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厄介者の憂鬱  作者: むつき
1学期
12/13

祭り6

学院長から殴られ、顔を腫らした2人が講師達に医務室に連れて行かれる途中、ケーション講師が追いつくと


「2人は 心配しないで医務室で休んでいなさい 私が皆に話してくるから」

一言話して立ち去ろうとしたケーション講師を止め、ビシャスは


「俺達が、話します」

と、キッパリとした返事が聞こえた。


ケーション講師が隣を見ると、スティクはうなだれて何も答えない。


2人に向かって


「つらいですよ」

一言 ケーション講師が間延びした声で話すと。


強く頷き、抱えているスティクに

「スティク お前にも責任がある 逃げるな、俺が話すからお前は見ていろ」


「ふー  私も気が重いですが、仕方ないですね  一緒に行きましょう」

ケーション講師がそう言うと、ビシャスは 抱えられている講師から離れ、俯いたままのスティクを、肩に支え 力強い足取りで、ケーション講師について行った。


「…つらいな」 3人を見送る講師の一言が廊下に響く。



ケーション講師達3人が、自分たちのクラスに1歩づつ、近づくたびに、野外模擬戦闘に勝ったことで興奮している クラスメートみんなの楽しそうな声が、廊下一杯に響いていた。

教室の扉が開くと、何かを期待したクラスメート達の視線が一斉に向くと


担任のケーション講師に続き、顔の腫れあがった、ビシャスと、肩を支えられ俯いているスティクの姿が現れると、 お祭り騒ぎに成っていた クラスの歓声は徐々に静まっていった。


ケーション講師が 檀上に立ち

「はい、みなさん 話があるので、席に着いてください。 ビシャス君 と スティク君も座ってください」

いつも変わらぬ間延びした声に


クラスメート達は、一緒に戦った仲間、2人を気にしながら、席に座り、ケーション講師の言葉を待つ。


ケーション講師が言いずらそうに

「まず みなさん、この度の野外模擬戦闘 ご苦労様でした それと 優勝おめでとうございます。 担任講師として みなさんを とても誇に思います。


ただ、今回の優勝について、学院長より 今回の野外模擬戦闘に『不正あり』との判断がありました。」


そうすると、クラスメートが、ざわめきだした。


「みなさん 少し静かに 続きを話しますから」

「この発覚した不正の結果 この度の みなさんの優勝は取り消され、クラス1-5が 繰り上げで優勝となります。」

と言った瞬間


クラスメート全員から怒りの声・驚き・鳴き声が興り

「みなさん 落ち着いて」

と言うケーション講師に耳を貸さずに詰め寄る数人の生徒達


「俺たちのせいだ  みんな済まん」

と机から立つと、腫らした顔を真っ直ぐに クラスメートを見て叫ぶ ビシャス


詰め寄っていた数人が、ビシャスの只ならぬ雰囲気に、黙って席に座りはじめ、


今度は、『クトウ』が自分の席から立ち上がり、静かになった教室で 涙ながらに喋り始めた。


クトウは皆の前で謝った。

自分の家族を助ける為に皆を利用したことを そして言わなかった。

計画した人物のことを


すると、先程の声とは比較にならない程の、怒声がクトウに向けて飛んでくる。


皆の前で苦しそうに謝っている クトウを尻目に スティクは、自分に視線が向かない様 下を向いていた。


スティクは 考えなかった 『不正行為』 だと解っていても 

スティクは 庇えなかった 『責められる』 その1点に恐怖して

スティクは 気付けなかった 『皆の心』 を


この状態から 自分だけ、逃げ出す言い訳を考え始めた スティクを見たビシャスは ひとり、クトウを庇うよう前に立つと、皆に言った。


「このクトウが今、話した計画 賭けた者は知っていると思うが、賭け事の胴元は、この俺だ。


いつも俺が口にする正義に反する行為だとも思うものも居るかもしれないが、俺にはこの件に関しては


『後悔は全くない』


何故なら 俺を計画に参加させた奴が


『犯罪を犯した悪人を倒すだけでは、世の中は変わらない』


ソイツが言った言葉を俺は信じたからだ。」


「今 困っている奴が居る、怪人の悪事が終わった後に、やられた奴は助けてやれんのだ。


俺の正義 皆に理解しろとは言わないが、これ以上クトウを責める奴は 勝手な言い分だが、俺が相手になる


今回、皆の怒りの全責任は、何も考えなかった 俺にある。

謝りきれんが みんな、本当にすまなかった。」


頭を深く下げ、静かな声で ビシャスは言った。



クトウの泣く声だけが、静かな教室に響く…



そんな静かになった教室の中、チャ・チャが

「問題 無いんじゃないでしょうか? 恐ろしかったけど、今では良い経験だったし」


そこへ

「おほほほほほ…  そうですは、みなさん 私は賭け事の事など、何も知りませんでしたが、 あの野外模擬戦、とても堪能させていただきましたし、チャ・チャさんの言うように 得がたい経験を体験させて頂きました。


私は、クトウさんが、ここまで謝る必要もないとおもうのですが…


ただ、お二人がこうして前にでて、謝っておられるのに 私達を手の平の上で動かしていたと勘違いしておられる、 馬鹿な黒幕さんの説明のない事の方に憤りを感じますが、どうですか?」 


           『スティク様』 



視線を合わせず 下を向いていたスティクはローズ嬢の言葉に、腫らした顔で、怒りを表し視線を向けたあと、また下に俯いた。


「おお 怖い、スティク様 心が顔に表れていましてよ おほほほほほ…」


いつものローズ嬢の笑いがクラス中に広がったが、誰も笑えなかった。


クトウは、その状況を見て

「ローズ様 スティク様は」と涙声で喋ろうとしたが、


ビシャスは腕をクトウの前に出し

「クトウ ここでアイツを庇うな、これはお前を助けようと、クラスを巻き込んだ アイツの問題だ」

「でも スティク様は…」

「嬢も俺達とは古い馴染みだ、嬢も解っている。 だから アイツに どうするか 自分で選ばせろ」

とビシャスはクトウに何も喋らせなかった。


ローズ嬢が いまだに、席から立ち上がろうとしないスティクの前に立つと 


『パシッ』


平手で、スティクの腫れた頬を叩くと


「また、誰かに甘えて何処かに逃げ出だしますの! このような時どうすればよろしいのか、わたしくが教えて差し上げますわ ほら立ってください 子供じゃあるまいし」


嫌がるスティクを席から、無理やりローズ嬢は立たせ


「先日の様に、わたくしみたいに一言 言えばすむんですのよ 


       『お詫びします』と


解らないようでしたら、もう一度叩いて差し上げましょうか?」


「…すまなかった」


「え、声が小さくて わたくしにも 聞こえませんわ?」


ローズ嬢に言われ、スティクは声を上げ

「みんな すまなかった 悪気があったわけではなかった。 ただ…」


「ただ、なんですの」

ローズ嬢が また、黙りそうなスティクに合いの手を出すと。


「私も、ビシャスの様に 誰かの手助けをしてやりたかった。」



 広がった沈黙


沈黙はローズ嬢が破った。

「スティク様の 謝る言葉については 品性が感じられませんでしたが、 今回の罰は 全て 殿方お二人が受けると おっしゃってますし、 此度の件 水に流してあげれば、よろしいのでは みなさん」

と皆に話すと


チャ・チャが

「異議なし」というと口々に「賛成」とクラスに皆の拍手が溢れた。



「騒動を広げた張本人が良く言うな」

とビシャスは思ったが、我儘姫さんのお節介ぶりは健在だと、口に出さず

クトウへ、

「安心しろ 誰もお前を責めたりしないから」


「みなさん ありがとうございます」

顔を涙と鼻水で濡らし言葉にならない、感謝を口にするクトウ



これで、クラス一丸となって戦った 長くて短かかった 野外模擬戦闘が終了した。





最後にローズ嬢は

『今度は、スティク様を引き籠らせませんでしたわよ ティタニア様』

心の中で呟いた。



後日、ギャンブル計画を企てた4人は、ライを強引に引き込み、5日間で賭け金の返金作業を終わらせた。

返金作業に関しては、様々なトラブルが噴出したが…


ギャンブル勝者への 支払い不足分については、スティクとビシャスの父が内密に捻出してくれた。


捻出された金銭を不足分に充てることで、ライやクトウ達が交渉しながら渡すことで始まった支払作業は、


学校の発表を元に幹部養成クラスを勝利者として掛け金を支払った為、ビシャス達のクラスへ賭けていた者達からの『金返せ』との怒声と囲まれての突き上げは、特に酷い有様だった。


特に クトウは、女性と舐めて激昂する学生に詰め寄られるなど威圧的な態度の学生が多くいた為、クトウに交渉が難しいと ケイメイが判断すれば、ライから紹介された 強面のF.リョウという 3年生の友人とビシャスが後ろに立ちながらの再交渉で、ほぼ治まった。


2人とも、泣かれた女性達からの交渉には役に立たなかったが…



こうして、取り付け騒ぎは治まったが、今回 スティクの考えたギャンブル計画は大失敗のうちに終了した。


「また、父に助けられてしまった。」

とスティクが、腫れが治まってきた顔を擦りながら、集まった4人に言うと


「いいじゃねえか、親なんだから貰っとけば」

とライ


「そういう 問題では無いだろう! ライ先輩」

今だに、毛嫌いしているライに絡むとビシャスや


「みなさん落着いてください」

と2人の言い争いを治める横には、笑みを浮かべながら喋らぬケイメイ



クトウに注意され、いつもの不毛な言い争いをやめた ビシャスは、クトウとケイメイ2人の義姉弟を見て

「2人とも 助けるつもりが足を引っ張ぱってしまい、すまなかった。」


とビシャスが言うとスティクも

「クトウ ケイメイ 本当に済まなかった。」



2人の謝罪に

「いいえ 気にしないで下さい。 僕たちがスティク様に、無理に お願いしたことで ここまでやっていただいたのに、謝られると僕達2人の方が後ろめたい気持ちなのに…」

クトウは言葉を詰まらせた。



そんな時、ライが強引に会話へ割り込む。


「ほら 俺らの儲け分から お前らから貰うはずだった手数料や、指導費 を抜いた 3% の取り分が入っている。 

お前らの企画に便乗させてもらったからよ それはお前たちの正式な取り分だ」

と言って60万eの入金さえれた、カードを渡してきた。



ビシャスが、不審そうな目をして問いかけた。

「何だ これはライ先輩!」


「あんまり 細かい事気にしてると 運を取りこぼすぜ 殿下」


続けてライは、唖然とした顔の後輩を見て

「お前ら ほんとのギャンブル知らねえだろう あんなレートで俺たちが興奮すると思ってたのか? 

賭け事は数学じゃないんだぜ 心を楽しませて 射幸心を煽るんだ。」


「俺は次の用があるから、これで帰るわ  何か問題があったら連絡よこせよ 俺の儲けが出るなら助けてやるから」

と言って、スティクの部屋を出て行った。


「…」


ライが部屋から出て行った後、

「なあ、ケイメイ ライ先輩は『俺らの儲け分から』と言っていたが、別で賭け事をやっていたのか?」

とスティクがケイメイに聞くと


「う、うん ライさん 殿下やスティク様とは別に、おれに金銭管理させてた。 でも 金額とかは口止めされてるから 言えない」


ビシャスが

「なあ スティク ライ先輩って 本当は、良いやつなのか?」


「さあな 私にも解らん」

スティクは、曖昧な返事を返した後、気持ちを切り替え ビシャスへ目を向けると


ビシャスは気づいたように、2人へ顔を向け

「返却も全て終わり、親から借りて残った残金と、ライ先輩からの取り分を合わせると、200万e程度は有る

クトウ、ケイメイさん それで、両親を助けてやれ 2人の取り分だ。」


クトウは

「そんな、受け取れません」

涙を零し、言葉を出す。


「お前達2人の思いを感じたから、俺達はここまで来たんだ ここで受け取ってもらえないと 顔まで腫らした捻くれ者の、頑張った意味が無くなる。  

それに、全てやると言うのでは無い、返済出来るようになれば返してくれればいいのだ。この金銭を有効に使ってくれ クトウ、ケイメイさん」

と語った後、スティクが


「あと、プロテウスの内乱騒ぎ すでに、終結してるそうだ。

近々、凍結されていた口座も解除されると聞いたから、

この、金銭を有効に使って、あと もう少し耐えれば、両親とも楽になる。

がんばれ 2人とも」


本当は、誰にも聞いていない 起こるか解らない夢の記憶だが、クトウ達を元気づける為に、初めてスティクは夢の記憶を利用した。




クトウは泣きながら、ケイメイも目を涙を溜めながら


「ありがとう」


一言だけで、今までの行動は 全て報われた気がした2人。




話が終わり、部屋に残ったビシャスとスティク


「本当に、済まなかった ビシャス お前を巻き込んでしまって」


「構わん俺が決めたことだ。 

しかし、スティク 今回は、お前の企みに乗って解ったことがある。

やはり 俺は、俺のやりかたで正義を貫く。」

と言って部屋を去るビシャスへ


「ありがとう」

スティクは、部屋を去るビシャスの背中に向けて礼を言った。

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