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/123/:一週間

 善悪調整装置と邂逅してから一週間が経過した。

 得た成果は、皆無に等しい。

 装置の図面はあるというのに、図の中の細かな部品の数々、謎の動力、未知のエネルギーら魔法と機械の掛け合わせやら、手も足も出ないのが身を(もっ)て実感できた。

 だからと言って諦めるわけじゃない。

 図面を見て装置がどう動いているのかについて考え、エネルギーの伝達の仕方や働きについて考えた。

 考えても、いくらでも仮定が成り立つし、結局はサッパリだったが……。


「……この部品のもっと細かい図はないのですか?」

「ねぇな。つーかいらねぇよ。その部品ってそれが全容じゃねぇの?」

「私の【自動探知(オート・サーチング)】では金属的な物が中に見えました。もっと中身見れますよ。西の研究者の皆さんは雑だったのですか?」

「……なんも言い返せねぇ。ま、ねぇもんはねぇよ」


 フォルシーナはと言えば、ルガーダスさんをも圧倒するやる気で頑張っている。

 俺はとにかく、まずはフォルシーナやルガーダスのやる事を見て学び、魔法での図面の作り方、ここ数日でフォルシーナが学んだらしい電気や機械の事を死ぬ気で覚えていた。

 ルガーダスはそんな俺たちを見て感心したり少し手伝ったりした。


 もう数日して、ルガーダスが魔物を作る様子を実際に見学することとなる。

 最下層、ルガーダスがドデカいキーボードに触れ、生物精製の画面を映す。

 出された選択肢は善悪の比率を表す画面。

 俺とフォルシーナはその様子を、画面から大分離れた所で見守っていた。


「この先、悪魔力と善魔力を掛け合わせた魔物を作るのか、はたまた魔力を直接他の生命体に注ぐのか、選択画面が出てくる。過去に悪魔力も善魔力も比率分けして人間にブチ込んだようだが、魔力量の変化はあっても精神に何かしらの干渉はなかったそうだ。不思議だろ? 比例して悪い人間、善い人間にならないんだ」

「……? ならば、人間に悪魔力を入れてしまえば良いのではないのですか?」

「そうだな。ただ、悪魔力の注入を行い続けた結果、ソイツは人骸鬼になった。当然、精神とかそんなもんはねぇ。研究者が捕縛してずっと倉庫で眠ってるよ。つまりな、魔力を喰うと姿が変わり、姿が変わると精神が無くなるようだぜ? 随分曖昧な話だけどな。人間を魔物にし、それで世界を平和にするのかが倫理の問題になって議論は研究と関係ない上の奴がやり、結局研究者が拒絶した。人骸鬼産みまくって殺されるかもしれないって思ったんだろ。ま、知ったこっちゃねーがな」


 言って、またルガーダスは画面を見ながら操作をする。

 善魔力:6522。

 悪魔力:3478。

 そして魔物の製造を開始した。

 天井左奥の大きく開いたパイプの放出口からキュゥゥウンと何かを吐き出すとも吸い込むとも言えない音が鳴り響く。

 やがてパイプからは光が現れる。

 黄色と青の絡まった光。

 キュウン、キュウンと音を繰り返し、光の粒子がパイプの先に繋がる大きな透明のボックスへと落ちてゆく。

 光は降り積もり、個体の形を作っていった。


『……! これは!』

「……おお、わかったか?」


 ソレは座っていたと、半分まで降り積もった時点で理解した。

 膝を両手で抱え、頭まで見えると、瞳を閉じて座っていた。


「……にん、げん?」

「外見はそうだな、人間だ」


 俺の呟きを、ルガーダスはあっさりと肯定した。

 それはルガーダスを若くしたような、白髪頭の少年。

 目を閉じ、ギュッと自身を抱きしめて座っている。


「作る比率さえ知っていれば、外見は創造者が自由に操れるみたいでな。わかりやすく、若い俺だ。どうだ?なかなかカッコいいだろ?」

「……それよりも、人間を作れるのですか?この装置は、本当に、何のために……」

「……それよりって、酷ぇなぁ。ま、確かに、この装置の用途としちゃ、人間を作るのは間違っている。それはまた善悪律司神様なりの理由があるんだろ。けど、この装置で出来た生物に知性があった試しがねぇ。コイツらは人間のようで、人間じゃねぇんだよ」


 カツカツと歩き、生み出された少年の元へ向かうルガーダス。

 がむしゃらに透明なボックスの扉を開け、中の少年の肩を優しく叩く。

 少年は一度目を強く瞑り、それから瞳を開いた。


「……あー?」

「おはよう」

「……あー? あーいー? ……るー?」

「……言葉通じるか?」

「こー……あー?」


 何度かルガーダスが話し掛けるも無意味で、彼はため息を吐いて箱の中を後にし、扉を乱暴に蹴って締めた。


「とまぁこんな感じで、言葉なんざ通じねぇ。育成しても無駄だった記録があるようで、俺も人肌寂しくてな、一人作って育ててたが、手があって魔法が使える生命体は狼よりも怖え。結局、処分したよ」

「……処分? まさか、殺したり――!」

「俺は無駄に殺生はしねぇよ。処分っつーのは……」


 憤る俺の言葉を制し、再びルガーダスは画面の前に着く。

 そして再び生物精製の画面に映った。

 カチカチと慣れた操作でルガーダスがキーを押したり指でボードをなぞったりする。

 上の大画面に表示されている数値は――










 善魔力:0

 悪魔力:8694251




「――やめろっ!!!」


 画面に表示された文字の意味がわかった刹那、俺は叫んでいた。

 だが、ルガーダスは手を離すことはない。

 そして先ほどとは違う“生命に投与”で決定を押した。

 キャンセルの方法など画面にはなく、もう止まることはない。

 キュウン、キュウンと機械が不恰好な音を立てて、やがてドス黒い光が降り積もった。

 けたたましい叫び声が響いた。

 機械音は掻き消され、悲痛な人間の声が、この層全体に響く。


「――ウァァァぁアアアアアあああああァァァァアア!!!!」

「お前ら、目ぇ逸らさずちゃんと見とけ。これが平和を築く代償みたいなもんだ。まぁ、大体800万くらい悪魔力使いや人骸鬼になる。普通の殺人鬼とかで50万とか60万だから、15倍ぐらいだな」


 キーボードに手を置いてかったるそうに俺たちに説明する。

 俺は拳を震わせた。

 血が滲むぐらい痛く握っても、心の慟哭は抑えきれない。

 泣きたい思いだった。

 人の形をしていて、声を出して、そんな人間に近しい存在なのに、今彼は、頭を抱え、叫びながら姿形を変えている。

 体は巨大化し、体に着いた人間らしい肉付きは消えて黒い骨が残り、どこから現れたのか軽衫を吐いて着物の帯をし、黒い翼を生やす。

 最後には叫びもなく、キュウンという機械音も途絶えた。



「【完全制御(コンプリート・マネージ)】」


 最後には、冷淡なルガーダスの声だけが耳に残った。

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