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厄介者の憂鬱  作者: むつき
1学期
5/13

学院4

クトウの願い事を了承した翌日より、スティクは行動を開始した。


クトウとケイメイへは、外貨預金の正確な数字と残りの借金などを調べさせるため休日を利用して調べてくるように指示したが、クトウはスティクの手伝いをさせてほしいと、ケイメイが一人で調べてくることになった。


次の日、クトウを連れて ビシャスに相談しに行った。


ビシャスの部屋に入って、少し驚いたが ヒーロー物のポスターが所狭しと張られていた。

何気なしに、正面の壁を見上げた所、見たくない”黒歴史 ハリセン”が壁中央に飾られて掛けられているのが目入ってきた。


クトウと二人、ビシャスの部屋の内装に少し唖然としていたところ


「2人とも 待たせたな」

「ビシャス 部屋を見ないで本人だけを見れば、本当に白馬の筋肉王子様なのに もったいない」

といつもの皮肉を浴びせる


「ビシャス殿下は 本当にヒーローがお好きなんですね」

間髪を入れず クトウの微妙なフォローに入るが、 


「ヒーロー達は 俺の生涯の目標だ」


スティクの皮肉に動じることなく、クトウの微妙なフォローにも気づかず

ビシャスらしい言葉を返してきた。


自分を持っているビシャスに少し嫉妬心を感じていると


「それでスティク、話とは何だ お前から話があると言われるのは久しぶりな気がするぞ」

「そうだったか? まあ、今日は頼みごとがあって 時間を取ってもらったんだが…」

「困っていることなら お前の頼みだ手助けするぞ」


「助かるビシャス 持って回った言い方したくないので直球で話す」

「…なんだ」

「ビシャス金を貸してくれ」


ビシャスは、少し悲しい顔をしたが

「そんなことか お前からの頼みだ仕方ない、幾らいるんだ」


「500万eだ」


ビシャスは電子カードを操作しようとしていたが、スティクの言葉で、固まった…


「え」


「500万eだ」


ビシャスは、ため息をつきながら


「スティク お前は、何故 俺がそんなに金を持ってると思うのか?」

「王子様だから」

「お前は 俺を馬鹿にするつもりか」


スティクはオロオロしているクトウを視界に入れ、猛るビシャスを手で制し

「素直に無利息で貸してもらえれば、儲けもんだなと思っただけだ」


ビシャスの怒りに油を注ぐその言葉で、ビシャスからは、頭から湯気が出始め、無言の圧力を背景に2人に近づいてきた。


忍耐の限界におちいった、クトウが

「殿下 不躾に、本当にすいません」

横から謝りの言葉と、何度もお辞儀を繰り返すことで、ビシャスも落ち付きを取り戻したのか、スティクに説明するよう促した。


ビシャスは、クトウの話を聞いた後

「何とかしてやりたいのはやまやまだが、金の件は正直 難しい」


「まあ そうだろうな ヒーローが 一人だけ助けたと噂になったら

面白いことになるだろうしな」


「おもしろいか スティク、 最近お前 チュワードに似てきたぞ」


スティクが鼻を鳴らすと

「聞いたぞ スティク、チュワードに逃げられたそうだな」

ビシャスは笑顔で、先ほどの仕返しとばかりに、スティクの傷口を責める


痛いところを衝かれ始めたスティクが反撃しようとしたその時、


「私の問題で、本当に申し訳ないのですが、お二人とも 子供過ぎます」

クトウに諌められた。


悪戯がばれたような雰囲気の中、ビシャスに目を合わすと


「俺もクトウを助けてやりたいのだが…」

「助けてやれると言ったらどうする」

「そりゃ 助けてやるさ」

「ビシャス 『助けてやる』っと今言ったぞ」

「しつこいぞ スティク」


横でクトウがオロオロし始めた。


「それじゃビシャス、私達の計画に乗ってもらうぞ」

ビシャスがクトウを見ると、クトウは不安そうな顔をしていたがスティクはいつも通りだ。

今からスティクが、何を話すのか少し楽しみだ そう昔に戻ったようだ。


ビシャスとクトウの顔を見て、聞く準備が出来ていることを確認すると

「ケイメイには後で話すが、まずはお前たちに説明する。」

と言って、スティクは2人へ計画を話す。


計画とは、1学期末に行われるクラス対抗の野外模擬戦闘を賭け事にするのだ、しかも胴元をビシャスにして、これほど誰からも文句を言われない胴元は、そうざらにいないだろう


「お前 俺を犯罪者にするつもりか」


計画を聞いたビシャスとクトウは揃って嫌な顔をした。


「まあ 固いこと言わずに、これ位の余興があると他の者も、張り切ってイベントも盛り上がるだろう」


「何とも人を皮肉った鼓舞の仕方だが、スティクそんなのは、理由にならない 罪は見過ごせない」

そういって、ビシャスは首を縦に振らない


2人の話を横で聞きながら、物事の考え方に相違があることをクトウは感じる。


一瞬の間が空き、スティクが口を開く


「ビシャス、私が何故 お前に教えた ヒーローを嫌いになったかわかるか」

ビシャスはスティクの言葉の意味を読み取ろうとして沈黙を続けた


「それは、ヒーローの受け身の姿勢だ、何時も何時も、怪人が犯罪を起こした後に颯爽と登場して、怪人を倒す。 

何故、ヒーローは犯罪を犯す前の怪人を倒してくれない」


「…」

ビシャスは黙ったままだ


「ビシャス 犯罪を犯した悪人を倒すだけでは、世の中は変わらない」


ビシャスはスティクからの視線を避けた後、少しして苦い顔をしながら、

「お前には借りがある。 今回、お前の謀に付き合ってもいいが

俺の正義に反すると感じれば、俺はこの謀から降りるぞ」


「ああ その返事で十分だ」


ビシャスは、スティクの言う”現実的な正義”を了承し、

クトウは助けてもらう方法について渋々だったが、首を縦に振った。


スティクに取って、野外模擬戦闘をギャンブルの対象とした掛け金で、クトウとケイメイを助ける 計画の基本なので、詳しく計画を打ち明けた。



計画を打ち明けた次の日から、スティク達は忙しく立ち回った。

1か月後の野外模擬戦闘の演習や、ギャンブル計画を同時に進めているためだ。


野外模擬戦闘の班編成・作戦計画はビシャスを中心に進めており、スティクは副官担当として参加するだけで良かった。

しかし問題は、ギャンブル計画の方で、当初 簡単に考えていた賭金が、思惑通りには集まらなかった。


計画に齟齬が発生していることを考えてみると、

一番の問題と考えていた掛け率や金銭の管理は、飛び級までして数学の才能をもっていた ケイメイが担当することで、掛け金などの計算は問題無くな進んだが、今は賭金が集まらないことで手が空いている


説明や交渉担当のクトウは自分の『後ろめたさ』から、貴族相手の大口交渉が出来ないでいる。


一番の問題だったのが、このギャンブルの胴元をビシャスにしてしまったことが一番の原因だったかも知れない


何故なら、胴元がビシャスと知れることでギャンブルの噂が広まらず、いまだに一部の生徒しか知られていないことだ。


思惑通りに進まない計画に、焦りながら、野外での体力訓練を行っていた時に突然、夢の記憶が流れてきた。

現実では走っているのに、夢の中では机に座り窓の外で運動している生徒を詰らなさそうに見ている。




夢の記憶と現実の狭間が解らなくなった、スティクは、目の前が白くなってゆくのを感じた。


意識が消えゆく瞬間 スティクは

「誰か 夢の中の記憶を消してくれ」と強く願った。





消毒液と花の香り、柔らかい手が額に触れる感覚に おぼろげながら意識を戻すと

「母さん…」

今は亡き人を呼ぶスティク


「あ」と近くで声が聞こえ、柔らかな小さい手が離れて行った。


柔らかな手の感触を名残惜しげに、目を開けると 不安そうなクトウの顔が目に入ってきた。

クトウの少し怒った顔を見ると、人が傍にいることで安心できた。


「ここは あの世か?」

以前、チュワードと話したセリフを もう一度 クトウに話す。


「いいえ、ここは医務室ですよ。」


スティクの意識がハッキリ戻ったことを確認したクトウは、

「病気を持たれていたんですね 殿下からお聞きしました。」

と少し怒ったような口調で返してきた。


「ああ 最近執事が居なくなって、薬を飲むのを忘れてた。」


「薬 飲まれてたんですね」


「ああ 薬を飲まないと時々 こうなる しかし、クトウ 何故怒った顔をしている」


「怒っていませんでも、僕たちのせいで スティク様が無理をされて倒れたと思ったので…」

次は泣きそうな顔で


「怒ったり、泣きそうになったり」

「だって…」

「お前達を見てると飽きないな、表情豊かで」

次にセリフを吐こうとした瞬間、扉が開く


「御邪魔だったか?」

ケイメイを連れた、ビシャスのお約束通りの言葉に


「いや 助かった」

「そうか」


「だ、大丈夫ですか?」

自信の無さげなケイメイの顔


「心配してくれる人が居るのは 案外いいものだな、ビシャス」

ポロッ と口にした一言で、ここに居る仲間は笑顔になった。


「ちょうど良い 授業も終わってるようだし、計画の齟齬が出ているのでここで、話し合いたいのだが」


スティクが言うと


「スティク様 大丈夫そうですが、先ほど倒れたのですよ 今は安静にしてください。」


クトウはそれ以上、何も言わせずビシャスとケイメイを連れて出て行った。


誰も居なくなった さみしい医務室で一人、

この頭の中にある 現実に有りもしない記憶はまだ覚えていた。

夢なのか 現実なのか 行動していても解らない怖さを感じながら


スティクは、声を殺して恐怖する。



次の日、スティクは、改めて3人に集まってもらうが、ビシャスが

「ちょっと良いか」

「なんだ ビシャス」

「打ち合わせの前に話しておきたいことが有るんだが、いいか」


3人が頷いたことを確認すると

「以前から思っていたのだが、ケイメイは上級生だ、俺たちが呼び捨てにして良いわけがない」


「ビシャスにしては、もっともなことだな」


「お前は 皮肉しか言えんのか、お前の執事の的を得た辛辣さより劣る 3級品だ」


「何だと」


「お二人とも、少し落ち着いてください。 僕達2人は、今のままで何の不満もありませんので」


ビシャスは、

「クトウ お前はいい 同じ学年だ しかしケイメイは年下と言え、上級生だ 生徒会で上級生にため口などないだろうが」


正論を言われ

「そうですが…」

クトウは言い返せずにいたが、スティクは


「それじゃ みな名前の後に”さん”づけではどうだ  ケイメイさん」


「す、すこし照れる」

ビシャスの身長を少し抜く大男が、照れるのを見るのは頂けなかったが


そこで、ビシャス

「お前にも『さん』づけか? スティクさん…」


ビシャスは何度か繰り返し口にだして、あっさりと

「スティク、お前に『さん』づけは 断る。」断言した。


「言い出したのは お前だぞ ビシャス」


あきれたようにスティクは言ったが、


「それじゃ ケイメイ 外で会うときは ”さん”づけで、内輪の時は各自に任すということで良いか?」


「も、問題ない」


「2人は」

「それでいい」

「はい」


なかなか話が進まない、仲間達に呆れながら 

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