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/13/:弔い

 陽がまだ真上にあるうちに俺は先の家族と共に村まで戻ってこれた。

 森に索敵に行かせた所や俺と畑作りをしていた奴らも集まってきており、(ほとん)ど全員がいつも集会する場所に集まっていた。

 キィ、タルナの姿も見受けられる。

 だが、ナルスやフォルシーナの姿がない。

 それはきっと、ネルビィスの件で遅れているのだろう。


「……【黒魔法(カラーブラック)】」


【黒魔法】で、影の中に仕舞った魚たちを出現させる。

 2人の働きの良さのお陰か、体長1m級の魚ばかりだった。


「みんな、遅くなって悪かった。俺はこれからも行く所があるから、料理ができる奴はこの魚たちを料理してくれ。それから、今日から村に加わるカズラ、フリュウ、カラウだ。フリュウが美人だからって男は手ぇ出すなよ? タルナ、この場の指揮を()ってくれ。後は任せる」

「な!? おい、村長!」


 口早にそう言い、猫目のタルナの反抗も聞かずにこの場を後にする。

 フォルシーナが居るとされる小屋まで歩調を早めて向かった。

 小屋に着けば、ノックも無しに扉を開く。


「フォルシーナ、いるか!?」


 同時に口が動いた。

 しかし小屋の中は無人で、何に使うとも知れない白紙の紙が床に散らばっているだけだった。

 まぁ、いないのは当然だろう。

 死体があるんだ、火葬()しくは埋めているかするはず。

 その場所の予想もつかない。

 だが、ガキンチョも連れて帰って貰ったはずだ。

 収容している場所に居るかも知れない。


「……行くか」


 小屋の扉を閉め、俺は再び足早に移動を始めた。


 途中に裏から集会所の様子を伺った。

 誰かが発動した【黒魔法】によってできたテーブルで村の女性の多くと一部男が黒いナイフで魚を(さば)いている。

 タルナは役割をこなして料理を作ってない村人達に何かを言っていた。

 多少なりと頭のキレそうな奴だなと思ったが、どうやら俺の目に狂いはなかったらしい。

 20秒も見ていないうちにまた歩み始め、収容場所に到着した。

 扉を開ければ、後ろ手に束縛(リストレイント)で拘束され、無色魔法により重力を増されて立てないようにされた男女計9人が居た。


「……あ?」


 9人。

 昨日までは7人しかいなかった筈だ。

 俺は誰が増えているのか確認する為、1人ずつ顔を見た。

 俺がこの大陸で初めて戦った男、その男の家に居た薄着の女達、それに家周りで俺に殺意を向けてきた7人はしっかりいる。

 さらに増えてたのは例のガキンチョ。

 ここまではおかしくない。

 だが、9人目。

 そこには右の頬が赤く腫れ、気絶しているナルスがいた。


「……なんでナルスがこんな所に……?」

「私が襲われそうになったからですよ」

「!?」


 咄嗟に振り返る。

 そこには片手を腰に当て、呆れた様子のフォルシーナが立っていた。


「……襲われ?」

「そうです。彼にとって、私は美人だったんでしょう」


 言っている意味がわかった。

 殺されそうになった、ということではないのか。

 なるほど、女性はそういう意味でもこの大陸では辛いわけだ。


「……フォルシーナ、悪かったな」

「ヤラランが謝ることではないです。西大陸(ここ)じゃいつ何が起きてもおかしくないと思ってますから、自衛ぐらいできますし」

「……まぁ、お前はそういう奴だわな」


 フォルシーナは魔力が少ない。

 つまり、善意も悪意もそんなに無いのだ。

 創作意欲と俺への敬愛ぐらいしか持ってないんじゃないかと思うし、彼女が人を信じず疑っているのも仕方のないことだろう。


「それよりも、何か言いたいことがあるんじゃないですか?」


 不意に問われる。

 確かに、もう1つ聞きたいことがある。

 ネルビィスの死体の所在だ。

 だが、


「なんでわかったんだ?」

「顔に出てますよ。それに、何年一緒にいると思ってるんですか?」

「……なるほどな」


 それを言われちゃ俺は何も言えない。

 フッと笑って、フォルシーナに尋ねた。


「ネルビィスの死体は?」

「処理方法をどうするか悩んでたんです。村と森の(さかい)ぐらいにある木に(もた)れさせてあります」

「わかった。粗末な物しかできないが、墓を立てて埋めよう」

「仰せの通りに」


 フォルシーナが両手を胸に礼をする。

 俺たちは早急に作業に取り掛かった。











 日が少し傾いた。

 その頃には木を(つる)で結んだ十字架の前で、俺とフォルシーナは膝を折り、祈りを捧げていた。

 どういう気持ちであったかは知らないが、死ぬまで村の為に作業をしていた。

 最初の犠牲者でありながら、立派だったと思う。


「……さぁ、ヤララン。そろそろ行きましょう」

「……あぁ」

「……。……泣いているのですか?」

「……うるせーよ。俺の勝手だろっ……」

「…………」


 立てぬまま墓の前で(ひざまず)き続ける俺の肩に、そっと手が乗った。

 俺の祈った手は解かれて(そで)で涙を拭いた。

 協力してくれた仲間が死ぬ。

 とても悲しいことだ。

 人を殺し、奪い合うこの場所で、あと何回こんなことが起こるのだろう?


「……私で良ければ、慰めて差し上げますよ?」

「……ガキ扱いすんじゃ、ねーよっ……年の差、そんなにねーだろうが……」

「……左様ですか」


 こすった目が痛い。

 袖に(にじ)んだ涙はただ冷たく肌を濡らす。


「これ、お返ししますね……」

「……?」


 俺の右手に何かが置かれた。

 チラリと見れば、それは神楽器であるヴァイオリン。

 そういえば、まだ返してもらっていなかった。


鎮魂曲(レクイエム)でも、奏でてはいかがですか?」

「……お前にしては、良いこと言うじゃねーか」

「失敬な。私はこれでも、結構良いこと言いますよ」


 力が入らなくとも立ち上がる。

 まだ()き止められぬ涙を拭いながら、ヴァイオリンのケースを開き、楽器を取り出した。

 顎当てもしっかりとつけ――そこでフォルシーナに振り返る。


「お前もフルートあんだろ。付き合えよ」

「……承知いたしました。ですが、お腹も空いたので1曲でお願いしますね?」

「わーってるしっ、鎮魂曲はそんな長くていいもんでもないだろ」


 もっとも、それは独自解釈に過ぎないが。

 フォルシーナが影から取り出したフルートを構えたのを確認すると、俺は後ろ歩きで数歩下がり、立ち並ぶ。

 数度の頷きを合図に、俺たちはフラクリスラルでも有名だった鎮魂曲を、緩やかに奏でた。

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