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/151/:比率

 目の前にいるヤラランから白とオレンジの眩い光が溢れ出し、この空間全体を光が満たした。

 目を開けていても光しか目に入らず、とてもなだらかな気持ちになる。

 全てが白く、オレンジの光がそよぎ、とても綺麗な場所に来たように思えた。

 しかし――徐々に空は黒く塗り潰されていった。

 青黒い、まるで夜空がやってきたかのように空が暗くなる。

 そして徐々に黒は降下して白を飲み込んでいった。

 私の頭と体をも飲まんと迫ってきて、この穏やかな空間が取られるのではないかと私は刀を捨てて(かが)んだ。

 そして目を閉じて、ずっと耐えた。

 少しずつ、頭が、体が、冷たくなっていく。

 きっと、闇が私を包んでしまったのだろう。

 冷たい……それが嫌で、ずっと目を閉じていた。


 そこに、私の肩を指で2度叩く者がいた。

 誰か確認するのでさえ怖い。

 見ることができず、手で追い払おうと指を薙ぎはらう。


「こらっ、僕の指をはたくなんて失礼だ」

「うっ!」


 はたいた私の手の甲を、誰かが(つね)る。

 聞き覚えのある声に私は安心し、目を開けて立ち上がった。


「……なんて言ったら、律司神が傲慢な印象持たれるかな?」

「アキューさん……」

「あれ? 普通に名前で呼ぶんだ? 君、フランクだねぇ。僕と仲良くなれる気がするよ、ははは」

「…………」


 呑気に笑う少年に、私も先ほどまでの異様な感覚がすっかり拭い払われてしまう。

 なんでこんな状況下でほのぼのしてるんでしょうか、この人は……。


「ここは、何処なんですか?」

「ここはさっき君がいた所と変わらない。界星試料のまん前だよ」

「でも……」


 明らかに情景が違う。

 私の目に見えるのはアキューさんだけで、他のものは黒く塗り潰されてしまっていた。

 傲慢な律司神さんは私を見て腕組みをし、面倒臭そうに説明する。


「ヤラランが、魔力を放出したのさ」

「……ヤラランが?」

「そう。君は間近で見てただろうに。聞きたいんだが、僕はこの世界の魔力について詳しく知らないけど、多分放出しても減らないんだろう?」

「ええ、特に減ることはないですが……」

「だけど、放出しておけば魔力は体内かどこか、高密度の状態で善悪が変換されるより変換が容易だし、速い。おそらく、無意識に放出してしまったんだろう。ま、もう全部真っ黒だし、次期に収束するよ」

「……なるほど」


 説明に納得し、相槌を打つ。

 すると闇は果てから消えていき、徐々にホール内の様子が見え始めた。

 ミュラリルちゃんやみんなも居て、光が収まるとさっきと変わるところがない。


「…………」


 ただ、ヤラランだけは違った。

 黒く塗り潰された眼球、全身の色が黒く染まり、髪は逆立って頭上には半円のリングが対になって回っている。

 6枚の黒い羽を背に持ち、衣服の上からは左肩から三日月状のカーブを持った鎧を着ていた。


「……ヤララン?」


 赤い瞳をしていた。

 彼の名を呼んだ私をギロリと睨む。

 無言での彼の睨みが怖くて、私は一歩後ずさる。

 そんな私を一瞥して、彼は自分の体を見ながら動かした。

 両手には黒い鉄のガントレットが嵌められ、足は円柱のような円形の黒い管みたいな靴を履いている。


「……すぅ」


 彼は息を、ゆっくりと吸った。

 刹那――


「455568211628980246……」


 アキューさんが数字の羅列を口にし出す。

 一体何を……。


「――【絶対の1/確立結果】。クク、全員耳を塞げ!!」

「え?」


 アキューさんが高らかに命令する。

 私は咄嗟に耳を塞いだ。

 直後――。


「――――!!!!」


 ヤラランが咆哮した。

 音の振動が体にヒシヒシと伝わり、胸が裂けそうになる。

 鼓膜などとうに破れたのではないかと思える、破裂音よりも酷い音だった。

 キィィィィインと酷い耳鳴りと激しい衝撃はなかなか収まらず、立ち竦む。


「……長い!【孤立結界(アイソレート・プロテクト)】!」


 痺れを切らせたのか、咆哮の中でアキューさんが魔法を発動させる。

 それは他人を別世界となる白い箱の中に閉じ込める魔法で、音の衝撃はすぐに収まった。


「まったく、僕にあんな断末魔のような音を5秒以上聞かせるなんて、ありえないよ」


 怒り心頭といったように腕を組み、頬を膨らませる自由の律司神さん。

まるで子どもに起こりつけるような、気楽な様子でした。

 え、まぁ……はぁ……。


「因みに、今のは【確立結果】で君達に傷がないようにしてあげたけど、本当なら今頃肉塊だから。もっと注意した方がいいよ? 元、仲間でも……」

「……なに? どういうことなの?」


 訳がわからないといった様子のノールちゃんが説明を要求しました。

 アキューさんは簡潔にまとめ、一言で言います。


「ヤラランは悪幻種になってしまったから、今から彼を封印するよ。まぁ僕が善律司神からそうしろって言われてたわけだからやるべきなんだけど……君がやるかい? フォルシーナ」

「…………」


 尋ねられると、私は少し臆して顔を下に向けた。

 今は孤立結界(アイソレート・プロテクト)をして封じているけれど、それから私がヤラランに立ち向かって封印できるだろうか?

 ……いや、もとより私が封印する事はヤラランが期待していた。

 だったら、私が――


「やらせてください。私がやらなきゃ――」

「え? 今やんないと思って封印しちゃったよ」

「……え?」

「……プッ、あっははははははっ! ごめんごめん! いやぁ、返事は待つものだね! ごめんごめん! あははは!」

「…………」


 陽気に笑いながら謝る。

 何でこんな大事な場面を……。

 いや、この方は自由を司る神でしたね。

 もはや言う言葉がないとしか言えません。


「まぁ、君は彼を斬る役割を果たした。僕も僕の役割を果たした。それでいいだろう?」

「……私は神様に文句を言うほど、偉くありませんよ」

「文句はあるけど立場上言えない、って言いたいのかい?君は規則とかに従順だなぁ。自由性を僕は認めるが、まぁ、君がそういうなら何も言う必要はないさ」


 彼はそう言いながら【孤立結界(アイソレート・プロテクト)】を解除する。

 箱の中から現れたのは、赤い十字架に貼り付けられ、全身を白い鎖で繋がれたヤラランだった。

 瞳は閉じられ、眠るようにして貼り付けられている。


「一応、息をさせないように彼だけ時間を停止させた。君が切に願えば解けるようにしたから、解くのは任せる。ああ、あそこだと邪魔だろうから、持ち上げられさえすれば移動はどこにでもするといい」

「……わかりました」

「それと、これをご覧」

「?」


 パッと善悪調整装置の画面が変わり、善悪比が映し出される。

 映された数字は善がおよそ6.2、悪が3.8……。


「……これ、だけ?」


 驚きのあまり、訊く相手もいないのに尋ねてしまう。

 ヤラランが命掛けでやったのに、変わったのは1割でしかないの……?


「これだけというが、彼は18兆もの悪魔力になったんだ。今は悪が30兆、善が48兆だから、これで妥当だよ」

「だとしても……」

「あーはいはい。君が不満を言うのはわかってた。だから、僕の元恋人が迷惑をかけた謝罪の意を込めて、少し変えてあげよう」


 アキューさんはニコッと笑い、画面に向けて手を翳す。

 なんのちからでやってるのかわからないが、画面に映る数字が変わり始めた。

 善が6.3、6.4、6.5……。

 悪が3.7、3.6、3.5……。

 やがて7:3の比率になったところで数字の変化は止まり、アキューさんも手を降ろす。


「比率の変化分、ヤラランくんの悪魔力を増やした。これ以上オマケすると、善悪に怒られるからね。この辺でやめさせてもらおう」

「……ありがとうございます」

「あっはっは! 感謝なんてしなくていいよ。僕がやりたくてやってるんだから」


 謝辞の言葉も受け取らず、陽気に微笑む。

 とても神様なんて思えない、人間らしい人だった。

 こんな装置をただ置き去りにするような神様より、よっぽどいい神様……。


「さ、僕はこの世界を管理しているわけでもないし、あんまり長居しても怒られるから、そろそろ帰ろうかな。あ、お土産にこの楽器の歌を貰ってもいいかい? 折角の歌だろう? 歌われないのは勿体無いからいろんな世界にばら撒きたいけど……」

「……ウチは構わないよ。ウチが知らない所で歌われる分にはね」

「それは何より。じゃあこの辺で……」


 彼はステップを踏んで私から離れ、クルリとターンをする。


「運があればまた会おう! 君たちはこれから――





 ――フラクリスラルとの戦いを頑張ってね」


 そんな、余計な一言を残して彼は粒子となり、跡形もなく消えた。

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