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放課後の開放感は異常

このサイトをもう閲覧していないかもしれませんが、私の駄文を拝読していただいた跡があったので本当に久し振りに書き始めて見ます。

 午後一番の授業を担当していた数学教諭は、教室に入るなりこちらを見て眉をひそめたものの、その教育上よろしくないオブジェが俺だと分かるや否や特にそれ以上の反応はなく、至って普通に授業を進めていった。

 その授業中に、いつの間にか意識を失った俺が目を覚ましたのは、午後の授業どころかホームルームまで終わってからのことだった。

「おい起きろー。掃除始まるぞ」

「おおう・・・」 

 気づけば解放されており、机に突っ伏すようにしていた。どうやら流石に邪魔であると判断され、まあもういいかと許されたらしい。自分の席まで運んでくれるという丁寧なアフターサービス。何でだろう、全然嬉しくねえ。服を見れば何箇所かこすれたような形跡がある。

「引き摺りやがったな・・・」

 とりあえず起こしてくれたクラスメイトに礼を言い、身体を伸ばす。

 事の発端である下手人二名に復讐しようと思ったが、身体中が軋み、特に足への負担が大きく、激痛により完全にや(殺)る気を削がれた。まあいい。いずれ必ず復讐してやる・・・!!坂城健平、高二の秋。ここに誓う。


「お、起きたか健平。もう帰りのホームルームは終わったぞ?」

 俺が復活したことに気付き、声をかけてくる左之助。俺は、今日の事を忘れない!

「左之助、お前、覚えてろよ」

 恨みがましく言った俺に、飄々とした様子で左之助は答える。

「ああ。お前に貸した500円だろ。任せろ、バッチリ覚えてるから」

「それは是非忘れてください」

「あ、健平生きてた。今日は健平の家でゲームでいい?」

「おーいいぜ、陸。左之助、今日の部活は?」

 三人の中で唯一、部活動に所属している左之助に確認する。ちなみに空手部だ。

「今日は朝練だけで、放課後は無しだ。ただ、道着を道場に忘れちまったから取りに行ってくる」

「了解。じゃ、陸と先に帰ってるわ」

「おう」

 高校二年生の秋といえば、進路を固めていかなければならない時期のはずなのだが、俺たちはものの見事に現実逃避に勤しんでいた。

「アンタら本当に呑気よね・・・進路どうすんのよ」

 そう言って会話に入ってきたのは、先ほど俺を拷問するだけして放置した、その道のプロになれる片鱗を見せたリーダー格の女子、桐原杏香(きりはら きょうか)。昼休みの女王様っぷりから分かる通り、クラスの中心人物である。

 校則に引っ掛からない範囲でパーマ、化粧などをしており、全体的に派手な印象のいわゆるギャルである。この部類の女子にしては珍しく、真面目で成績も良く、なんというかこういった女子に特有のバカっぽさ、下品さが見受けられず、先生方の受けも良い。その竹を割ったような気持ちの良い性格と、意外と誰とでも平気で話す彼女は男女問わず人気がある。だが、

「出たな桐原・・・!さっきはよくも汚してくれたな。お婿に行けなくなったらどうしてくれる」

「純粋にキモいわ」

 俺の天敵である。どうも俺は委員長や優等生といった部類との相性が悪いらしい。すぐにケンカ腰になってしまう。

「まあ、安心なさい。ありえない未来を心配する必要は全くないわ」

「確かに」

「反論の余地がねえな」

 無慈悲にも即答で同調する友人二人。

「もう俺泣きそう」

 皆してひどいや。

 そんな俺を完全に無視して左之助は言う。

「まあ俺は進学だけどな。そこの赤点野郎と違って普段から勉強してるしな」

「おい、言われてんぞ陸」

「じゃあそんな赤点野郎がとった今日の午後の分のノートなんかいらないね」

「自分調子こいてました。すんませんした」

「何その変わり身の速さ」

 桐原が信じられないものを見る目で俺を見ているが、そんなことは気にしない。プライドなんぞで点数は取れないのだ。ちなみに俺は今、机に額を擦り付けるようにして頭を下げています。

「ったく、阿呆なことしてないでさっさと帰ろうぜ」

 ため息をついて、自分の鞄を肩にかけて準備が出来ていることをアピールする左之助。見れば陸も既に帰る準備は万端な様子。俺も慌てて教科書やらを鞄に詰め込む。

「・・・なんか今、ピンク色の本が数冊見えたような気がしたんだけど」

 それは保健体育の教科書なので気にしたら負けですよ桐原さん。じゃ、さっきからにこにこと生徒に挨拶している先生(英語担当教諭、遠藤薫子先生。一部では通称薫子ちゃん)に帰りの挨拶をして帰りましょうか。


「薫子先生、さようなら」

「あら坂城君。起こそうかどうか迷ったのだけれど、元気になったのね。良かったわ。はいさようなら・・・って、どうして泣き始めているの!?」

「いや、今日初めて人間扱いというか、純粋に心配されたもので・・・」

 今年でアラフォうおっほんを迎えるというのにも関わらず、年齢を感じさせない素敵な微笑みで、挨拶どころか心配までしてくれる薫子ちゃんに本気泣きしてしまった。このクラスの唯一の清涼剤と言っても過言ではない。

 こんなにも素晴らしい人が担任だというのに、何故このクラスの連中は奇人変人ばかりなのだろうか。甚だ疑問である。

「何言ってんの。アンタにだけは言われたくないわ」

 おっと聞こえてしまっていたか。桐原が半ば諦めたように言うが、それこそ何を言っているのかさっぱり分かりませんな。皆目見当も尽きませぬ。


 我が家と千波第三高等学校の距離は、自転車で大体二十五分程度。この地区は公共交通機関の運賃が高いことでも有名で、うちの高校に限らず自転車通学の生徒が多い。俺もそのうちの一人だ。定期代が浮くし、その分ちょいと値の張るシティサイクルを買ってもらえた。

 入学以前から分かっていたことではあるが、高校がわざわざ坂の上にあるものだから、かなりしんどい。往きは涼しい日でも汗だくになる。最初のうちはこの高校を選んだことを軽く後悔したものだが、それも良い思い出だ。まあ、帰りはその分楽だし。

 陸の家は方向は違うがそれなりの距離なので、あいつも自転車通学である。俺たちは警察に見つからないようにちょいちょい自転車で並走しつつ(最近は特に厳しい)、昨今の日本の、世界に誇るサブカルチャーについての高尚な議論を交わしていた。

「で、だ・・・通称“エロゲー”と呼ばれる十八禁ゲームだが、簡単に言っちまったらパソコンで遊ぶ二次元の“大人の大人による大人の為のゲーム”なわけだ。十八禁の理由は大半がエロスなシーンがあるからだけど。ジャンルとしては意外に多くて、恋愛アドベンチャーとかビジュアルノベルが主流だな。RPG、シュミレーションRPG、育成シュミレーション、アクションとか。さらに区分すれば広い広い。

 ストーリーもすばらしくて、最早エロ要素がオマケになっていて純愛まっしぐらな“泣きゲー”、バトルやロボ、戦争や超能力を題材とした、少年漫画みたいな“燃えゲー”、修羅場やらオチがへこむような“鬱ゲー”・・・コメディ、SF、ファンタジー、ミステリ、細分化すると限りない。まあ、世間一般が思い抱くエロスなシーンしかないような、とにかく実用性重視の“抜きゲー”もあるけど。

 というか、狂気が行き過ぎてスタッフの正気を疑うようなのとか、技術のクオリティが高すぎて三次元を見限りそうになるのとか、日本人の職人気質は世界一であると断言せざるを得ないものもある。

 だけど現実ってのはシビアなもので、年間何百作品も発売する中、大ヒットするものは極わずか。一万本売れればヒット、三千~五千本で正味の収支が釣り合うポイント(ペイライン)に到達と言われてる。まあ、具体的なことなんて想像がつかないけどさ。

 やっぱり、俺達は文化人としてこの崇高な文化に殉じて、粉骨砕身の気概で働いて、もっとこの業界にガンガンお金を落とさないといけないと思うんだ。どう思う、陸」

「とりあえず文化人が聞いたら鼻で笑うと思うよ。」

 なんてことだ。

「というか、健平がそこまで業界に関してペラペラ喋れることに若干引いたよ」

「なんだよ、お前だって似たようなもんだろ、大好きだろ、エロゲ」

「否定はしない。まあ、俺が好きなのは・・・」

 

 そんな馬鹿みたいな話をしていたら、陸の家への分かれ道まで来た。

「んで、今日は俺んち来るんだろ?どうする、ここで待ってるか?」

「ちょっと準備とかあるし、先に帰っててそっちはそっちで準備してて。左之助よりは遅くならないと思う」

「オーケー、じゃあ家で待ってるわ」

軽く手を振って、


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