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/145/:言うべきこと

 それから30分ぐらいは今後のことについて話し、それからルガーダスさんは戻ってきた。

 いつもの陽気さは欠片も感じられず、無表情で登場して彼は幾つか話をした。

 サァ王は自分1人で弔ったということ。

 サァ王の姪であるキィの為に今後は自分も動きたいという事。

 何やら、ルガーダスさんの中で決意が固まったらしい。

 旅に出ていたキィとメリスタスも、まだここに居てくれるらしく、神楽器は地下神殿内に5個あることになった。


 フォルシーナからルガーダスさんに、最後の神楽器、アコーディオンが渡された。

 演奏できるできないは神楽器の力でなんとかなるし、彼も使えるのが【白魔法】だから、【白魔法】を流して弾ければ問題ない。

 後の問題は、タルナとミュラリルを連れてくる事だけ――。


 今日は明日に備えるとして、話すこともなく寝ることになった。

 丁度よく8層にあるベッドは5個で、全員柔らかい布の上で寝ることができた。


 真っ暗闇になった室内に、ルガーダスさんのイビキが響く。

 他の皆の寝相が良いのは旅で分かってるし、特にうるさくもない。

 または、俺みたく眠れずに居るのか……。


 俺は無言で高い天井を眺めていた。

 眠れないのはきっと、不安によるものだろう。

 封印がどういう魔法でなされるのか俺は知らないし、封印後に意識があるのかも気になる。

 まぁ、封印されてる時は悪意の塊なのだから意識があろうとどっちでもいいんだが、とりあえず――。




 ――俺の人生はこれで終わりか。




 考えると、余計寂しさが増した。

 きっと、明日には事がなされるだろう。

 悔いや後悔はないし俺は正しい道を進んできたと思ってる。

 だけど……やっぱり不安になる。

 フォルシーナの事が気掛かりだから、なのだろう……。


 フォルシーナはずっと好きだったと言った。

 だけど、彼女は俺の言いつけを守り、神楽器も反善の剣も作った。

 つまり、俺の願いや生き方を肯定し、俺が封印されることも受け入れていたんだ。

 少しの間だけど、彼女の願いも叶えた。

 唯一のパートナーも俺が封印されるのを、今日も肯定してくれたしな。

 そう、誰にも後悔はないと思う。

 今更迷うことは仕方のないこと。

 腹を決めよう……。


「……ヤララン、起きてますか?」

「!?」


 暗闇から突然声を掛けられ、驚きのあまり上体を起こして背中を壁に押し当ててしまう。

 目の前に居たのは、そんな俺を見て驚いたフォルシーナだった。


「え、あぁ……起きてるけど、どうした?」

「……いえ。いつも、研究してる時より寝るのが早いですよね? だから、寝付けなくて……。()しかしたら、ヤラランもそうじゃないかな、と……」

「あー……そうだな。正直、あまり眠くねぇよ」


 眠くないのは事実だから否定はしなかった。

 体力の温存が必要かもわからないし、眠れないなら寝ない方がいいかもしれない。


「……じゃあ、ちょっとお話ししませんか?」


 ニコニコ笑って提案してくる。

 お話し、か。

 俺の気を紛らわせるのに、フォルシーナの話は丁度いいだろう。

 今なら、聞いてるだけで嬉しいと思えるしな。


「……そうだな。ここだと起こすかもしれないし、場所を変えよう」

「じゃあこの層の、あの部屋に行きましょう」

「だなっ」


 あの部屋というのは、何もない部屋の事だ。

 倉庫にでもすれば良いものを、何故か何も置けず、15畳ぐらいのスペースが空いている。


 俺は立ち上がり、どちらともなく歩き出す。

 ふとフォルシーナが手を握ってきたから握り返しておく。

 何もない部屋に着くと、真ん中に座って肩を寄せ合う。

 こそばゆいけど、表現しがたい暖かさがあって落ち着くんだ。


「……すごく今更な事だけどさ」

「……なんです?」

「俺、言ってないことあるだろ?」

「……え? なんですかなんですか?」


 ずずいと身を寄せてくる。

 腕に胸が当たってるんだが……。


「まぁ、ちょっと離れてくれ」

「え?はぁ……」


 渋々といった様子でフォルシーナは俺から離れ、正面に正座で座る。

 ……うん、まぁこれならいいだろう。


「でだ、フォルシーナ」

「はい……」

「言ってなかったことだが……まぁ単純な事でな……」


 そう、すごく単純なこと。

 もう伝わってるのはわかってるが、口にはしてなかったこと。


「俺、お前が好きだ」

「…………ひぇ?」


 長い沈黙の後に、間抜けな擬音を呟くフォルシーナ。

 そんな風に驚かれても、告白も今更過ぎて恥ずかしくないもんだな。


「一応、伝えとかなきゃって思ってさ。フォルシーナは想いを口にしてくれたけど、俺は言ってないからな」

「え、ええぇ、その、は、はぁ……」

「どうしたどうした? 顔が赤いぞ?」

「えっ、ちょっ、そりゃ赤くもなりますよっ」


 ううっと呻き、顔を伏せてしまう。

 照れてるのも可愛いもんだが、あまり弄らない方が今後の俺の身のためでもあるだろう。

 ……まぁ、今後があれば、だが。


「……ねぇ、ヤララン?」

「なんだ?」

「……キスしても、よろしいでしょうか?」

「…………」


 なんと答えたものだろう。

 別に、俺は嫌じゃない。

 ただ、そう――。


「……これ以上お前を好きになって、これからのことに支障をきたしたくない」


 これが正直な気持ちだった。

 今でさえ、俺はコイツと離れたくないと思っている。

 なのに、これ以上好きにさせられてしまったら、俺はフォルシーナを連れて逃げてしまいそうだ。

 だって、それも俺の幸せになるから――。

 けど、そんなのは――。

 フォルシーナが好きになった俺じゃあないだろ?


「……悪いとは思うけどさ、側にいるだけで許してくれ」

「……仕方ない人ですね」

「……悪いな、また我慢させて」

「良いんです。この6年の中で、想いが通じあってると知れただけでも、私はとっても……とっても嬉しかったですから」


 フォルシーナが俺の手を取り、両手でギュッと握った。

 彼女の想いを強く感じる。

 だけど、明日にはこの手を離さなくちゃならない。

 せめて、今日ぐらいは……。


「フォルシーナ、まだ眠くないか?」

「……こんな状況で、眠気なんてありませんよ」

「……なら、眠くなるまで一緒にいてくれ」

「……はい。私で良ければ、いつまでも……」


 繋いだ手を引くと、彼女は俺の胸にもたれかかってくる。

 自然と抱きしめあって、ずっと静寂が続いた。

 言葉を紡ぐ必要はない。

 いや、胸が詰まって言葉など出せない。

 元々、フォルシーナがお話しをしようと誘ってきたことだが、知ったことか。

 震える胸の鼓動。

 布越しからも伝わるフォルシーナの体温。

 できればずっと感じていたい感覚だ……。

 ずっとこの時が続けば……。

 続けば……。

 …………。

 ……。

作者としましては、全部読み終えてからこの話を読み返すことを推奨致します。

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