表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/167

/100/:幻影

「……どこだ、ここは」


 日輪に照らされる大地を踏みしめ、俺は村と思われる場所にいた。

 今まで見た事のあるような木造住宅に囲まれた道を4人で歩く。

 人の気配とやらは全く感じなかった。

 地図にも書いてなかった場所だが、人もいないのだろうかと疑わしい。

 しかし、争った形跡はいくつかあった。

 壁に血がべったり塗られていたり、半壊した建物が幾つもある。

 なのに、人が居ない。

 隠れていないのは村の寂しさからわかったのだ。

 風か吹けば建物が揺れるだけの静まり返った村内は、何もないと。


「……どうするよ、ヤララン。手分けしてなんか探すか?」

「いや、いい。俺たちの目的地は城下町とハヴレウス城だしな。ここはあえて無視する。行くぞ」


 キィの提案も聞き入れず、村を後にするため歩き出す。

 やがて、またキィとメリスタスがイチャつきだし、まったりとした歩みになる。

 その様子にうんざりしながら、通りがかった噴水に俺は興味を持った。

 白い天女の彫刻が、跪いた人間に手を差し伸べ、人間の口は上を向いて水を吹いている。

 気持ち悪い彫刻だが、流れている水が綺麗なのが意外だった。

 きっと、城下町からの水はまだ綺麗なのだろう。

 その水がここに流れていると……。

 やはり王は只者でないと確信が持てた。

 そうして俺たちはまた進む。


「…………」

「…………」

「あっ! ちょっとキィちゃん、何処触って……」

「え〜、耳触ってるだけなのに〜♪ ウフフッ……」


 何も聞かなかったことにし、さらに歩み続ける。


「…………」

「…………」

「メリスの匂いがする〜」

「あっ、コラ。後ろから抱きつかないでって」

「……おかしいな」

「ですね」


 俺も漸く異変に気付いた。

 フォルシーナも気付いていたのだろう、俺の言葉に頷いた。


「……あん? おかしいって、どうしたんだよ?」

「そうだよ。僕たち、ずっと進んでたでしょ?」

「長すぎるんだよ。村を出りゃすぐ城下町があってもおかしくない距離だ。なのに――」


 俺は辺りを見渡した。

 並々ある建物の奥には無限に続く青の空がある。

 道の先には水平線まで道が続いている。


「……なんで城が見えねぇ?」

「さあな? 壊されたんじゃね?」

「王は、いる。城はあるはずだ」

「じゃあきっと、隠居したんだよ〜」

「…………」


 キィとメリスタスの呑気な言葉はアテにならなかった。


「フォルシーナ、どう思う?」

「幻覚か、それと同等の力が働いてますね」

「……幻覚。そうだよな」


 一番しっくりくる回答だった。

 俺たちは直線の道を進んでいるんだ、終わりがないなんてありえないんだからな。


「……もうちょっと行くぞ」

「はい」

『は〜い』


 4人でまた歩き出す。

 どうせ術者が見えなきゃ俺たちにはどうすることもできない。

 俺とフォルシーナは注意を喚起しつつ、後ろから続く2人も気にしながら歩いた。


「! 噴水……」


 もうちょっとと言っておきながら、かなり歩いた。

 1時間ほどゆっくりと歩いて、また人間が口から水を出す噴水を見つける。

 俺たちはグルグル回っているのか?


「……全員ここにいろ」

「え? ちょっと、ヤラ――」

「【羽衣天韋】」


 もはや使い慣れた紫のマフラーを羽衣の形に展開し、宙を舞う。

 徐々に高い高度へと登っていき、空から地上を見渡した。


 俺の立っていた直線の道と、それを囲うような木々と空。

 それ以外に見える景色の全てが、霧に覆われて見えなかった。

 俺は幻影であることに確信を持ち、元いた場所へと緩やかに落ちていく。

 地面に降り立ち、一息つくとみんなが寄ってくる。


「どうでしたか?」

「幻覚に間違いない。けど、術者は見当たらなかった」

「ふむ……」


 行き手を阻むような幻覚。

 結界のような、一度魔力を与えたら持続するタイプなのだろうか?

 俺たちにはもう干渉してるし、それなら――


「フォルシーナ、【自動探知(オート・サーチング)】を」

「はい」


 俺に言われて、フォルシーナは左手を俺の右肩に這わせ、右手で白い文字の刻まれた青いパネルを展開する。

 バーッと白い文字が次々と表示されていき、フォルシーナは文字を目で追う。


「……ふむ。解除の仕方もわかりました」

「流石だな。どうすればいい?」

「キーワードを言えば解けるみたいです。えーと、は、はーしゅ、らら、えんすけーらー?造語でしょうか? 変な言葉で――」

「? どうした?」


 突如、フォルシーナが目を見開いた。

 彼女が見る先は、何もない。

 が、それは幻影が見えてないからだろう。

 本当は何が見えるんだ?


「……俺も解くぞ?はーしゅ――」

「ダメです! こんなのは見ちゃいけない!」

「!?」


 キーワードを呟くのをフォルシーナに邪魔される。

 何をそんなに慌てる?

 お前が血相変えるほどのものっていうのは……。


「一体、何が見えてるんだ?」

「……死体の山です。乾いた血の跡も、白骨死体から最近死んだと思われるものまでいろいろありますが――死に方がエグいです」

「死に方?」

「四肢が()がれていたり、全身に穴が開けられたり、そんなのは当たり前です。贓物が出てる姿なんて、見たくないでしょう?」

「…………」

「とにかく私が最年長なんですから、私に任せてください。無色魔法で集めて埋めますから……」

「いや、お前だけにやらせるかよ。俺も幻覚解くから、一緒に弔おう」

「……キィちゃん達は?」

「アイツらはしばらくほっといていいだろ。すぐには死なねぇし、死体の山は刺激が強いからな」

「……了解です」


 俺も幻覚魔法を解いて、吐き気を抑えながらも2人で死体の処理をした。

 道の先々に放擲された死体、これは城下町に踏み込んだ人々の死体なのか。

 それとも、踏み込む前に幻覚に引っかかり、何かに殺された死体なのか。

 どちらかはわからない。

 だが、こんなことをするのなら、俺たちは王を倒さなくてはならない。

 その事を、弔いながら心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ