/116/:その歌の名前
まだ愛惜は第零章しか書いてませんが、向こうを読んでくださった方は今回で話が繋がってるとわかる……ような話のつもりです。
※2017/7/2:愛惜も完結済みになっておりますので合わせてお楽しみください。
眠りから覚めると、ノールは1人で藁を指で弄り、遊んでいるのが目に入った。
他の奴はまだ起きておらず、王もいない。
俺は起き上がってノールの方に向かう。
「よぅ。もう起きたのか?」
「ん、おはよ。悪幻種とかは人間から外れてるのか、基本的に睡眠とか食事とかいらないんだよ」
「そーなのか。便利だな」
「もちろん、疲れは溜まるから定期的に寝るけどね」
「なるほどねぇ……」
それなら徹夜で仕事ができてどこの仕事をしても大助かり……なんて事を考えたのは言わない方が良いだろう。
「悪幻種もいいけど、ちょっと話があるんだよ。外に出ないか?」
「……んー」
外へ誘うも首を傾げられる。
「……用件は?」
「歌についてだ。5分もしないから、頼むよ。ここだとみんな寝てるしな」
「……。まぁ、歌についてなら、わかったよ」
ノールはのそのそと動き、重たそうな腰を持ち上げて立ち上がった。
俺が先導して外へと出て、まだ薄暗い空の下を適当に歩いた。
「……建物が増えてる」
「俺とフォルシーナで昨日建てた。あったほうがいいだろ?」
「……それもそうだね」
建物に挟まれた道が出来ていて、緩やかな斜光が建物の影を肥大化させる。
俺たちをたやすく吸い込む影は途切れ途切れで、歩いてればチラチラと陽光が目に付いた。
「……それで、歌がどうしたの?」
「作詞もするんだよな?」
「……そうだけど?」
「ある曲に、作詞を頼みたいんだ。そして、できればお前の歌で歌ってほしい」
「…………」
ノールは目を見開いて、パチパチと瞬きをする。
「……作詞を頼まれるなんて何十年ぶりだか。引き受けてもいいけど、どんな曲よ?」
「どんな曲、か……世界全員に、誰もが良いところがあるんだ、って伝えられる曲だな。あと、世界平和的な感じで頼む」
「悪幻種に頼むことがそれなの?」
「……確かに変かもしれないけど、昨日のお前の歌声がホントに良かったんだよ。頼む、書いてくれ」
「…………」
少し悩むように腕組みをして目を伏せるノール。
俺は黙して返事を待っていると、ノールがため息を吐いた。
「はぁ……ホント、アンタはしょうもない人だね。わかった、いいよ。だけどね、ウチは世界平和的な想いがない。だから、歌詞が変だったりしても許してよ?」
「変でも気にしねぇよ。俺たちは歌詞なんて書けねぇからな……」
「ふーん……。ま、取り敢えずは楽譜を見せて?そうじゃないと、何にも出来ないし」
「おお、楽譜か」
建物の影ともおぼつかぬ自身の影からピンで留められた数枚の紙が飛び出す。
俺は手書きの譜面が描かれたそれを掴み、ノールに差し出した。
「どれどれ……」
ノールがペラリ、またペラリと紙を捲る。
フルスコアの楽譜だが、ノールが視線を紙から逸らさないあたり、ちゃんと理解しているらしい。
「……ふむ」
全ての紙を見て2度見返し、ノールは1つ頷いた。
「どうだ?」
「うん、凄く落ち着くバラード曲だと思う。ウチじゃこんなの絶対作れないよ」
「……そうか」
「アンタが作ったの?」
「……悪いか?」
「ううん、ちょっと見直した」
優しく、平和を願うように作った曲なのだ。
優しい音色を取り入れて作った俺としても、鼻が高い。
「えーと、曲名は?」
「まだ付けてねーな……そっちで考えてくれていいぜ?」
「そう?なら、この曲をイメージして今名付けさせてもらうけど――」
――Calm Song
ノールが名付けたその名前に異論はどこにもなかった。
フォルシーナから魔法関係の言語を少しは聞いてたからわかるが、それは安らか、穏やかな曲を意味するもの。
優しい音色のこの曲には、ピッタリなタイトルだった。
「早速取り掛かるよ。これ、貰っても?」
「予備はあるからいいぞ。俺たちは城の内部に行くが、また戻ってくる」
「……それまでには書いておくよ」
ノールが自信ありげに言い、そこで話も尽きる。
俺たちは再び、皆の眠る家に戻っていった。




