意を持った人が連れて来られるなんて、そんな確証も得られない話を実行するわけがない。お偉いさんがコネか賄賂を貰って憎い奴を適当にほっぽってるのさ。ゴミ捨て場みたいにね。いきなり連れて来られた一般人は可哀想だ。ここが何処かも知らないんだから、食料を持ってたら真っ先に殺されるよ」

「……そうだな」


 東大陸は、基本的に西大陸の話をタブーとしている。

 西大陸がこんな状態なんだから当然だが、貿易もないし、観光地もある筈が船が出るという話は俺が生きてて聞いたのは奴隷云々の話ぐらいだ。

 一般人は何も知らぬまま、ここに放り出されてしまう。

 なんとも酷い話だ。


「悪意と善意が平等……。それはきっと、西大陸の奴が東に恨みを持ってるからなのか……?」

「……? なんの話だい?」

「……大国フラクリスラルは知ってるだろ?そこの国王が言ってたんだ。世界の善意と悪意は等しくなるよう、世界の仕組みがあるんだって」

「ほう……興味深い話だね」


 タルナの目が光る。

 そんなに面白い話だっただろうか?


「なぁ、ヤララン。悪意っていうのは人を傷つけたい欲求。そう思わないかい?」

「……そうだな。人を苦しめなきゃ、悪じゃねぇ」


 胸にストンと落ちる言葉だった。

 人を苦しめなきゃそれは悪と言えない。

 なら悪意は、人を傷つけたい欲求。

 タルナは続ける。


「しかしね、善行をしているのに悪意を向けられることがある。お互い仲良くしようと言ったら、片っぽは不満を持つ。それも悪意だ」

「…………」


 礼も過ぎれば無礼となる、というやつだろうか。

 ご機嫌を良くしてやりたいのに、いつの間にか邪魔になってしまっている。

 邪魔されたら悪意を持つ。

 それも確かかもしれない。


「色んな悪意があるし、色んな善意がある。とするならば、そもそも悪意を持った人間だけをこっちに連れて来るなんて不可能なんだ。そう思わないかい?」

「……お前の言うことは正しいよ」


 そうだ、前提として間違っている。

 この世界では個人個人の魔力量さえ不安定なんだ。

 それは善意も悪意も変化しゆるから。

 悪意がなくなるかもしれないのに、西大陸に悪人だけが運ばれて来る筈もない。

 だからこそ、恨みを買われた方がこの大陸に送られてしまう。

 そして、送られた方は東に憎しみを、悪意を抱く。


「連れて来られた方は、東大陸に悪意を抱くだろ?」


 今の考えをタルナに伝える。

 彼は頷いて、言葉を続けた。


「でもきっと、善意もある。そもそも培った善意が失われることってあり得ないと思うんだ。俺は西大陸(ここ)に来て何人も殺した。けど、未だに罪の意識がある。悪いことをしたと思ってるから、ね」


 罪の意識。

 それは善意があるからこそ起こり得るものだろう。

 いや、しかし罪の意識が強過ぎて狂ってしまう人とかもいるんじゃないだろうか?

 そうなると善意もない。

 ふむ……。


「難しい話だな……」

「そうだね。でも、善意と悪意が平等だというなら、不要人がこの地に送られるシステムは妥当だ。今の所はね」

「今の所は……?」

「だって、村を作ってこの地が楽しい場所になったら、東大陸から西大陸(こっち)に送られて来ても不幸じゃない。そりゃ今までの生活は放棄するんだろうけど、こっちでも楽しくできれば東大陸の連中を恨む理由にはならないんだ」

「……確かにな」


 悪意が減れば、悪意と善意のバランスが崩れてしまう。

 均衡を取り戻すために、どこかの大陸で犯罪が起こるだろう。

 きっと、起こる……。


「なるほどね、ヤラランの話を聞いて納得したよ」

「……何にだ?」

「俺たちが西大陸に来なきゃ行けなかった理由さ。“世界の支え”、カッコ良く言うなら、“犠牲”になるためなんだな。なりたくもないというのに」

「…………」


 ――犠牲。

 なんて不憫な言葉だろう。

 とても悲しい、苦しい言葉だ。

 今まで東に住んでて、授かってた平和は人々の苦しみあってだと言うと、胸が痛む。


「――ッ」


 俺は下唇を噛みながら、立ち上がった。


「……どうした?」

「……ちょっとな」

「?」


 頭上にはてなを浮かべるタルナを置き去りに、焚き火が見える最後尾に立った。

 全員の後ろ姿を見ながら、神楽器を影から取り出す。

 ヴァイオリンをケースから取り出し、そっと構えた。


 料理班が調理を終えたのか、食事を座っている者に配り始める。

 その中で1人――フォルシーナがこちらを向いた。

 不思議そうな顔をして、それでも作業を止めずに手を動かしている。

 俺も、弾くとしよう。


「【白魔法(カラーホワイト)】」


 光、色、善感情を司るという白魔法をヴァイオリンに流し、そっと弓を弦に当てた。


 神楽器の2つ目の能力。

 それは魔法を使いながら演奏すると、魔法の効果が聴衆に与えられるというもの。

 赤魔法なら筋肉増強、黄魔法なら体調回復、白魔法ならーー心を安らかに。


 なだらかな音楽が夜闇に鳴り響く。

 次第にこちらを向く人が増えていく。

 元気が沸くように、アップテンポの曲を弾いた。

 音に気付かず、こちらを向かない奴の方が少ない。


「……いてっ」


 だが、楽器を落としてしまう。

 筋肉痛、まだ回復してなかった。

 回復の黄魔法で痛みは(やわ)らげられるが、治すことはできないのだ。

 まだ、痺れる。


「……悪りぃ、ちょっとでも気分の良い食事にしようと思ったんだけどな。……邪魔しちまったか」


 震える指でヴァイオリンを拾う。

 また構えると、手が震えてまた落とす。


「――おいおい、情けないぞヤララン」

「……()りぃな」

「俺に変われ!ヴァイオリンには自信あんだよ!」

「!?」

「じゃあ次私ね?」

「上手く弾けよー!」


 誰とも言わずに騒ぎ出す。

 大柄な男に楽器を奪われ、俺は数歩下がって突如流れる音楽を聴いた。

 1曲弾かれる度に奏者が変わる。

 終わる度に拍手が鳴り、この場には不思議な一体感があった。


「……すげぇなぁ」


 その辺の切り株に腰掛け、言葉をポツリと漏らす。

 今まで、村人はこんなにフランクじゃなかった。

 まだ村作りを始めて2日目だし、一体感なんて得られないと思ってた。

 俺の勘違いだったんだ。

 タルナの言う通りなら、東には恨みを持ってても、西大陸の奴同士で憎み合う必要はないんだから、これも当たり前な事だ。


「……良いな、こういうの」


 この場を産んだのが神楽器の効力なのか、いつの間にか皆が仲良くなってたのかはわからない。

 けど、喜びが溢れている空間があるんだ。

 これは悪いことじゃないだろう――。

ここでいう白魔法も、『求愛する贖罪者』でいうメイラの言葉の意味と同じです。

白色には魂を安らかにする意味があります故……。

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