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/122/:見守る者たち

今回の話はわけわからないかもしれませんが、とりあえず目を通して頂ければと思います。

 空間に浮かんだモニターには界星試料の様子――ヤララン・シュテルロードとルガーダスという男が映っていた。

 一人の男がその様子を見ながらため息を吐く。


「どうかなされましたか、悪?」


 頭上に浮かぶ紫の板についた無数のボタンをカチカチと魔法の力で押しながら、瞳を閉じた少女が男に尋ねた。

 悪と呼ばれた男は顔だけ少女に向ける。

 左上に跳ねた黒髪、目全体が黒く塗り潰され、瞳が辛うじてわかる顔立ち、高い鼻の下にはため息まじりに言葉が漏れる。


「……いや、(ようや)く界星試料に貴様が目を付けていた男が来てな……界星試料を研究するそうだ」

「ふむ……どれどれ……」


 少女は包帯に巻かれた腕を翳して紫の板を消し、悪の背中の方へと向かう。

 少女には足がなく、代わりに黄色い宝石がダイヤのような形で付いていて、魔法の力で浮遊したのだ。

 悪の後ろに来ると、閉じた瞳が開く――わけではなく、その瞼の上にある2つの目が薄く開いて画面を覗く。


「……善。見たって仕方ないぞ?」

「ヤララン君の顔色を見たかったのです」

「……顔色?」

「希望律司神が遊びに来た時、言っていたでしょう? 大切なのは顔色だと。……ヤララン君のこの顔。なるほど、諦める気は無さそうですね」

「……ああ、そうだな」


 善の言うことを悪も肯定して頷く。

 ヤラランという少年は諦める気が無い、これは2人にとって少しの期待があった。


「……42年前に変化があったばかりか。最近は変わることが多いな」

「それを言うなら、300年前に装置を見つけられたばかりです。ここ最近は動きが激しいですね……」

「時代の躍進は早いものだ。どこの世界もそうだろう?」

「……そうですね」


 時代の躍進と言えば、魔法の発達や楽器作り、音楽の創作が近年、この世界では活発だ。

 近年といっても、当然律司神にとっての近年であるが、人間の進歩の早さには神も舌を巻く。


「……それより悪。貴方の見ていた悪幻種の少女はどうしたのですか? よもや死んだのではないでしょう?」

「あぁ、アレは今解析している」

「解析?」

「ヤララン・シュテルロードが善悪を入れ替えようとしてな……それが上手くいかなかったんだ」

「ほう? 理由は?」

「意志幻種は世界とリンクしているから、魔力の流転より世界同様の存在方法が強制されたようだ。反善の剣なんてものは新しいからな。貴重な情報だ」


 かつて様々な善悪に関する世界を作り、管理してきた2人も善悪が平等の下、星に認められた生命体の悪幻種が善悪の変換が起こった時の情報などは無かった。

 善も感心して微笑む。


「それは良かったです。もう管理律司神に情報を?」

「……一々渡しに行くのが面倒で溜めている」

「ダメですよ悪。……まったく。後で私が行って参ります」

「……別に、500年ぐらい情報滞納しても良いと思うのだが」

「そんなこと言ってると、1億年とか経って催促が来ますよ? 律司神の名が剥奪され、ただの天使や使い、精霊にされたらどうするんですか」

「……俺はもうそろそろ悪律司神にも飽きた。管理のせいで悪意もほぼ無いし、心に穴の開いたような気分をあと何億年続けさせるつもりだ……」

「……しっかりしてください。疲れたのなら100年ほど寝ていても構いません。私がなんとかしますから」


 言いながら、善は男の頬を撫でた。

 彼女の手は包帯で巻かれているのに撫でられた部分が男を癒す。


「……善」

「…………」


 善は白いローブに身を包んでいる。

 悪はその少女を抱きしめても良かったが、黒い甲冑を身に纏ってるが為に止めた。

 本来なら悪意の塊である彼が止めたのは、矢張り管理律司神によって悪意の管理が行われているせいで悪意が薄く、彼の僅かな愛や善意が溢れているからであろう。


「――やぁやぁ。もうコンビを組んで2億年だろうにお熱いね、お2人さん?」

『!?』


 そこに1人の少年の声が響いた。

 2人が反応を示した刹那、2人の前に姿を現わす。

 それはヤララン・シュテルロードと似た容姿を持つ少年だった。

 だが少年は山の字の形をした帽子を被り、軍服のように肩章のついた赤い衣服に身を包み、同色のマントを広げている。

 下半身はシールド状の草摺を腰に左右ぶら下げ、白い軽衫とブーツを履いていた。

 少年はにこやかに笑い、2人に一礼する。


「……何の用だ、“自由”」

「ここは“神別小隔(しんべつしょうかく)研究中界(けんきゅうちゅうかい)”ですよ。無断で入るなどと、貴方は――」

「“隔プライベート中界”以外はどこを出入りしようと制限無いはずだが?君達、恋をしてその脳が腐ったか?はたまた、その頭以外の脳がダメなのかい?」

「……そういう問題ではなく、倫理的な問題なんだが……」

「あはははは!! 僕は自由律司神。倫理なんて関係ないさ。今更だろう?」

「……私たちにとっては関係あるのですがね」


 自由律司神の高笑いに善が嘆く。

 確かに自由の言う通り、神別小隔研究中界は勝手に入ったところで罰はない。

 常識的には研究を見せたがらないという研究者の心理など、自由を総括する神には関係ないのが彼女の眉間に(しわ)を寄せる。


「……それで、何の用だ?それとも用事もないのか?」


 悪がため息混じりに少年に問うた。

 少年は1つステップを踏んでくるりと回り、1周する頃には顎に手を当てて何かを考えていた。


「……少し、嫌な気配がしてね。注意しに来たのさ」

「……注意、ですか? 私達律司神クラスの存在に?」

「いや、直接君達に危害を加える事はないだろう。だけれど、ほら。そこの画面に映ってる少年とかかな?」

「――ヤララン・シュテルロード?」


 自由が指差した少年の名を、悪が呟く。

 自由は1つ頷き、言葉を返した。


「彼、僕と顔立ちが似ているだろう?髪も後ろと前が少し跳ねてるだけで、殆ど似ているよね?」

「……そうですが、それが何か?」

「いやぁね、僕が人間の頃の恋人が半端次元神になっちゃってて、僕と似た顔の人間を殺して回ってるんだ。いやぁ、何度他の神々に怒られたことか……」


 半端次元神、それは管理律司神以下律司神に認められていないながらに律司神前後の力を持つ存在を指す。

 管理の力を持つ管理律司神の能力を跳ね除け、世界を奔放とする存在だ。

 神を離脱した存在などはこれに値することが多い。


「……貴様、前世で何をしたんだ」

「さぁ? いつの間にか彼女が殺されてて、いつの間にか死んだ彼女にうんと恨まれてね。凄いと思わないかい? もう32億年も前のことなのに、まだ飽きてないんだ」

「……貴方のことですから、大方、他の婦女子に手を出したのでは?」

「……一応、心から愛していたつもりなんだがな。他の女を抱いたこともないし」

「……貴様が一途だと、ネタにしか思えないな」

「あはははは! 悪、後で戦闘空間に来てもらうからね?」

「遠慮しておく。面倒なのは御免だ」

「そうだね、やめようか。ともあれ、忠告はしたから帰るさ。またね」

「……ああ」

「こんどは普通に遊びに来てくださいね」


 善が会釈すると少年はニコリと笑って姿を消した。

 おそらく、自分の研究区画に帰ったのであろう。


「さて、私達も研究を再開しましょうか」

「……“唯一神創造”のために、な」


 善の呟きを悪が拾い、2人は離れて各々手を振って数多の機械を出現させた。

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