祭り3
スティク達を含めクラスメート達は戦闘開始の電子音を待っていた。
時間内にやれることを全てやり クラスメート 一丸となってのこり5分を切った開始時間を待っている。
この張りつめた緊張感は、夢の中でも好きだった。
ピンと張った蜘蛛の糸の様に、風が吹けば切れそうな緊張感を感じていたいと思った時、夢の中でも相場で大成功しているのだ
この緊張感を無視し、何も感じない事で、一つずつ失敗を重ねて行ったのだ。
今、どちらの記憶を漂っているのかスティク自身解っていないが、今の時、スティクは交差する2つの記憶を、違和感なく自分のものにして使っていた。
クトウ達を助けると口に出してから、自分で考え 手を打ち 行動した。
『この勝負 勝ちに行く』
『ウゥゥー』と戦闘開始を知らせる電子音が鳴り響く
「それではみなさん いきますわよ
私たちの華麗なる作戦を敵に見せつけてやりましょう おほほほほほ…」
戦闘開始音とは別に、ローズ嬢の、笑い声を合図に、クラス1-1は行動を開始した。
ローズ嬢率いる1班は、小高い丘の、ビクトリーフラグを中心とした陣地にて持久戦を展開する為に潜み。
ビシャス率いる2班は、別働隊として、敵の攪乱を行うためのV字谷に出発して行った。
敵がここに来るまで、約20分 攪乱で30分 陣地での持久戦で40分 計90分
予定通りこの陣地を守り抜けば、今年の野外模擬戦 勝利できるのだ。
先陣をきる ビシャスは、2班を率いて先頭を走りながら、昨日打ち合わせた作戦を反復していた。
味方の居る陣地に向うには、今から向かう、左右5m程度の高さのV字谷か、川を渡る2ルートしかない。
ケイメイが考えた計画では、敵が川を通るルートを選択したばあい、V字谷は放棄し、敵クラスが陣地を攻撃している後方から攪乱に専念すると聞いていたが、敵クラスは V字谷のルートを選択したと、今、チャ・チャより連絡があった。
昨日は不正な行為までして、敵の動きを調べて勝ちに行こうとするスティクと衝突したが、 今、この高揚感を感じれば、昨日のことなど些細なことに思える。
ビシャスは計画通り、
デュアルライトセーバ(銃)で人を撃てるクラスメート10名からなる奇襲班をV字谷の奇襲ポイントに潜ませ、 銃を人に撃てない クトウ達 女子班4名は、攪乱班として、V字谷の上にそれぞれ潜ませた。
それから数分後、幹部養成クラスが整然と谷間の入口まで行進してきた。
敵クラスは、V字谷の入口で何かを調べた後、40人の隊を 停め 先発隊5名で、まず、V字谷の出口を確保するように谷道に入ってきた。
『ケイメイの計画通り、谷の上に人が潜んでいることを知られず、敵クラスが進んで来たのは確認できた。 しかし、あの場所を、確保されるのは まずい!』 ビシャスは先発5人が谷の中程にきた瞬間 谷の上にいるクトウへ、ヘルメットのレシーバーを使わず、アナログな光で合図を送った。
すると谷の上から 大音量の学院歌と共に、大量の消火剤とテント布が、小さい谷間に舞い上がり、敵の視界を奪う。
白い消火剤の粉は、敵生徒のヘルメットやゴーグルの隙間から、目や鼻に入り視界を塞いだまま、 最初の敵クラスの5人が真っ白になって、谷を駆け抜けてきた瞬間
ビシャスが
「打てー!」
力いっぱい叫ぶと、5人目がけて一斉にデュアルライトセーバ(銃)を打ち込んだ。
敵クラスから うめき声が、聞こえてきたが ビシャスは奇襲が終わると即座に「撤退しろ」、ビシャスと、レッド、谷の上に2人残し、残り2班全員を次のBポイントに向かわせた。
1分後、舞い上がっていた消火剤が薄れ、見通しの良くなった谷道を 幹部養成クラスは、次は全員で谷道に突入しようと臨戦隊形を取って入った瞬間、先ほどの反対側の谷上から大量の消火剤が、撒かれた。
消火剤が撒かれたことを確認すると、ビシャスは
「撒くのが、早すぎる クトウの奴 焦ったな」
と言って、岩影に隠れ 敵クラスの様子を伺った。
再度、消火剤が撒かれた事を察知した、幹部養成クラスは素早く後退し、2度も同じトラップに引っかからなかった、しかも
敵クラスのリーダから、
「敵クラスからの再度奇襲の可能性がある、視覚が確保できるまで、姿勢を低くして待機」
とすかさず指示が飛んだ。
ビシャスとレッドは、敵クラスの隙ない状態を確認して撤退する。
「さすがは、特別クラスだな 混乱せずに隊列を建て直した 2個目のトラップ
『学院歌で同士打ち作戦』 は失敗だ」
「しかし殿下、あの学院歌 何か意味があったんでしょうか?」
「音楽を聴かせて 敵を、リラックスさせたかったんじゃないか? さあ皆に追いつくぞ レッド!」
そう言って、次の作戦ルートに戻ってゆく。
「違うでしょう… しかし、殿下のセンスも人とは違うし まあいいか」
と、レッドも走り出した。
◆
敵クラスのリーダは、生存判定カードが赤になった人物からは情報を得ることが出来ないので、敵の詳細が解らないことに焦っていた。
「先ほどの攻撃前に、本当に、反応は無かったのか!」
「反応はありませんでした。」
「それじゃ、今の別働隊は、誰れもモバイル端末を利用していないのか?」
先頭に立つ人物は、苛立たしそうに言葉を返すと
横に居た隊員が、
「5人も被害がでましたよ 幹部養成クラス設立以来の大損害じゃないですか? リーダー」
僻みっぽく声を掛けた。
「黙れ レオ 私は、この班のリーダーだ、失敗談は後で幾らでも聞いてやる。」
「分かりました、その言葉 忘れないように お願いします。」
「分かった。」
リーダーはレオとの言葉のやりとりを中断し
「仕方ない、ここで止まっていても時間が無駄になるだけだ、注意して、敵陣営まで進むぞ! 進発」
クラス1-5の残り35人は、ローズ嬢の守る陣地に向かい規則正しく行軍してゆく
生命判定カードが赤になった、真っ白なままの5人の生徒を残して…
◆
敵クラスが、ローズ嬢達の守る丘までくると 丘の上に立つビクトリーフラグを
中心に、凍結防止剤を土嚢の代わりに高さ1.2mほど、幅7m程度の半円状に積み上げられた、防御陣地が目の前に現れ遠目から見ても驚いていた。
驚いてる 敵クラスを見て ローズ嬢は、
「みなさん 敵クラスは驚いていますわよ。 今こそ、わたくし達の成果を今こそ見せる時ですわ!
おほほほほほ…」
と言い終えたとき、敵クラスから
『パーン!』
一発のレーザー光が発射される音と共にローズ嬢のヘルメットから 『ピッ』と音が鳴り 周りの雰囲気が一瞬で凍りついた。
ローズ嬢は、大声で
「え、ええ! わたくしのカードが赤<死亡:戦闘不能>に、あんなに離れているのに、わたしくに当たりましたの?」
ローズ嬢の言葉に被せるように、チャ・チャが
「みんな土嚢にふせて! 敵はかなり すご腕の狙撃手だ!」と叫ぶと
クラスメートが一斉に、土嚢に伏せた。
「わたくし、まだ 何もしてませんのに なんでですの!」ひとり茫然と立って周りを見渡していると
スティクは
「ローズ嬢、残念だが レッドカードだ 宿営テントでクラスが勝利するのを待っててくれ」
「そ、そうですわね! 仕方 ありませんわよね わたくし、離れますけど
みなさん わたくしは、力になれず心苦しいですが、本当に、がんばってくださいませ」
そういうと、残念そうに、一人防御陣を離れてゆくのを確認したチャ・チャが
スティクの近くに寄ってきて周りに聞こえる様に、大きな声で、
「ローズ指揮官 いきなりやられちゃいましたね。」
周りに聞こえたのか、ローズ嬢の事を気にして忍び笑いが聞こえてきた。
「私達の指揮官は自分を犠牲にして緊張を取ってくれた 本当にすごい人だな チャ・チャ」
とスティクも大声で返答すると
「そうですね それとやっぱり、謎だった ローズ嬢の笑い声
さっきの凄腕の狙撃手並みの笑いだったんですね」
チャ・チャの最後の言葉に クラス全員が耐えきれず、大きな笑い声が上がった。
「みんな! ローズ指揮官の為に勝利するぞ!」
クトウの様に一拍置いた後、スティクが吠えると、
皆「おぉぉー!」と
クラス全員 鬨の声を上げた
◆
『パーン!』
敵クラスのリーダーが味方陣地に向けて打った、デュアルライトセーバ(銃)の音は、
林に潜んでいる ビシャス達2班にも聞こえてきた。
潜んだまま、味方陣地を見ていると、しばらくして ローズ嬢が陣地から離れて行った。
「ローズ嬢、敵のレーザー光に当たったようです。」
クラスメートの一言に
「あれだけ張り切っていたのにな 悔しいだろうな」
と、ビシャスは言葉を区切り
「敵クラスのリーダーも流石、幹部養成クラスのリーダーだな 指揮もすごいが射撃もすごい これで、戦闘まで強いとなったら 俺のライバルに欲しいところだな」
「ライバルなら スティク様 が居るのでは?」
「アイツは黒すぎて、ヒーローのライバルにはならん。 悪の組織の幹部で俺に倒されるのが、お似合いだ。」
何処まで行っても 『ハリセンヒーロー』だった。
「さ、俺のライバルになる可能性のある奴が行動を開始したぞ、みんな気を抜くな」
「それと、通信機器はまだ、切っておけよ 俺たちの大活躍が、失敗したらまずいからな」
◆
幹部養成クラスがスティク達クラスの防御陣地 出現に驚いていると
「なんだありゃ あんなの有るって 聞いてないぞ」
「あんな所、どうやって攻めるんだ」
「殿下のクラスだろ 奇襲の件といい、防御陣地とか不正じゃないのか?」
防御陣地を見た生徒は、次々に不安を口にする。
「きさまら 黙れ! 敵クラスが何もせずに、的になるだけだと思っていたのか!
お前達 ふざけすぎだぞ! だから 先ほどの単純な奇襲でも狼狽えるのだ
今、戦っている敵クラスとのやり取りが、本当の戦だ!」
リーダーの一喝に、静まるクラス
レオはそんな不機嫌な、リーダーを見て ほくそ笑んでいる。
リーダはそんなレオを見咎めて
「レオ 何がおかしい」
リーダーに睨み付けられるとレオは、
「いえ、敵陣地より 奇妙な笑い声がするもので」
と はぐらかすと、わざと敵陣に視線を向けた。
リーダも視線を向けると、敵陣地から確かに
「おほほほほほ…」と呑気な笑い声が聞こえてきたので、
無言で、手に持ったデュアルライトセーバ(銃)を構えると 約600m先にいる 呑気に笑い声を出している、金髪女を狙い撃った。
『パーン!』
デュアルライトセーバ(銃)の大きな疑似音が流れ、狙った相手に当たったのだろう、敵クラスの陣地が水を打ったように静まると、一発のレーザー光が、こちらクラスの鬨の声と共に、戦場の流れを変えた。
敵が沈み込んでいる、今が強行突破のチャンスかと考えたが、程なく
敵クラスの陣営から、笑い声が上がったと思うと、鬨の声も上がった。
リーダーは
「なぜ 笑い声が?」
「さあ 皆目見当つきません」
「そうか」
強行突破をあきらめた、リーダーはクラス全員を整列させ
「これから我が班を 2班に分け、左右から回り込み敵クラスの ビクトリーフラグ 奪取を試みる。
2班は20名編成でレオを班長に、あの敵クラスの防御陣地の草原を左側面から回り込み、
1班は15名編成で私が率いて、防御陣地の林に面した右側面から回り込み、
私の合図で同時に攻略する。」
「意見のある者は!」
「リーダー後方より、個人モバイル端末の反応あり」
「数は」
「約 20」
「本隊の陣地の人数 約20、先程の 攪乱してきた人数と数は合うと思われます。」
「殿下のクラスも なかなかやる 今までの、的だったクラスと一味違うな」
「リーダ どうしますか?」
レオがおもしろそうに聞いてきた。
「模擬戦闘終了までに余り時間が無い、背後に居る敵クラスの個人モバイル端末を監視している2名を監視に集中させ、各班の中心に置いて行動する」
「監視者は、敵クラスに動きが有れば即座に知らせよ」
「了解致したしました。」
監視員2名が返事する。
「最後に言っておく、所詮、敵クラスは素人の集まりだ。 何か仕掛けてきても、狼狽することなく行動すれば、我々は勝てる。 いいな!」
「はい!」
一同 声を上げると
「では 作戦開始!」