/152/:最悪の戦い①
ご指摘などあればよろしくお願いします
「……少々やり過ぎではないですか?」
所は変わって善と悪の神別小隔研究中界、善は目の前に立つ自由に対し、不満気に言い放つ。
「やり過ぎ? 僕なりに配慮してあげたつもりだけど?」
「善は、人間如きにサービスし過ぎだと言ってるのだ」
自由の質問に、ため息混じりに悪が返す。
彼は自由の事を気嫌っているせいか、言い方も少々辛辣だった。
さすがに自由も顔を顰める。
「人間如き、ね……」
「……なんだ?」
「いや、僕に喧嘩を売ってるんだったらこの場で殺してあげてもいいんだと思ったのさ」
「……なんだと貴様」
「あ?」
刹那、自由は右手で悪の首を掴んだ。
悪は反撃しようと拳を振り上げるが、振拳は下がらない。
「なっ!?」
「僕はあらゆるものを“自由自在”に操る自由律司神。悪如きが吠えるなよ。……本当に殺すよ?」
「……やめなさい、自由。そんな事をしていてはキリがないですよ」
「だねっ。彼女の進言通り、離すとしよう」
善が宥めると自由の声調も戻り、パッと悪の首から手を離す。
同時に悪の体に自由が戻り、首元に手を当てて嗚咽を漏らした。
「……チッ」
「そんなに悪い顔しないでよ。僕は性質上、この性格は変えられないんだからさっ。慣れてくれ」
「……慣れそうにない」
「それは残念だなぁ、あっはっは!」
「…………」
自由の声高な笑いに、善悪の2人は閉口する。
不機嫌になったり高笑いしたり、彼の感情の起伏に付いて行けてなかった。
「まぁお土産も貰ったし、知り合いに渡してみるとしよう」
「……歌、ですか?」
「そうそう。僕は創作物全般が好きだからね。色んな人の自由な発想が物になるんだ。歌も絵も小説も、どんな創作物も大好きさ。君達も見たり聞きたかったらお勧めを幾つか持ってくるよ?」
「遠慮しておきます……」
「そうかい? それは残念だ」
丁寧に善が断る。
2人は自由のように適当ではなく、忙しいのだ。
「じゃ、僕はまたセイを追いかけるとするよ」
「……嫌われてるのに追いかけるのですか?」
「嫌われてるからこそ、また好きにさせたら面白いだろう?」
「……私には理解できません」
「追い掛けても掴ませてくれないからこそ、絶対に掴みたくなる。知的探究心と同じさ。ま、そういう事でバイバイ」
「え……って、もう居ませんし……」
自由は姿を消し、善悪の2人は呆気に取られてしまう。
嵐のように現れ、嵐のように去ってしまった。
他所の研究を荒らして去っていくのだから、物凄い恋人同士だと2人は思うのであった。
考えてみれば、簡単な事でした。
フラクリスラル王が西大陸に行った事が知れ渡っててそのフラクリスラル王だったモノがそこにあるのだから、フラクリスラルは必ずここを攻めてくるでしょう。
7:3の比率なのであれば、100%人を傷付けようと思う悪意が消えるはずがない。
だから、進軍は止められない。
ヤラランの対抗策、それは4つの神楽器では足りなかったのでした。
でも、それでも7:3にまで比を変えた。
ならば、なんとか犠牲を少なく抑えなくてはいけない……。
それこそ間違いなく、“世界のため”に――。
「作戦を考えました。全員、私の指示に従ってください」
アキューさんが去った後、私はフラクリスラルとどう戦うかについて考えていました。
おそらく、ヤララン抜きで7:3の善悪比になった今、フラクリスラル軍には“人を傷付ける”という行為は好ましくないはず。
だから、兵の心は皆弱い……。
しかし、それでも王を慕うフラクリスラルの民は諦めないのはわかっている。
だけれどとりあえず、相手の攻撃さえ防いで仕舞えばいい。
こちらの人口は2万かそこら、ならば全員避難させてしまえばいい――。
「タルナさん。貴方の国、ネソプラノスの民を全員、北大陸の“バスレノス”か南大陸のアルトリーユに移民するよう頼んでください。どちらもヤララン商会の名を出せば受けてくれるはずです」
「……しかし、避難している間に攻め入られるんじゃないかい?」
「それは私とミュラリルちゃん、ノールちゃんで食い止めます。神楽器があれば、東の方を食い止めるぐらいの防護壁を展開できますよ」
幸いにも、ヤラランの使った神楽器は彼の近くに全て落ちていた。
神楽器は所有者を選んだりしないため、ヤラランが使った後だったり、ノールちゃんであっても使うことはできる。
「ウチはやらないよ」
しかし、ノールちゃんだけは否を示した。
1番魔力の多そうなそうな彼女には、どうしても参加して欲しいのに……。
「……ウチは単身でフラクリスラルと戦う。もうあの国を恨んではいないけど、ウチの愛の証明として、できる限り暴れるよ。ああ、これはアンタらの助けになるのかな?」
「……助けにはなります。できれば殺さないでほしいですが、無理そうですね」
「うん。殺さないとか無理だよ。とりあえず、ウチは単騎で動く。アンタらはアンタらで頑張ってね」
「はい……」
それだけ告げると、ノールちゃんは踵を返してこの場を立ち去りました。
凛とした彼女の後ろ姿を見送り、気を取り直して、私はミュラリルちゃんに尋ねます。
「ミュラリルちゃんはどうしますか?」
「……わたくしは貴方のお友達ですわよ?協力致しますわ」
「……ありがとうございます。では、持ち場に行きましょう」
私とミュラリルちゃんは神楽器を2つずつ持ち場、地上へと向かった。
タルナとはすぐ別れ、避難が終えたら東の方へ来るように言った。
ミュラリルちゃんには二千桜壁を教え、東の岬の方へと飛んで向かいました。
「――もう陸に!?」
私達は海まで向かう必要がありませんでした。
もう何千という兵やローブを着た魔法担当の軍が、東端の村を占拠していたから。
村は軍の人々が行き交い、騒ついて居ました。
血の跡はありません。
だけど、悲鳴や叫び声が響き続ける。
どうするべきか、考えました。
恐らく、奴らは西大陸を悪意溜めにするつもり。
だから殺しはないのだろうけど、ここは見捨ててこの先に進軍させないために防護壁を張る?
いや、それとも助ける?
それは私が何千と言う人を相手にすると?
殲滅するならおろか、そんな手立てがあるはずがない――。
「……ミュラリルちゃん、ここで発動しますよ」
「え、しかし……」
「もう手遅れですっ。貴女と私であそこに飛び込んでもどうしようもないでしょう?」
「……はい。了解しましたわ」
渋々といったように、ミュラリルちゃんは承諾してくれた。
私だって苦しい。
だけれど、これ以外の選択肢はないんです――。
『【羽衣天技】――』
私の刀が、ミュラリルちゃんの杖が、姿を変える。
眩いピンクの光を放ちながら、その微小の大群は空を覆い尽くすほど多く、浮遊する私達は下の方へ向かうよう目下に手を振り下ろす。
『――【二千桜壁】!!』




