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/143/:戻る人達

 フラクリスラル王が去った後、俺とフォルシーナはすぐに最下層に向かった。

 薄暗いホールの奥で光るモニターの下にいる男の名を俺は叫ぶ。


「ルガーダスさん!」

「……んあっ? どうしたよヤララン?」


 呆けた返事をして、のそのそと歩いて俺たちの方に歩み寄ってくる。


「大変ですよ、ルガーダスさん!」

「フラクリスラル王が、戦争を持ち掛けてきた」

「……あっそう。じゃあ逃げようぜ」

「……は?」


 軽い調子で逃げると言うルガーダスさん。

 驚きのあまり、つい間抜けな声が出る。


「なんだよ、その“は?”は? まさか戦う気じゃねーだろうな? 今この大陸にいる人口はすくねぇ。どう頑張っても勝てねぇんだよ。北か南に逃げればなんとかなるだろ」

「…………」


 ルガーダスの言った事は正論で、勝ち目なんてないのは明白。

 戦っても意味がないのはわかってる。


「荷物まとめようぜ」

「待ってくれ、ルガーダスさん。聞いてほしいことがあるんだ」

「……なんだ?」

「対策だ」


 俺は神楽器の事と反善の剣を使った善悪比をひっくり返す策をルガーダスさんに話した。


 神楽器は魔力を40倍にする。

 2つ持てば1600倍と、3つでさらに40を掛けた、元の魔力に神楽器の個数乗になる。

 善悪調整装置では、単一個体の魔力量を見ることもでき、俺は700万程度だった。

 これがほぼ善魔力で、5つ以上神楽器を持った状態で反善の剣を使って俺を斬るとする。

 すると、俺は世界全体より悪意量が増え、悪意量が増えれば世界全体の善意量が増加し、その比率は5個の神楽器で善が22、悪が1となる。

 これだけのことをすれば、人々は犯罪なく悪い気持ちを持つことがなくなる。

 さらに言うなら、人を襲うということを考えない。

 だから、戦争すらなくなってしまうのだ。


「……マジで?」


 この話を聞いたルガーダスさんは、素で驚いていた。

 ははーんと笑い、何か考えるかのように視線を天井に向けて何か唸っている。


「うーん……あー、そうだなぁ……だったらさっさとそれやっちまえば良かったんじゃねぇの?」

「……できればやりたくねぇんだよ。わかるだろ?」

「フォルシーナが気掛かりなんだろ? いいんじゃね? たった2人が不幸になって世界が平和になんだろ?喜ばしいじゃねぇか、ハッハッハ。魔法様々だな」

「……確かにそうですが」

「……なんとなく酷くね?」


 俺もフォルシーナもこの言葉にはコメントしずらい。

 確かに、1人が封印されて1人が悲しむだけなら、それで世界平和を為すのは良いことだと思う。

 だが、もう半年以上一緒に過ごしたのに、ルガーダスさんにとって俺たちの事なぞ小さな存在のようだ。

 もう少し悲しんでもいいだろうに……。


「ま、安心しろよ」


 何も安心できないのに、ルガーダスさんがなんか言ってる。


「……なにがだよ?」

「テメェが封印されたら、俺が意地でもこの装置制御して善悪比自体を覆す。そしたらテメェら悲しまねぇですむだろ?」

『…………』


 俺たちは絶句した。

 どうやら、さっき俺が考えた事は、軽率な判断だったらしい。

 この人もそれなりに、俺たちの事を想ってくれている……。


「ルガーダスさん、最後のアコーディオンを貰いませんか?」


 唐突にフォルシーナが提案する。


「……今か? ヤラランは封印されるんじゃねぇの?」

「その前に、神楽器の力で世界に善意を与えましょう。ヤラランは、ずっとそうしたかったはずですから」


 俺の手を握ってフォルシーナが語る。

 確かに俺は、完全に悪い人がいないという証明が欲しかった。


「……だけど、時間がないんじゃないか? それに、キィもメリスタスもいないし……」

「つーかそもそも、神楽器で世界に善意を与えるってどういう事だ?」

「ルガーダスさんには後で説明してあげます。時間は大丈夫ですよ。船で軍隊を移動させるにしたら、東からだと1日は最低かかりますし、今日中にキィちゃん達を探せば、なんとかなりますよっ」

「……探す、だと?」


 俺はこの時、とてつもなく嫌な予感がした。

 フォルシーナはそのまさかの言葉を笑顔で告げる。


「はい、私とヤラランの瞬間移動で、手当たり次第探しましょうか」

「……マジで?」

「無理だとしても、取り敢えずタルナ達を呼ばないと行けないから外には出ますよ?神楽器を持ってる人を連れて来ないと……」

「……そうだな」


 外に出るのは必至らしいが、さ それにしても俺は手当たり次第なんて見つかりっこないと思う。

 アイツらどっち行くつったっけ?南?

 ……全然地形もわからんぞ。


「取り敢えず、まずはタルナさんとミュラリルちゃんを呼びましょうか」

「……だな」

「2人共頑張れ。俺は寝てっから」

「……まぁ寝てても良いけどよ」


 ルガーダスさんのやる気のなさは脱帽するレベルだった。

 手のつけようがないとでも言えばいいのか、これはどうしようもない。


「じゃ行くか、フォルシーナ」

「ですね……瞬間移動でちゃちゃっと……ん?」


 突如、フォルシーナが疑問符を浮かべる。

 どうしたんだろうか、タルナのいる場所ならわかるはずだが……。


「どした?」

「なんか、足音が……」

「え?」


 この場所までの出入り口は1つしかなく、そちらの方に耳を澄ませる。

 タッタッと小刻みに聞こえる足音が、確かにあった。


「……フラクリスラルか?」

「まさか、まだフラクリスラル王が来てすぐです。宣戦布告して侵略がこうも早いなら、宣戦布告の意味がないです」

「……確かにそうだけど」


 フォルシーナの言うことは理に適っているが、フラクリスラル王がただ来ただけだつたかもわからないし、俺としては不信感が強い。

 それでも足音は段々近づいてくる。

 次第に足音の数も判断がつき、大人数ではなく、2人か3人と少数のものであるとわかった。

 俺たちを拘束したり殺したりするなら2人程度じゃ足りないし、真っ直ぐこちらに来ることから知人であることが想像できた。

 そして、思いは的中する。


「ヤララン!!」

「ヤラランくん、無事!?」


 最下層の入り口。

 そこから現れたのは、旅に出たはずのメリスタスとキィだった。

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