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/109/:ハヴレウスの事情・後編

「さて、何を話そうか」


 言いながら、先ほどから手に持った黒いやかんを囲炉裏の中に置き、火を付けて熱湯を作り始める。

 そういえば、平然と3色も使ってるが……公爵の族柄ならおかしくもないか。


「城下町の様子とか、知りたい?」

「これから行く予定だからな。教えてくれると助かる」


 素直に俺は頷いた。

 行く前に情報を仕入れておけば、危険も少ないだろう。

 聞くに越したことはない。


「……そっか。城下町の様子だけど、簡単に言うなら悪意の生産場。圧倒的に善意が東に(かたよ)るから西では悪意を生産しなきゃいけないんだよ」

「……つまり?」

「サァ兄が徹底的な独裁政治をしてるとでも言えばいいかな。とにかく住人には酷な生活を強いさせ、脱走しようものならウチが殺す、というわけ。結構人の数が減るの早いけど、増えるのも早いから上手く回るんだよ? ウチの幻覚も5時間ぐらいかければ無理に突破できたし、外からの侵入は半分ぐらい受け入れて、幻覚破るような強い奴は危険因子として排除してた、って感じだよ」

「……ふーん」


 中々上手いシステムだと感心すると同時に、残酷なシステムだと思う。

 強い奴なら殺され、弱い奴が中に入って過酷な生活を強いられる。

 そうして体制や王へ破壊衝動やら殺意やら持たせて悪魔力の増幅、か……。


「善意があっても理性的であれるように、悪意があっても理性は繋ぎとめていられる事が多いからさ、あまり脱走者はいない。寧ろ、サァ兄を殺そうってのが多いけど、サァ兄は【無色魔法】の天才と言える逸材。誰も勝てないんだよ」

「……俺らでも、か?」

「無理だね。どんな魔法でも、サァ兄には対処できないから。気が付いたら空間ごと体が裂けてました、なんてのは良くあることだよ。瞬間移動もするしね、まず勝てない」

「……なるほどね」


 瞬間移動をする相手がいて、気付いたら空間ごと自分が真っ二つ。

 ……どう勝つんだか。


「ま、サァ兄は話通じるから争いはないと考えていいよ。サァ兄は大抵、城下町中心にある城に居て、その地下に神殿があるから、行くだけなら案内して貰えばいいよ。その後はどうなるか、知らないけどね」

「……住民の一員になる、って意味か?」

「十中八九、一員にさせられるよ。キィ様はわからないけどね。見ず知らずの親戚でも、もう親族なんていないから同じような血が流れてるってだけで愛せると思うから」

「…………」


 目を閉じて淡々と予測する彼女は、暗に、自分がそうだからと言いたいのだろう。

 親族、か……。

 俺もフォルシーナも、自分の親類とは随分顔を合わせていないから、その気持ちはあまりわからない。

 そもそも、俺たちは揃って家出したような奴だし、合わせる顔もないが……。


「……ともかく、城下町の人間はみんな狂ってるようなものだから、突然襲い掛かってきてもおかしくないと思っておいて。襲ってきても雑魚だから、できれば殺さないようにお願い。また悪減らされたらたまったもんじゃないよ」

「……悪が減ったら、善も減らなきゃいけないだろ?」

「そうなればいいけど、基本的には偏りができて城から悪意散布するだけだし……。因みに、散布された魔力はいろんな生命体に宿るから、例えば、穏やかな犬が突然凶暴化しても驚ける事態じゃない。次の瞬間に自分の友人が敵になってることだってあり得るんだよ……」

「物騒な話だな……」

「うん。だからこそ、偏れば魔物を作るのが手っ取り早い。もうそろそろ神殿内が魔物でぎゅうぎゅうになってキツいと思うけどね」


 魔物を実際には見たことないが、悪意で作られたなら黒い生き物で埋め尽くされてるんだろう。

 ……あんまり、見たい光景ではないのは確かだな。


「……複雑なんだな。誰がそんなシステムを考えたんだ?」

「今のウチらの体制を考えたのは、フラクリスラルの王だよ。それとも善悪調整装置のこと? あれは昔からずっとハヴレウス城と一緒にあるけど、制作時の文献は一切ないよ。そもそも、昔の技術力で作れた代物じゃないみたいだし、人間が作ったものじゃないとされてるけどね」

「…………」


 この体制が出来たのはフラクリスラル王の手によるもので、善悪調整装置は矢張り考え付く結論は俺やフォルシーナと同じみたいだ。

 だが、今の話を聞いてると、フラクリスラル王が根元にも思える。

 ……話を聞きに行くべきか?

 ヘタしたら命はないであろうが、俺しか聞きに行ける奴だっていないし……。


「……何考えてるか知らないけど、無茶はやめてよね」

「……え?」

「この気持ちがなんだかわからないけど、ウチはアンタ達に期待してるんだ。もしかしたら世界に一泡吹かせてやれるかもしれない、そんな連中でしょ? アンタ達は。少なくとも、ここまでの真実に辿り着けたんだ。42年も続けられたこの体制、変えて欲しいよ」

「…………」


 一瞬だったのか、俺は呆然としてしまった。

 ノールは俺の事を毛嫌いしている風体だったが、その本人に応援されたのだ。

 ……否、嫌いな奴だとしても、今の体制を変えられるならそれが良かったのだろう。


「……なんとしてでも変えてやるよ。しばらく待ってくれればな」

「……その言葉、信じるよ」

「あぁ、期待してくれていいぜ?」

「そう……まぁ、頑張って」

「はいよっ」


 その時、黒いやかんがピーッと音を鳴らした。

 蒸気が出てるし、お湯が沸いたのだろう。


「……長話だからお茶でも入れてゆっくりと、って思ってたのに……綺麗に話が纏まっちゃったね。どうしよう?」

「じゃあ、全員戻って来たら飲もうぜ? 別に俺はまだ飲まなくてもいいし、雑談でもしようや」

「アンタと話すことなんてないよ」

「ひどっ!?」

「冗談だよ」

「お前なぁ……やっぱり、俺の事嫌いだろ」

「さぁ、それはどうだろ? それより、キィ様の成長過程とか聞かせてよ。どう育ったのか興味あるから」

「自分勝手な奴め……はいはい、じゃあ何から言ったものか……」


 キィの事を俺も思い返すことができるし、たまには話すのも悪くないだろう。

 俺は思い出しながらであるが、キィとどのように過ごしてきたのかをノールに話し始めた。

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