祭り2
初戦の戦闘で疲れているにも関わらず、ローズ嬢を指揮官に置いた クラス1-1は、
スティクの戦い方に、従わない者(特に ヒーロと嬢)も居たが、
クトウの丁寧な説明により、最後は、クラスメート一丸となって、この野外模擬戦闘で優勝しようと、盛り上がった。
その作業で一番苦労したのは クトウだと断言できる。
交代での土木作業中のもめ事や 幹部養成クラスを驚かす仕掛け作りを行う
不衛生な場所の、不満など、徹夜を気にせず、仲裁に当たった。
クトウのおかげで 特にクラスメート同士のトラブルも発生せず
クトウの持つ、優しさと粘り強さが、半年間でクラスに馴染めなかった数人
のクラスメートにも、間を取り持つことで、本当にクラスメートの
気持ちをひとつにまとめた。
蛇足だが、実作業では、人を狙って銃が打てるか判断する人選やモバイル端末の預かり作業など、リーダー自ら(ハリセンヒーローと嬢)”正義”や”我儘” を言いだし作業を遅らすが、
クトウやチャ・チャなど、交渉事に長けた者達が、1つ1つ丁寧にしかも、
全力で動き回ることで 和気あいあいとしたノリを持続して、リーダー①②達のご機嫌も損ねず、困難な作業も終わらすことができた。
そんな クトウの姿を見て スティクは素直に
『すごいぞ クトウ』
と 感心しきりだったが、
その苦労したクトウの功績も 嬢が一言が、全てをさらってしまった。
「クトウさん 私の指示に掛かれば、この程度の作業など 簡単ですわ おほほほほほ…」
といつものソプラノ長での、嬢の声
朝の6時頃、けたたましい目覚まし代わりに、嬢の声が クラス1-1の宿営地
に広がり スティクやビシャス、その他の仮眠から目覚めたクラスメートが
次々外に出てきた。
後、2時間もすれば 戦闘開始の電子音が響くだろう
朝方のすがすがしい風を顔に浴びながら、目覚めの悪いものは怒り気味に、
寝不足に陥っているものはゾンビの様に、指揮官であるローズ嬢の前に集まると
颯爽と用意された台の上に立つ ローズ嬢 その横には
「ローズ様 予定の集合時間よりまだ1時間も 早いですよ」
と、嬢を諌めるクトウやチャ・チャ
「この私が、少しでも早く、みなさんを鼓舞しようとしているのです。
少しでも早く起こしてあげて、皆さんを勇気づけるのに 何が悪いのですか!」
今回 最大のトラブルメ-カー(指揮官)がクトウとチャ・チャや
周りのクラスメートを巻き込み、朝一番から早くも揉めていた。
スティクの、第二の敵になりかけている ローズ嬢の声に
第一の敵は、
「腹も減ったし みんな起きてるなら、朝の体操くらい少し早くても いいんじゃないか?」
斜め上の返答を嬢に返すビシャス
「体操じゃありませんは殿下、士気の鼓舞ですわ 鼓舞」と2度言った。
「まあ何でもいいが… それじゃ早く始めてくれ 腹が減ってしかたない」
嬢が 何か言い返そうとしたが、
クトウはローズ嬢の言葉を止め
「ローズ様 リーダーの仕事はローズ様の言う通り、士気を鼓舞したりすることも重要な仕事だと思います。
でも、それ一つだけじゃないはずです。
クラスの皆も、徹夜で作業をしてる人達もいますし、寝る場所が変わって体調を崩した人もいます。
そういう人達を気遣ってあげたりすることが 本当の 指揮官じゃないかと 僕は思います。」
いつもと違う クトウの言葉に、ローズ嬢は驚いた顔で、クトウを見ている。
周りのクラスメートも、いつも優しい笑顔のクトウが怒り、しかも大声で、
ローズ嬢を叱りつけた。
スティクだけでは無く、クラスメート全員の視線が、ローズ嬢の次の言葉に集まる。
――――――
ローズ嬢もクトウの必死さに気づいたのであろう、何時もは気づかない
クラスの雰囲気を感じたのかもしれない。
嬢は固い表情を浮かべ、クトウを見つめ、クラスを見渡して
「リーダーとして感情が高ぶってしまい 皆さんには、多大なるご迷惑をお掛けし お詫びします。」
と頭を下げた時、いつもの高飛車な嬢が頭を下げたことによって、クラスが静り
ローズ嬢のソプラノ長の声は、震える様な涙声に変わり
「ただ私は、この学院に来る前から、わたくし一人で何かしてみたいと思いこの学院に入学いたしました。
この模擬戦闘で、皆さんが必死になって前に進む姿を見て、わたくしも皆さんに 突き動かされる様に、この胸を焦がしこの高みからなら、何かが見つかるのではと、殿下達に我儘をいい指揮権を譲っていただきました。
この地位を皆さんから認められた、今 わたくしは、とても充実しています。
それと、今日 皆さんと一緒に戦えることを誇りに思います。
リーダーとして 相応しくないと言われる方が一人でもおられるなら この地位は殿下へお返しします。
お返ししても、1人の生徒としてこの 野外模擬戦闘に加わらせてください。
これは わたくしの、たってのお願いです。」
ローズ嬢の檀上でのスピーチに、皆食いいる様に聞き、スピーチが終わると
ローズ嬢の演説に泣きそうな クトウの拍手が合図になって
「俺たちが誇る クラスの実力、今日はやつら(幹部養成クラス)に見せつけてやるぞ!」
誰かが叫ぶと
その一言で、クラス全員が
「おぉぉー」
大歓声が上がった。
一生懸命に取り組む姿に、人は感化され 伝わってゆき この瞬間
クラスの士気が最高潮に達した。
クラスの皆が、心を一つにした。
スティクは、ビシャスもこの状態に興奮しているだろうと、
「士気が上がるのは良いが、ローズ嬢も、タイミングを考えてくれれば良かったのに…
そう思わないか ビシャス」
そう言って、ビシャスへ水を向けると
ビシャスはいつもと違い、感慨深げに
「あの、引っ込み思案なローズが、俺を押しのけてまで、前に出る様になるとわ思いもよらなかったな」
「知ってるのか?」
「スティクお前も知ってるだろ? 昔 王宮で遊んでた ローズ嬢じゃないか」
「え」
「知らなかったのか? お前は相変わらず 鈍い」
「お前にだけは言われたくない言葉だが、あの引っ込み思案な我儘姫様か?
そうか あの時の…」
思い出したく無い記憶は、夢の記憶だけでは無かったことに気づいた。
ビシャスは、そんなスティクを笑いながら、言葉を掛ける
「そうだ、あそこで輝いて立っているのが、その引っ込み思案な我儘ローズ姫様だ」
「ああ 姫様 輝いてるな」とスティクは呟いた。
◆
士気が大いに盛り上がった、ローズ嬢の演説の後、一旦解散になり、交代で食事を取ることになった。
20張りはあったであろうテントは、昼夜を通してのトラップ作りに使ってしまい、残った5張りのテントの中、クラスメートは思い思いに食事をしている。
忙しく働くクラスメートから野戦食を受け取ったスティクは、クラスメートから少し離れ、ビクトリーフラグが見える草場に腰を下ろすと これから、始まる模擬戦で、思いを馳せた。
◆
スティクが野外模擬戦闘の副官に成った時から、毎年1年生しか行わない模擬戦闘で、何故 守備側は陣地を固め戦わないのか、考えていた。
常に悩まされている、夢の記憶の中にも 何かをしたということが無く、疑問が膨れてゆき、頼んでいた資料を持って現れた ライに一度聞いたことが有った。
「ああ それか 入学からまだ、学院に慣れてねえところで、お前ら一年が そんな小難しい事こと考えられねえんじゃねえか?
陣地作成なんて講師も、お前達に教えてねえだろうしな」
「それだけの理由なんでしょうか?」
「後輩君よ、今年の俺ら(2年)はロボットを操って個人戦、3年はクラス対抗艦隊シュミュレーションって毎年やってるんだぜ、何も1年だけが、ポイっと放り出されてるわけじゃないんだぜ」
と言って、ライは少し考えた後、
「まっ 悩んでる後輩助けんのは先輩の役目ってもんだ。
悩んでるんだったら 一度他の奴らの意見、聞いてみろよ」
と言ってチュワードが置いていった端末画面を開けてWebサイトを開いた。
ライに「なんのサイトです。 ここ?」
と聞くと
「物好き共が運営してる 学院内の匿名掲示板だ。 これに 今言った疑問、入力してみろよ」
といわれ、”1年の模擬戦闘での陣地作成について”と打ち込むと、即座に数百という書き込みがUPされた。
「皆、暇人だな もっと何かすることあるだろうが」
と、誘ったライ自身も驚いていたが、その中の書き込みに、引っかかるものがあり、ピックアップした。
・
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「ああ、俺も1年の時 参加してるが 何も聞かされねえで 放り出されたんじゃ そうなるよ」
・
「事前に聞いてても、場所が変化するし 時間も資材もない、数人が知ってるくらいじゃ何も出来ないな」
・
「1年にしかイベントが無いところを考えると、人を打つのを慣らす為の 軍事養成クラスの餌じゃねえ?」
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最後のコメントが気になり
「先輩 こういうことも、本当にあるんでしょうか?」
ライに聞くと
「あくまで 物好きどもの意見だな」
「それに こいつの意見が、本当だとしても 俺ら学生には 物事が、大きすぎて手に余るわ」
たしかに、一致しない部分もある夢の記憶を信用できないのと同じよに、結論がつかないまま話を終え、ライが帰る時
「そうか! やっと思いついたぜ 大穴を演出するいい手がな」
ライの言葉に、不正の臭いを感じたスティクが
「私は、先輩の腹黒さ、嫌いじゃないですが クラスの『ヒーロー』は、先輩の黒い計画に、人形の様に首を縦に振りませんよ」
と警告すると
「後輩 うまく計画が進むよう、ハリセンヒーローとダチのお前が、何とかしろ。
それで俺達の計画が上手く行く確立が上るってゆうのによ! やらねえでどうする。」
と言われると、
「あと、ライ先輩が思ってるほど クラスメートは腐っちゃいませんよ」
「まあ お互い、腐ったもん同士が裏で手を取って踊れば いいじゃねえか
所詮、演出だよ 演出、それに 競り合った方が 賭けも 盛り上がるだろうが」
あの時 ライ先輩へ、曖昧な返事を返したことで、ローズ嬢”下剋上”事件を発生さしてしまったのだが、
ライ先輩は、この状況を知ったら 大笑いして喜んでるだろうと容易に想像できた。
そのライ先輩が、野外模擬戦闘が始まる2日前に ケイメイを連れて、計画の最終摺り合わせで、
何故か溜まり場になってしまった チュワードの部屋にくると
「今日は ハリセンヒーロー と ケイメイ姉 は来てねえな?」
「ビシャスは、委員会に出席して、 クトウには、先輩の言う通り、席を外してもらいました。」
「そうか」
と言うと小型の端末を渡してきた。
「これは?」
「お前らが行く戦闘地、あの地域以外には通信出来ねえようになってるからな、俺らとのやりとりは
この端末を使え」
「それと、この祭りを企画したお前らにビックニュースをプレゼントしてやるぜ
名前は出せんが、クラス1-5とやる時は、学内の大物が力は貸してくれる約束を取り付けてきたぜ うまいことやれや」
「そんな事言われると誰か 聞きたくなるじゃないですか?」
「まあ、お前らが3年間学校に居れば いつか会えるわ 楽しみに待っとけ」
とはぐらかされた後、
「最後に、お前の頭ん中に、ケイメイの、コント計画きっちり詰め込んどけよ
一つでもしくじると なし崩しに負けることになるからな」
「コント計画?」
「ああ 俺が言うのも何だが 喋らねえ、このケイメイに代わって俺が言ってやる。
俺の頭をなめるなよ わはははは!」
ライ先輩どうしたんだと、横に居るケイメイを見ると、棒読みで
「わはははは…」
頬を掻きながら力なく笑っていた。
「まあ、ケイメイのコント計画、お前も見れば笑うと思うわ
色々楽しみが出来てよかったじゃねえか 後輩君よ」
「苦労するのは 私達なんですが、先輩」
「あたりまえだろうが! いいだしっぺはいつも苦労するもんだ
それと、一応お前の耳に入れておきたいことがあってな、今から話す
情報は未確認情報なんだが・・・・」
◆
「その話が本当なら、相手を型にはめることも可能ですね 可能性でも助かります。」
「そう言ってもらえれば おれも話し甲斐があったぜ、それじゃ、祭りの花火を大きく挙げようぜ!
今年の 野外模擬戦 ほんと、おもしろくなるぜ!」
と言いながら笑う、ライの笑みを、『腹黒そうな…』と思いながら
ライに負けず劣らず スティクも腹黒そうな、笑みを浮かべた。
その、2人の顔を見たケイメイ は 『黒キツネが1匹、2匹』と、あるメロディを思い出しながら、
寒さを感じたのか 『ブルッ』と 体を震わした。
◆
ライとの話を思い出していると。
「スティク様 薬飲みましたか?」
気付くとクトウが目の前に立っていた。
「飲むのを忘れたわけじゃないんだが、昨日どこかで落としたみたいなんだ 今日一日位は大丈夫だろう」
「そんな事じゃないかと、薬持ってきました。」
「なぜ 薬を持ってる?」
「こう見えて僕 一度後悔したことは2回目はしないように、心がけてますから」
「その薬 誰にもらった。」
「絶対信用できる人ですが、今は ひ・み・つ です。」
と笑いながら話をはぐらかした。
「いい笑顔で言われてしまったな、今回は、クトウの活躍に免じて、誰かと追及するのは保留にしておく」
「はい、それじゃ早く 薬飲んで来てください。 クラスの皆待ってますから」
と言って、全力疾走でローズ嬢達が居る方向へ走って行った。
差出人不明の、薬を水で流し込み
「ちゃんと、見てくれてるのか欠陥執事」
言葉に出して、クラスメートが待っている方向に歩いてゆく