よくわかる? RPG裏事情
あるところで、ゲーム評論家であるZ氏が子供達にRPGゲームについて熱弁をふるっていた。
ほとんどの子供達がおとなしくしている中で、特にませた子供であるAとBがその話を「ふーん」とでも言いたそうな顔をしながら話を聞いていた。
そして最後の質問コーナーに移った時、話はとんでもない方向へと進み始めた。
Z「以上。私のRPG講座はここまでだ。最後に、私に何か聞きたいことがある子はいるかい」
A「はい!」
Z「はい、そこの君」
A「Zさんは、RPGを中心にゲームについて研究してるんですよね。なら、RPGに出てくる変なところについてはどう思われますか」
Z「はい?」
(何だこのガキ。言ってる意味がわからんぞ)
A「ほら、ドラ〇エとか〇ァイナル〇ァンタジーみたいなRPGゲームって、現実の常識では考えられないことばっかり起こるじゃないですか。それについて、Zさんはどのように解釈なさっているのかなあと」
B「あ、俺も同じこと聞こうかと思ってました」
Z「はい? あの、魔物なんて現実には出ないだろうとか、そういうレベルのお話で?」
(ゲームなんて作られた物語が中心なんだから、現実に則してない部分があるに決まってるだろうが。しかも、RPG以外のゲームでもおかしい部分はあるっての)
A「いやいやいや。俺が聞きたいのはもっと深い話ですよ。魔物なんて、敵キャラとして作られた存在って考えりゃいい話ですもん。そんなくだらないことではなく、聞きたいのはどうして現実においてはまずまあ考えられない話であるというのに、RPGにおいては常識的な制度として通用しているの物事があるのか。みたいなツッコミどころに関してですかね」
B「そうそう。例えば、宿屋制度とか」
Z「ああ、宿屋ね。泊まればHPやMPが全快するという、たいがいのRPGには備わっている回復システムだね。それのどこに疑問があると言うんだい」
A「RPGに出てくる主人公……ここでは仮に、勇者って呼びます。その勇者達って、魔物と死闘をした後に宿屋に行くわけですよね。その流れって、よく考えたらおかしくないですか」
Z「ど、どこが?」
(何言ってんだこいつ?)
B「あーなるほど。確かにおかしいよな。魔物と戦闘して宿屋に向かう勇者達って、めっちゃHP減ってるはずだもんな。HPが少ないイコール瀕死。つまり、勇者たちは大怪我をしてるのに、何故それを宿屋で回復することができるのかってことか」
A「そうそう。だって、普通に考えてその勇者一行血まみれじゃん。そんな状態でベッドに入って休んだら、出血多量で死んじまうよ。普通、怪我治すなら病院だよなあ。で、質問。Zさんは寝ただけで怪我が治るRPGの登場人物についてどう思われますか」
Z「ええっと……」
(何だ、この屁理屈じみた質問は。何故現実にはいないのに、RPGの世界に魔物が存在してるのですか。などという奴よりもたちが悪い質問じゃないか)
B「どうかしたんスか」
Z「い、いや別に。それはだね……その、あれだ。きっと、勇者達のステータスとしているHPというものは、怪我の度合ではなく勇者達の気合を示しているんだ。気合だったら、宿屋で一晩ゆっくり過ごしてリフレッシュすれば回復するってもんだろう」
A「でも、大体のゲームってHPがゼロになったら死にますよ。気合がゼロになって死ぬ人間って、メンタル弱過ぎでしょ」
Z「い、いや。気合は人間にとって命に関わるくらい重要な要素だ。特に、日夜魔物と戦うという過酷な運命を背負っている勇者達に気合がなくなったりしたら、それこそ死活問題というもので」
B「でも、中にはガチで病院でHPとかを回復するゲームもありますけどね。それにZさんの考えを当てはめると、気合を病院で回復してることになりますけど」
Z「……そういうゲームの中でのHPは、怪我の度合のことを示してるんじゃないかなあ(適当な口調)」
A「ふーん、そうですか。じゃあ、次の質問に移りますね」
Z「えっ!」
(せっかくどうにか言い逃れたと思ったのに、まだあるのか?)
A「RPGには必ずと言っていいほど世界を支配しようだとか、滅ぼそうだとかする奴が出てきますよね。仮に、そいつのことを魔王と呼ばせていただきます」
B「まあ、そういうのって大体は魔王だし、いいんじゃない? たまに違う場合があるけど」
A「魔王って、当然めちゃめちゃ強いですよね。だって、世界各地にいる魔物を統率して目的を果たそうとしてるくらいですから」
Z「確かにそうだが、それのどこに問題があるというんだい」
A「それだけ強いんだったら、どうして自分で動かないのかなあと。魔王自らが動いて、勇者一行が育たないうちにひねり潰しちゃえば世界征服とか余裕で達成できるんじゃないかなあなどと思いまして。この件についてZさんがどのように解釈なさっているのか。ぜひともこの機会に聞いておきたいと」
Z(またたちの悪い質問を……)
「ええとそれは多分、統率者である魔王が自ら出向き、もしその身に何かがあったら魔物サイドに不都合が生じるからではないかな。だって、いくら国の王が無類の猛者であったとしても、戦争で兵とともに前線に立って剣を振るうということはほとんどないだろう。それと同じように考えれば問題ない」
B「おお、なかなか有力な説が飛び出した」
A「でも、そんな強い魔王にもしものことなんてありますかね。すっげえ強いですよ、魔王。一般人が総出で殴りかかっても、絶対勝つでしょうし」
Z「その考えは甘い。魔王は統率者である己には、数多くの部下がいる。もし自分の身に何かがあれば、部下達が路頭に迷うことになってしまう。そんなこと、決してあってはならない。その考えが念頭にあるからこそ、魔王は自ら戦いに赴くようなことはしないのだ。これぞ、主君の鏡。これだからこそ、魔王の座についていられるというものだ」
(お、我ながらちょいとばかしいいことを言った気がするぞ)
A「で、そんな感じで慎重になり過ぎて、部下が倒せなかった勇者達に倒されるという哀れな末路を辿るというわけですか」
B「結局、魔王は墓穴を掘る。何だか情けないっスねえ」
Z「……」
(私の力説、見事撃沈!)
A「じゃあ、わりと納得ができる答えが出たところで次に移りましょうか」
Z「ええっ!」
(まだあるのか。このガキども……!)
B「次は俺から行きまーす。勇者一行って、魔物を倒した時にお金を手に入れますよね。それって、やってること強盗と一緒じゃないスか?」
Z「はい?」
A「あーなるほど。魔物が持ってた金を、倒して強奪してるわけだもんな。確かに、強盗と変わらないかも」
B「そういうこと。Zさんは、どう思います?」
Z(どう思うって言われてもなあ……)
「べ、別に強盗を働いているわけではないと思うけど。それはその、ええっと……あれだ。魔物が人間から奪った金を、奪い返してるという感じなんだ。某RPGの公式の説明でも、似たようなことを言っているところが確かあったはずだ。だから、強盗とは違う。多分」
B「でも、金を奪い返してるんだったら、ちゃんと元の持ち主に返さないと。Zさんの解釈に当てはめると、倒した魔物から奪い返した金を、着服してることになりますよ」
Z「うぐっ……」
A「強盗よりはマシかもしれませんけど、世界を救う救世主が犯罪行為を平気で行うというのはいかがなものかと。まあ、他人の家に勝手に入ってタンスを漁り、壺や樽を叩き割りまくるやからもうようよしてる世界ですから何とも言い難いですけどね」
B「我々は一ゲームプレイヤーとして、道徳的なRPGが世に出ることを祈りまーす」
A「祈りまーす」
Z(そんなにRPGの世界観に不満があるんだったら、もうゲームやらなきゃいいだろうが……)
「じゃあ、これはもう解決ってことでいいね。はいはい。てことで、私はこの辺で」
A「待って下さい。Zさんに聞きたいことはまだあるんです」
Z「えええっ!」
(う、嘘だろう? いい加減、うんざりを通り越して不快になってきたんだが)
A「RPGのゲームって、絶対村とか町の住人が登場しますよね」
Z「ああ、いるね。いないと情報とか聞けないもんね(棒読み口調)」
A「そうです。住人に話しかけたりしたら何かかんかの情報が手に入ったり、時にはくだらない話をされるだけだったりと様々なリアクションが返ってくるわけです。でも、それにおかしい点があるんですよ。どうして住人達は、何度話しかけても同じことしか言わないのでしょうか。違和感ありまくりで、すっごく疑問なんですよ」
B「あ、それ同感。何回話しかけても『武器は装備しないと意味がないよ』とか『ここは☓☓の町です』しか言わない奴とか絶対いるもんな。あれ、馬鹿にされてるみたいでムカつくよなあ」
A「それについてはどうお考えになられますか、Zさん」
Z(んなこと知るかよ……!)
「うー……それは、何度も同じことを言うことで勇者達が大事な情報を聞き逃がしてしまうことを回避できるようにしたんじゃないかな。かといって、大事な情報を言っている住人だけが同じことを繰り返して発言しては、別の違和感が生じるかもしれない。だから、勇者が話しかけた時は皆同じことを言うようにしてるんじゃないかなあ(投げやりな口調)」
B「大事な情報を聞き逃がさないための配慮ねえ。でも『ミ〇〇ッピー殺人事件』というゲームに登場するモブキャラは、一回話した情報は二度と繰り返してくれませんけどね」
Z「それはRPGではなく、知る人ぞ知る推理アドベンチャーゲームだ。今の話には関係ないだろう」
A「本当、『〇シシッ〇ー殺人事件』はきついよな。情報を聞き逃したら即手詰まりだし」
Z「だから今の話とは関係ないし、伏字を使うなら同じ箇所に使いなさい」
B「それに比べたら、RPGに出てくる住人は超親切ってことでいいんじゃない?」
A「そうだな」
Z「おいコラ。話を聞かんか」
B「てことで、次の質問に移るとしますか」
Z「ええええっ!」
(さっき人のことを無視したくせに、まだ聞きたいことがあるだと⁉)
B「勇者みたいな特殊な人達は呪文や教会、はたまた病院や回復カプセルだとかで生き返ることができますけど、どうして一般人はバタバタ死んでいってるんですかね」
A「お、俺もまさにそれを聞いてみたかった。よく考えたら理不尽だよな。呪文とかで生き返らせてやれるんだったら、魔物にやられた町の住人とかをどうにかしてやれよって思うもんな」
B「だよなあ。で、Zさんはこれについてはどう思われるのかなあと」
Z「寿命の人は生き返らせられないとか、そんな事情があるんじゃないかなあ(適当)」
B「俺が言ってるのは、病気で死んだ住人とかではなくて魔物の犠牲になった人達のことなんスけど」
Z「そういう人達は、そういう運命にあったという形で寿命を迎えたんじゃないかなあ。運命って、大体そんなもんだろうし(超適当)」
A「おお、わりと納得できる答えが」
B「流石はゲーム評論家。発想が凡人と違う」
Z「そ、そうかい。ははは……」
(今の一番適当に答えたのに、納得しちゃうんだ……こいつらの基準、さっぱりわからん)
「ならもう、満足いただけたかな。というわけで、私はそろそろ」
A「ちょっと待って下さい」
Z(ギクっ!)
A「Zさんに答えて欲しいことは、まだまだあるんです。もっと、俺達にRPGの世界観の解釈のしかたを教えてください」
B「俺達には、疑問が山積みなんです」
A「何故ラスボスの城の中に、ご丁寧に伝説の武器が安置されているのかだとか」
Z「う……」
B「何故薬草をいっぱい持っているのと、とてつもなく重い武具をいっぱい持っているのが同じ扱いなのかだとか」
Z「うう……」
A「世界を平和にしたあと、魔物がいなくなったせいで商売あがったりになるはずの武器屋がどうして勇者に感謝の言葉を述べるのかだとか」
Z「ううう……」
B「どこに行っても、どうして言葉が何不自由なく通じるのかだとか」
Z「うううう……」
A「あと、勇者がでかい鳥だとか飛行船だとかドラゴンだとか」
B「果ては空飛ぶ汽車とか城を乗り回しても、それを嫌でも目にしているはずの住人がどうして驚きのリアクションを見せないのか」
A「気になることが、たっくさんあるんです」
B「もうそれは、ここでは挙げきれないくらいに」
A「ぜひ」
B「この俺達に」
A「Zさんのお考えを」
B「聞かせて下さい」
A「さあ」
B「さあ」
A・B「「さあ!」」
Z「うううううーっ!」
(プチっ)
A・B「???」
Z「んなことできるかあ!さらばだ!」
げーむひょうろんかぜっとはにげだした!
A「絶対逃がすなあ!」
B「待てーっ!」
しかし まわりこまれてしまった!