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/153/:最悪の戦い②

 【二千桜壁】――それはもはや桜とは言えなかった。

 花びらの形には見えず、村を覆い尽くし、海岸まで届く桜の壁が厚く、空高くまで達したからです。

 とは言えど、15m程度の高さしかない。

 無色魔法を用いられれば突破されてしまう。


 壁内は騒然とした様子で、慌てふためく鎧やローブを着た人間が右往左往していた。

 桜色の壁に魔法や剣をぶつける者がいるが、そんなものでどうにかなる代物ではない。

 数分は動揺があったが、大将か、それなりの地位にありしき者が空に響くほどの一喝をし、無色魔法を使える者を飛ばし始めた。

 無色魔法使いは壁を越え、周辺にいるだろう術者を探しだした。

 対して、私達がいるのは上空。

 気付かれることはまずないけれど、それも時間の問題でしょう。


「――【黒天の血魔法(サーキュレイアルカ)】ァァアア!!」


 刹那、彼女の声が聞こえました。

 どこにいるのか探せば、目下の桜壁内。

 黒に瞬く漆黒の大剣を5m近くまで伸ばし、黒いオーラを放っている。

 力一杯、その剣は振り下ろされた。


「――【悪苑の剣戟(グジャロード)】!!!」


 トリガーワードと共に、爆煙が上がる。

 あらゆるものを壊滅した事を象徴する爆音が鳴り、黒煙はその範囲を広げ、村1つを軽く包み込んだ。


「フラクリスラルの人間共! 聞け!!!」


 黒煙から浮上したノールちゃんが叫ぶ。

 黒光りする鎧と羽根を付けた、悪幻種の姿で――。


「私はかつて、貴様らに知人、友人、親友、血縁者、家族、恋人、その全てを私の手で始末させた!! 多種多様な殺し方を考えた貴様らには舌を巻くよ! お前らは最低のクズ、害虫よりも酷い存在だ!!!」


 罵倒をしながら、その両手には暗黒の槍を作り出す。


「今の私には貴様らを嫌な気持ちにさせようという悪意はない! だけど、いろんな人の愛を裏切らないため、私が生きている限りお前らを殲滅する!! 【悪苑の殲撃(シュグロード)】!!!」


 2本の槍を、同時に黒煙へと投げ付けた。

 さらに広がる爆発。

 轟々と燃え上がる連なった家並みが炎色のアートになる。

 狂乱の黒煙は次々と形を変えて舞い上がり、まさしく戦地だった。

 目の前で(いくさ)が起きている……。

 1人対1つの国の……。


 私達はずっとその場で【二千桜壁】を保ち続けた。

 魔力は40×40の1600倍、尽きることはまずない。

 だけれど、体力には限界がくる――。


 1日は続いた。

 夜が来て、朝が来た。

 昼頃になると、新たにいくつもの軍艦が海から現れる。

 もはや上陸していた人間は、ノールちゃんが殺し尽くしていたのだ。

 【二千桜壁】もそれに伴い、海沿いまで寄せた。

 侵入してくる無色魔法などは瞬く間にノールちゃんの攻撃を食らって死ぬ。

 【黒天の血魔法(サーキュレイアルカ)】を使わなかったにしても、彼女の魔法は殺傷能力が高過ぎた。


 やがて、2度目の朝が来ました。

 その頃にはノールちゃんも息をしていませんでした。

 体力の限界、更には多大なる魔力も尽き、私達が助ける間も無く殺されてしまいました。

 後の【無色魔法】で【二千桜壁】の向こうに飛ぶ者は私とミュラリルちゃんの2人で応戦しました。

 殺す事はなるべく避けるつもりでも、何人も殺す羽目になりました。

 私もミュラリルちゃんも体力が無く、死んでしまうのではないか――。

 何度そう思った事でしょう。

 けど、死ぬわけにはいかない。

 ここを食い止めなくてはと、体を駆使する。


 ヤラランの魔法も私が作った。

 戦闘のセンスがなかろうと、負けるわけがないのです。

 だけど、私は殺す。

 戦って双方無事などあり得ない。

 ましてや、魔法は人体に広範囲の影響を与える。

 殺さないのが不可能。


 私は何をしているのでしょうか?

 平和を築くために今までやってきたのに、何故私は人を殺しているのでしょう?

 自分がわからなくなる。

 それでも体は動く。

 魔法は使う。

 私は今まで何をしてきたのでしょう?

 結局人を殺すのなら――今までの行いはすべて無駄?




 ――否。

 今の問いを否定してくれる人が封印されている。

 だからこそ私は戦う。

 善? 悪? それがなんでしょう。

 私が生きる、そして最善を尽くす。

 軍6隻ともう数隻、それならまだ西大陸の人々と、私の友人の命の方が重い――。


「フォルシーナッ!!」


 突如声をかけられ、思慮を放棄する。

 振り返れば、そこにはタルナが居ました。

 羽衣を見に纏い、刀を持ってこの大陸の現王が来たのです。


「フォルシーナ、全員移送が終わった! なかなか骨は折れたが、2日でやり終えたぞ!」

「……。……そうですか」


 もう相手に飛行できる奴もいないのか、敵は居なかった。

 ここで私が寝ていたとしても、きっと壁を突破するものはいないでしょう。


「――ミュラリルちゃんは?」


 ふと、彼女がいない事に気付く。

 近くを飛んではいない。

 遠くで戦ってるのだろうか?

 朝までは、一緒に居たのに……。


「……ミュラリルは向こうで死体を見つけたよ」


 残念そうに、タルナさんが言った。

 目を伏せ、悲しむように。

 死んだ――?


 現実がうまく飲み込めなかった。

 私はさっきまでの記憶がない。

 体力もなく、錯乱していたのか、何も覚えていない。

 いつのまに、彼女も――?

 …………。

 ……。

 まだ泣くわけにはいかない。

 最後までやることをやり遂げるため、私は下唇を噛み、タルナに指示を出す。


「……わかりました。タルナさん、貴方も逃げてください」

「……僕に逃げろって、君はどうするんだい?」

「……私は――」


 遠く遠くにあるハヴレウス城の方を、私は見た。

 このままこの地を野放しにしてフラクリスラルに手渡すのは、また私達のしてきた事を振り出しに戻すのと等しい。

 それならば――。


「私はこれから、あらゆる魔物を解放します――」


 この場所は、魔物にくれてやろう――。

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