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厄介者の憂鬱  作者: むつき
1学期
4/13

学院3

にやにや 笑っている チュワードから 案内された クトウを椅子に座らせると、


「スティク様の部屋は、僕らが使っている部屋と同じ大きさなんですね」

「どういう部屋だと思ったんだ」

「あ! いえ、ただ他の貴族の方は、部屋全体を御一人で使われているものですから」


「他の貴族の部屋にも入ったことがあるような口ぶりだな」

「ええ、ビシャス殿下のトラブル交渉の時などに」


「それじゃ 元々この部屋は 1つだったのか?」

「他の貴族様の部屋は1つですね」


「そうか」

怒りが上ってくるが、チュワードに慣されてきているのか、怒りの衝動を制御できた自分に驚きながら


「部屋の事は後で、そこに居る執事に問いただすから いい加減 相談事を話せ」

黙って”にやついている”欠陥執事への怒りを隠しきれずクトウへ説明を施す


「申し訳ありません」

怒りが言葉に含まれていたのを気づいたのか、部屋の事には全く関係ないクトウが頭をさげた。


「はあ クトウお前 この部屋の間取りの事には何も関係ないだろうが」

「そうなんですが スティク様が怒られていては、話を聞いてもらえなくなる可能性が高くなりますので」


「まあ いいそれで話は」とクトウを促す

「…」

後ろのチュワードが居るからか、なかなか話そうとしない


イライラが増し

「後ろの執事は 『置物』だ、お前の悩み事は聞いてないから 早く話せ」

とスティクが重ねて問うと クトウは、決心したのか小さい声で、


「私を、助けてほしいんです。」

「助ける?」


「私的なことで、スティク様には、まったく関係の無い話なのですが、

僕を いえ」


言葉に詰まり下を向いた後、真っ赤な顔を上げ 叫ぶようにスティクへ言葉を発す。


「僕を対価に お金を貸してください!。」


クトウの言葉に、椅子からずり落ちながら

「ちょっと待て 何故俺が……」


「始めはお二人に、何とか顔を覚えていただき、私が役に立つ者と認めてもらったうえで、お願いしようと思ったのですが、返済期限に変更があって、そ.それと スティク様が私の事を良く見てらっしゃったので」


クトウは一気に喋った。


「クックックッ……」

耐え切れず 楽しそうに笑う 『置物』が居た。


スティクが、チュワードを睨み付けると

「いやあ お二人とも青春まっさかりですな この『置物』も甘い青春時代を思い出させてもらいました。

しかも、坊ちゃんが クトウ様に興味をお持ちなこと、すでに気づいておられたようですな」


「だまれ! チュワード!」と怒りを含んだ言葉でチュワードを黙らせ

「それとクトウ! お前は何を言っている。」


「僕の勘違いなら 本当に申し訳ありませんでした。」


そこへ、チュワードは、今までとは違った 会心の笑顔で強引に割り込んでくる

「坊ちゃまも、ばれたからには正直にしませんとな フフフ……」


「黙れっと言ったぞ! チュワード!」

引きつる眉間に 再度 チュワードへ言葉を叩きつけ クトウに視線を合わせ


「クトウ 確かに私はお前を見ていたのは事実だ だが言っておくが、この執事が言うように、別にお前の事を恋愛感情を持って見ていたのでは無い」


クトウを見ていたことが、ばれていた事とクトウからの対価について 恥かしさを隠しながら 先ほどの借金についての説明を施す


「坊ちゃま 言葉に動揺がありますな」

わざと絡んでくる チュワードを無視しつつ


「僕が 勘違いして 申し訳ありまでした。」クトウは自分の素が出ていることも気づかず謝りの言葉を繰り返す。


「もういい クトウ それで何故 私なのだ」

「…」


クトウは 経緯をポツリポツリと話した。


「世話になっている義父の経営するレストランが借金に追われているので、そのお金を何とか工面して、あと、義弟 ケイメイが学院をやめることを留まらせたいんです。」


「話を聞けば その ケイメイと言う奴の方が工面に走らないといけないじゃないか?」


すこし俯きながら

「この学院をやめて働くと言っています。」

「お前 先ほど 弟がこの学院に居るといったよな」

「はい」

「弟がこの学年にいるのか?」

「いいえ 飛び級で1つ上の学年に居ます。」

「え」


「その 僕より 頭が良いので、僕より一つ下なんですが、学年では一つ上になってます。」


「ああ そういうことか 了解した。 それで 改めて聞く 何故 私なんだ」


「理由は、僕の様に対価が無いものは誰にも相手にされません、だから借金返済までに少し時間が有ったので、殿下とスティク様のトラブルを僕が積極的に解決して、お二人に認めてもらったうえで お願いしようとしたのですが、思っていた時間が無くなったことと、最近 スティク様の視線を感じたので 厚かましくもお願いしに来ました。」


「それに スティク様を僕自身 信用できる方だと思ったからです。」


『信用』と言う言葉に スティクの、夢の記憶が敏感に反応した。


夢の記憶が溢れだし、今この現実との区別がつけられなくなった。


言葉を信じた結果 騙され 傷つけられ 友という名の詐欺師は金と共に去って行き

人を信じた結果 全てを無くしたのだ 誰が、誰を 信用できるというのだ!


スティクは誰も信用しない ただ助けてくれた人を除いて・・


クトウの『信用』という言葉に 怒りが抑えきれず 手を握り締め 

それだけでは足りず 歯の奥が鳴る


スティクは目を閉じた 夢の記憶を自制する為に

スティクは息をした 夢の中の怒りを抑えるために


しかし、夢の記憶を抑えられず スティクは、感情をむき出しにした。


誰が助けるというのだ厚かましい 人の事など興味は無い

クトウへ 言葉に呪詛を乗せて吐き出そうとしたとき


クトウは恥かしさのあまり俯いていたので スティクの目に浮かぶ狂気が見えていなかったが、会話を面白そうに観察していた老執事が、前に進み出ると、有無も言わさずチュワードに殴られた、今までに無い重い拳で、壁まで吹っ飛び足に来ている


「坊ちゃま」

いつもの皮肉は、含まない声で

スティクは、チュワードの雰囲気に押され喋れない


「坊ちゃまの 世話はここまでの様ですな 失礼します。」

一言礼を言うと、チュワードが去っていた。


「待ってくれ」

声を振り絞って 言葉に紡ぐが 逞しい広い背中に届かず消えた。


その場に 放心したステックと 何が起こったか分からない クトウを残して去った。


チュワードが去った後、スティクは何故殴られたのか解らず 呆然としていた 

スティクの目線に、その場でオロオロと落ち着かなげな クトウが居たことで我に返れた。


チュワードの拳に、まだ足が震えて立ち上がれず

「クトウ 足が震えて立ち上がれない 手を借してくれ」

と、クトウに手を借り椅子に、もたれ掛った。


「大丈夫ですか?」

「そう 見えるか?」


クトウは、音が聞こえそうな位 首を大きく左右振った


少し 時間が経ち痺れが取れると スティクは

「クトウ 見苦しいことを見せた。今日の相談は 明日また来てくれ。

答えは明日までに考えておく」


「解りました。 今日は色々 ありがとうございました。 

明日また来させて頂きます」


と一礼して部屋を出てゆく。


スティクは 出ていくクトウを目で追いながら 殴られた箇所を手で撫ぜた。


「殴られたの初めてだな」


と殴られた痛みはあったが チュワードに”殴られた”という驚きの方が大きい


「何故殴られたのだ」


今 チュワードを追いかければ 追いつけるかもしれない

しかし、チュワードへの恐怖が先に立ち いつも様に自分の殻に逃げようとする スティク


その日、スティクはチュワードを追いかけなかったが、久しぶりに 父 インテインへ連絡を取った。


「どうだ 学校の調子は 過ごし易いか?」


国の重職を担う父だが、話す会話はごく普通の子を思う親の言葉だ。

その何気ない会話に胸から込み上げてくるものがあった。


夢の記憶を持ってから、初めての父との会話 スティクは 気付いているのだ。


夢の中でも、困難から逃げ出すスティクに、手を差し伸べてくれる、その相手はいつも、父であり兄やチュワードなのだ。


今も、この夢うつつか解らないこの現実から、逃げ父やチュワードに甘えている。


以前の自分から何も変わらずに


涙声で会話するはめになったが、チュワードの事、クトウ達の話を父はただ黙って聞いてくれ、以前から何も変わらない 子に甘い父のままで居てくれていた。



前日、父と久しぶりに会話した


父は

「お前を殴った事については チュワードより、先ほど連絡が入った。


お前を殴った処遇については、特に考えていないが、儂の仕事が忙しくなりそうなのでな、

チュワードには、このまま儂の仕事を手伝って貰おうと思う。 不安か スティク?」


「私は、一人で大丈夫です。」


「そうか、お前は、殴られたことに不満を持っているだろうが、あのチュワードが儂にも理由を喋らないのは、何かあるはずだ。

殴られた意味を良く考えてみるといい。」

と最後に


「お前一人にさせるのは不安だが、何かを学んで来い」


「わかりました。」

母と次兄の不慮の死より いつも近くに居たチュワードだが、初めて拳で殴られたその理由がまだ、解らないスティクは 当たり障りのない言葉を返してモニターをOFFした。


殴られた事に関して、チュワードへの恨みは一つも無いのだ、借りだけは有り余るほど頭に浮かび 夢の記憶の中でも、返せないくらいの大きな借りがあるのだ 自分がこれから起こす事件によって。


頭に閃きが走る。


スティクの偶然の閃きは、夢の記憶が本当に起こるなら チュワードがこの場所に居ないことが、事件に巻き込まれず命を落とさないことに気づいた。


「ムカつく顔を見なくても良くなり、夢の中の事件に巻き込むことも無くなる 一石二鳥だな」


すこし心細さを感じながら 一人で生活することを新たに決意し、

人助けなど柄でも無いが、チュワードに殴られたことで 胸に溜まった毒気を抜かれ


頭ごなしに断るつもりだったクトウ達の問題を助けてやっても良いかと、

今までの人生で思ったこともないことをスティクは考えていた。


だが実際の所 手持ちの金銭がどの程度あるのかわからない 金銭管理については、今までは 欠陥執事に任せっぱなしだったので 金銭がどの程度あるのか調べる為チュワードの部屋へ入る。


部屋には、ネットワーク接続用の端末が1台とノート1冊が、近くに置かいてあり、ノートを何気なしにめくると ネット銀行 へのアクセス権など手書きで記載されたノートだった。


他に何か書いていないか確認したが、アクセス権以外には何も記載されておらず 昨日父が言った通り 何かチュワードの思惑があるのだろう 今スティクには理解出来ない何かが…


取り敢えず、モニターを開きノートに書かれたIDとパスワードを打ち込むと 残高 1000e の表示


”何かの間違えか?”


再度読み込みをしても金額は1000eのままだった。


ふつふつと沸きあがる、チュワードへの怒りに スティクの拳は、空中に照射されて物理的に壊せないモニターに向って拳は空を切った。


「欠陥執事め! 1000eで何が出来るんだーーー」という言葉と同時に


”コン ”ピタッ とタイミングの悪いノックの音が途中で消えた


「はあー」ため息をついたスティクは

「クトウか 入っていいぞ」


「…」


気配はするが反応がないので、自らクトウを向か入れる為、扉を開けると予想通りクトウの姿、後は

予想していなかった大男が クトウの後ろから ”ヌッ”と出てきた。


「そいつは」

クトウが挨拶する前にスティクはクトウへ問いかけ、挨拶もそこそこに話を進める。


「あの 僕の義弟でケイメイと言います」と紹介されると


大男は、

「は、はじめまして ケイメイと言います。 今回 無理な相談持ちかけて すいません」

どもる言葉で、大きな体を小さくするくらい 頭を下げる。


「挨拶はいい しかし兄弟と紹介されて、ここまでイメージと違うと戸惑うな」

「まあいい 扉の前では人目に着くだろう 中に入れ」


2人をチュワードの部屋だった場所に招き入れ

「何処でもいいから 座って経緯を話してくれ」


悩んでいる クトウに

「気を使う必要は、無い 私が話を聞くと言ったのだから」


クトウ達2人はポツリポツリと自分たち家族に降りかかってきた問題を話始めた。


レストランを経営する義理の両親が プロテウス国家の三つ巴の内乱によって、何十年間こつこつ貯めていた、高利息の外貨為替が暴落をおこし、預金口座が凍結されて利用出来なくなってしまった。


「預金口座より預金が引き出せなくなった為、この4年両親は…」


そこまで話すと、クトウの声は涙声に変わり


「店舗の賃貸費用など不足分の経費を、とにかく支払わなければ! と」

「仕事を掛け持ちして、生活は極限まで切り詰め そこまでしても、月末にはお金が足りなくなり苦しい状態だったらしいのですが、その苦しい現状を、知ってても 僕達は何も出来ませんでした。」


「そんな苦しい状態の時でも僕達には進学しろと、ケイメイとこの学院に一緒に、特待生として入学できたこと、とても喜んでくれました。」


「そんな時、義母が心労で倒れてしまい、今入院しています。

”義父は半年は何とかなる”っと言っていましたが義母は入院中で 支払が迫ってきています。

無理なお願いは承知の上で、もう一度お願いします。」


「僕を対価に お金を貸してください!。」


恥かしさを顔に表し、スティクを見つめてくるクトウ

クトウの横にいる ケイメイ を見ると

下を向いたまま黙っていた。


スティクは頭を上げる様に言ってクトウとケイメイへ言った。

「相談には乗ってやる」


顔にホッとしたものが浮かぶが、スティクの一言でまた顔が青くなる


「しかし、自分の頭や体を使って稼げ」


クトウは恥ずかしさを顔に表し、両手で胸を抱き、ケイメイは顔に怒りを表す。


クトウは胸を抱いたまま、赤い顔をして

「やっぱり…」


現実では、まだ女性に縁の無い生活を送っているが、

クトウが何を考えたか、理解したスティクは、


言葉を掛けようとした、そんな時、夢の記憶が蘇る。

”女性問題だけは、何もなかったなと…”


そんな、どうでも良い記憶が湧いてきたことに不愉快になったスティクは


「クトウ お前の平たい胸などイラン 私に色仕掛けを仕掛けるなら もっと胸を大きくして迫ってこい その時は 考えてやる」


「ケイメイ お前の姉は自分を売ってまで私に、助けを求めてきた。

しかしお前はなんだ! 姉の後ろにばかり隠れてないで、自分から行動を起こせ 姉に甘えて逃げているお前を見ていると気分が悪い!」


と、不機嫌そうに言った。


スティクに、ここまで言われても、まだ俯いている ケイメイに怒りさえ覚えたが


「お前たちの問題は話を聞く限り、私もかなり、深くお前たちにかかわらなくてはいけないものだ 手助けはしてやるが、最後は自分で解決してみろ」


そう言うと


「クトウ お前たちを手助けをするのに条件がある」


「はい」

クトウは両腕を抱え身構えると

「昨日のことを 黙っていることだ」

スティクは 恥かしそうに、上を向いた。


クトウは一瞬、呆けていたが、今まで、聞いてきた中で一番下手なお願いだったことに気づき、さきほどとは違う声色で


「はい 大丈夫です。」


クトウ自身の声を笑顔と一緒にスティクへ返した。


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