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/132/:志と恋 その2

「……好き、だと?」


 俺が口を開く頃に、ミュラリルの腕は段々と下がり、俺の頬から離れて床を触れる。

 彼女自身も下を向いて、俺の言葉にコクリと頷くだけだった。


「……そうか」

「…………」

「…………」


 無難な相槌だけを返し、お互いに無言になる。

 言うべき言葉が見つからないのだ。

 唐突の告白に対して、俺はどう反応すればいいんだか、それすらも思い付かない。

 そんな俺を見てか、ミュラリルが自分から静寂を打ち破った。


「……急な告白に、申し訳なく思いますわ。接吻も……その……」

「……いや、いいさ。言わないのも辛いだろ? 俺はあまり地上に出ないし、会えるかもわからないんだからな」

「……はい。だからこそこの機会に、思いを伝えましたの……。わたくしは……貴方が好きなのですわ。どうか、恋人になって頂けませんか?」

「…………」


 熱を帯びた顔で、気持ちの詰まった言葉で懇願してくる。

 潤んだ瞳もその顔も、可愛く思えてはいと頷きたい。

 けれど……。


「俺は、1人の為に生きられない。誰が告白して来ても、俺はこう返答するよ」


 俺にはやるべき事がある。

 それは人間1人の気持ちよりも大きいものじゃないだろうか。

 例え大切な人間1人の気持ちであったとしても、その気持ちを裏切らなければならないだろう。

 俺の答えを聞いて、ミュラリルは悲しい表情を作らず、フッと笑った。


「わかっていますわ。貴方の志すら燃やし尽くすほどの熱烈な恋心が無いと、お付き合いさせて頂けないと」

「……その表現はなんだかな。間違ってはねーんだろうが、燃やし尽くされちゃ困る」

「……ウフフ。そうですわね」


 彼女はすっくと立ち上がり、朗らかな陽気のある笑顔で俺に笑いかけた。


「そういう立派で強い心を持つ、貴方が好きですの。どうか、燃えないでください」

「……燃やす側が言う言葉かよ」

「良いですの。もう失恋したとわかっていますから……新しい恋を探すことに致します」

「……そーかいっ。良い男が見つかればいいな」

「いつかヤラランさんに、わたくしに振り向かなかったことを後悔させて差し上げますわ」

「……んまぁ、俺が後悔する程お前が幸せになるなら文句はねぇよ。頑張れ」

「はいっ」


 失恋と謳っておきながら、悲しみの様子を見せずにニコリと笑うミュラリル。

 俺がどういう人間かはわかってるはずだから、振られても後悔がないのか否や……。

 しかし、この事については俺が追求しても、傷口に塩を塗るようなものだから遠慮しておこう。


「……なぁ、ミュラリル。振られて俺を嫌いになったりしてないなら、コイツをもらって欲しいんだが……」

「……嫌いになんてなりませんわ。でも、コイツってなんですの?」

「あぁ、コレだ。渡す奴がもう居なくてなぁ……」


 言いながら、俺は暗い床から大きな黒いケースを取り出す。

 下が丸っこくて、上に長く伸びたケースを開けて、俺はその楽器を取り出した。


「……なんですの、コレは? ギター?」

「ベースっていう、低音を出す楽器。当然、俺が渡すんだからどんな楽器かわかるよな?」

「……神楽器ですわね? 能力については把握しておりますわ」

「ん、なら説明はいらないな。貰ってくれるか?」

「……信頼の象徴、として受け取らせていただきますわ」


 楽器をケースに仕舞い、ミュラリルに渡すと彼女は楽器を優しく抱きとめた。

 信頼の象徴――神楽器は戦闘に使おうとすれば、死傷者が後を絶たないだろう代物。

 平和を築いた1人であり、信頼できる仲間として楽器を持つには十分な資格があるだろう。


「後は……そうだなぁ、楽器の数分のマフラーと剣作ってるはずだが、ミュラリルは杖が武器だろ? フォルシーナに言って、アレに魔法付けて貰うか」

「……おや? では、またお越しになるのですか?」

「俺が来るかは未定だけど、フォルシーナは来るだろ。1時間も居ないとは思うけどな」

「……そうですの。なら、彼女を応援して差し上げませんとね」

「応援?」

「おっと、なんでもありませんわ」

「……?」


 わざとらしくミュラリルは1つ咳払いをして、話を切り替えるた。


「さて、わたくしも振られてしまいましたし、申し訳ありませんけど、お話しする気分ではありませんの。少し1人になりたいので、先にお帰り頂けませんか?」

「……。あぁ、了解。またな、ミュラリル」

「えぇ、また……」


 俺はすっかり根差した腰を持ち上げ、優しく微笑むミュラリルに見送られながらゆっくりと退室し、それから瞬間移動で地下神殿に戻った。




 最下層でフォルシーナにばったり会って彼女は帰還を喜んだ。

 そして尋ねてくる。


「何かありましたか?」

「……いや、何もなかったよ」

「……そうですか」


 問答はそれだけで、後には会話が続かずに研究に戻った。

 賢いフォルシーナの事だ。

 俺が嘘を吐いた嘘は、見破ったのだろう。

 彼女の顔色は、今日1日重苦しかった。

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