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/108/:ハヴレウスの事情・前編

 朝食の匂いを嗅ぎつけたのか、暫くしてメリスタス、キィ、ノールの3人もやって来た。

 ノールとは闘った昨日の今日だけど、向こうも何も思ってなさそうだし、それなら俺らも特に思うことはないから一緒に朝食を頂いた。

 因みに、調理に時間かけると俺が空腹で死にそうなので鍋になり、不味くもなく、まぁ普通、ぐらいの味だった。


「……そういやよぉ、メリスタス。昨晩はキィとよろしくしてたってノールから聞いたんだが、何してたんだ?」

「えっ!!? い、いや、僕たちは健全なお付き合いだからね? キスまでしかしてないよっ……? キィもまだ若いから子供とかできたらあれだし……」

「はぁ? どうしてそういう話になるんだ?」

「……メリスタスくんは読書家だから、そういう知識があるんですね」


 俺たちの会話を聞いたフォルシーナが意味深げに頷いていた。

 なんだコイツら……俺にわかる言葉で喋ってくれ。


「とにかく、変なことはしてないからねっ。そんな事言ったら、ヤラランくんとフォルシーナさんはずっとここにいたんでしょ? 何してたの?」

「俺が起きたらコイツが交代で寝て、特になんかあったわけじゃねぇよ。強いて言うなら、俺が膝枕させられたぐるいだな」

「……ヤラランのこの反応……フォルも苦労してんな」

「いえいえ、もう慣れましたから……」

「……?」


 俺たちの膝枕云々の会話の後に、キィとフォルシーナが声を小さくしてする会話だったが、普通に俺に聞こえた。

 なんだ、俺がなんかしたか?


「……世の中広いね。さすがにウチも、ここまでの会話の流れも理解してない男を見たのは初めてだよ」

「それは俺の事を言ってるのか?」

「自覚があるんならそうだと思うよ?」

「……お前、やっぱ嫌な奴だな」


 何故かノールにすら馬鹿にされる始末。

 今日も態度が刺々しいし、昨日言ってた通り、コイツは俺を割と恨んでるのか。

 ……やるせないねぇ。


 空は一面青に雲がポツポツある暖かな天気だが、俺の心は割と曇りで鍋に使ったスープを飲むと雨のようだと思い、飲むのは止めておいた。


 朝食の後、フォルシーナはキィとメリスタスから刀とマフラーを剥ぎ取って村の隅っこに行った。

 なんでも、2人の装備にも羽衣天技を組み込むらしい。

 今回の事で危険もあるし、保険になるとのことだ。

 2人共、神楽器がないと使えないから有事以外には使うなと後でフォルシーナにうんと言われる事だろう。


 その使い手であるキィとメリスタスだが、ノールに言われて村を散策しに行った。

 何故わざわざ散策など――その疑問は、今からノール直々に俺に聞かせてくれるらしい。


 俺とノールは1つ残された質素な木造の家の中にいた。

 囲炉裏と、奥の方に藁がたくさん、濁った水の溜まった壺以外には特に何もない。

 (ほこり)などがないのは、きっとキィ達が綺麗にしたからなのだろう。

 床に着いてる多少残った血の跡を指で滑らせるとニスの上に触れたようなキユッキュと音を立てるだけ。


「……何してるのさ?」

「いや、意外と綺麗だったから、掃除されてんのかと思って」

「昨日、オレンジの髪の奴とキィ様が掃除してたからね。もちろん、キィ様がやったからウチも手伝ったけど」


 囲炉裏を挟んで俺の正面に座るノール。

 思った通り、あの2人が掃除したようだ。

 整備とかは村々で良くするし、2人とも手馴れてるからな。

 やり方はみんな同じだし、掃除の跡で大体わかる。


「それより、まずはあの2人を散策に行かせたことについて話さない?」


 【黒魔法】でヤカンを作り、青魔法で水を入れながらノールに話を振られる。

 昨日は俺に教える義理なんかないと言ってた癖に、1日経つと人間変わるもんだな。


「あぁ、是非とも聞かせて欲しいね」

「……村って言っても、ここはさら地になってしまっただろう? だけど、城下町を囲って、村はあと15(そん)あるんだ。そうじゃなきゃ、幻覚使ってグルグル回らせることができないからね」

「……あぁ、成る程ね」


 城下町を囲って合計16の村があったと。

 それはきっと、城下町に入れないためか、逃さないために……。


「……というか、あの幻覚についてた解除の呪文はなんだよ?」

「あ、幻覚は呪文で破ったのね?可愛い呪文でしょ? はーしゅらら、えんしゅけーらー♪」

「いや、その感性はまったくわからん」

「……まったく、これだから野蛮な男は。乙女心をわかってないね」

「乙女心がわかってたら可愛いのかよ……」


 これもまさかの乙女心関与か。

 乙女心、どこまで奥深いんだ……。


「という冗談はともかく、キィ様の命でウチは人を殺せないから、代わりに内部から脱走した奴を保護させに行ったの。そんだけよ?」

「……冗談か。本気で乙女心について考えちまったぜ」

「いや、アンタは乙女心を少しは研究した方がいいと思うけどね。昨日今日話してみて良くわかったけど、女ってものをまったくわかってないし」

「わかる必要あるかよ……」


 胡座かいた膝に肘をつけ、頬杖を作る。

 まったく、乙女心乙女心って……男心も考えろよ。

 ……自分で言っててなんだが、男心ってなんだろうな?

 風呂の覗きとかは俺もよくわからねぇから、男心もわからなくていいな……。


「……やれやれ、恋愛の楽しみもわからないお子様なのね。昔のウチとキトリュー様のラブラブっぷりを見せてあげられないのが残念だよ」

「別に見たくもねぇから安心しろ。それより、雑談がしたいんじゃないんだ。いろいろ話してもらうぞ」

「……ホント、せっかちな男だね。そんなナリだとモテないよ?」

「……余計なお世話だこのヤロー」


 残念なものでも見るかのような目で、ため息をつきながら本気で心配される。

 モテないネタを引っ張ってくるんじゃねぇ……。


「それはまぁさておき、ウチに聞きたいことね。年齢の割に若い、とか?悪幻種に目覚めた21歳から歳取ってないみたいだから、42年経ってもピチピチだよ?」

「そんな事を聞きたいんじゃねぇよ。まず聞きたいのは……王ってのは、お前のことか?」

「王? サァ兄のこと?」

「……サァ兄?」


 聞いたことの名前ではあるが、キィ、シィと名前が来たんだから、大体は察せられる。


「そ。大公家最後の生き残りであるサァグラトス様。愛称はサァ様。現王といえば、サァ様しか思いつかないな。というか、どうやって王の情報を手にしたの? 城下町には人を入れこそはすれ、出れたのは1人だけなのに」

「その1人……ミュラルルのことか?」

「あー、確かそんな感じの名前。ウチをぶっ倒して城内に入ったけどサァ兄に外に転送された奴ね」

「……はーん」


 ミュラルルは「僕より強いのは王だけ」と言っていた。

 ということはノールすら倒したということだから推測できたが、矢張り当たりらしい。

 つーかアイツ、単身でよくノールを倒せたな……。


「アンタらもあの無色魔法野郎に会ってたんだ。よく生きてたね?」

「俺の方が無色魔法強かったからな」

「……ふーん。そうなんだ。ま、私の技より強いぐらいだったし、それもそうか」

「ふふん。なにせ、俺は世界一善魔力の多い男だからな」

「…………」

「……なんだよ?」


 突然、ノールの俺を見る目が冷たくなった。

 いや、元から冷たかったが、とても虚ろで心ここに在らずといった様子で……。


「……アンタなんて、死ねばいいのに」


 ポツリと彼女から漏れた言葉は憎しみの塊だった。

 何故そんな事を言うのか、一瞬理解できなかった。

 それは今まで、俺は善人だと自称して恨まれたことなんてなかったから。

 だけれど、これが普通の反応なのかもしれない。

 善意と悪意が平等なんだったら、善意の塊である人間を殺してしまえば、多量の悪意が減るんだから。

 だけれど、過去からずっと覚悟を決めて自分の末路を定めているつもりだ。

 そのために必要だった確固たる情報――善悪調整装置の事も知ったし、実物を見て、フォルシーナが制御できなきゃ、その時は――。


「……まぁ、そのうち死ぬさ」

「死なない人間なんていないから、そのうちっていう返答は困るよ」

「……俺にも目的ぐらいある。だから、まだ暫く生きるのは許せ」

「…………」


 その辺の俺についての未来の話は長くなるし、話すのはまた別の機会にするため、適当に濁す。


「……キィ様さえ悲しませなければ、ウチはアンタなんか気にしないよ。それより、話を逸らして悪かったね」

「気にすんな。それと、キィに悲しませられてるのは俺だ。人目気にせずイチャつくアイツらには疲れてんだよ……」

「あぁ、アンタも一応羨ましがってるんだね。あの銀髪の子は?」

「フォルシーナは家族みたいなもんだ。アイツと恋仲ってのは想像できねぇよ」

「…………」

「……なんだよ?」


 こんどもまた白い目で見てくるが、冷たい目線ではなかった。

 哀れむような目ではあるけど……。


「……なんというか、ごめんね? 本当にそろそろ本題に入ろうか」

「……おう」


 なんだかよくわからないが、焦った様子で話を戻そうとしてくるので話を戻すことにする。

 それより……何をそんなに慌てたんだ?

 …………?

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