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坂城健平と愉快で騒がしい生徒たち

 初投稿です。勢いだけで突き進みますのでご理解の程よろしくお願いします。

 もし、趣味は?と尋ねられれば迷わず「エロゲです」と答える。好きなものは?と尋ねられれば「女体ですね」と断言する。夢について話して下さいと言われたら、「嫁を一人、側室作ってハーレム」という理想の世界について熱く語る。俺、坂城健平(さかき けんぺい)はそういう種類の人間だ。

「いたわ、こっちよ!変態は二階北棟に向かったわ!」

 しかし勘違いしてもらいたくはない。俺は確かに他人とはやや一線を画した趣味の持ち主であることはしっかり自覚している。

「このままあの色情魔を挟み撃ちにしましょう」

 加えて俺は、自分の妄想の類を現実世界で実行しようなどとは微塵も思っちゃあいない。そんな気は蚤のクソ程も持ち合わせちゃいない。どうだ、見事な常識人だろう。

「前方にエロ魔人発見!直ちに確保に・・・あっ!窓から飛び降りた!?なによあの行動力!」

 でもまあね、認めよう。俺だって健全な男子高校生だからね、人様よりちょっとばかり人体の神秘について興味深深だったりするわけよ。いわゆる箸が落ちただけでも盛り上がるってやつですよ。野郎同士だったら一番盛り上がるのはそれこそ下ネタだったりするわけよ。でもね、だからといってね・・・。

「一階!下着ドロは目の前よ!」

 人生で最も華々しい盛りであるはずの女子高生が、大小様々な凶器を構えて眼前に迫ってきているという狂気的で猟奇的な光景に対し、高らかに叫ぶ。

「俺は下着ドロなんてマネはしねーーーーーっ!!」

 

 で、15分後。自分のクラスの最後尾付近のスペースで、後ろに手を回され石畳の上に正座させられている、まるで拷問の見本みたいな哀れな男子高校生の姿が。チョーうけるんですけど。俺だけど。

「さあ、処刑方法を決めましょうか」

「申し開きすらさせてもらえないのかよ」

「黙りなさい」

 ひどい。ピシャリと拒否された。ちなみに俺は今、女子二十数名に囲まれている。この説明だけだとなんともモテモテな光景である。どうだ、被害を受けないように遠巻きに見ているクラスの野郎共。うらやましかろう。代わってやってもいいぜ。・・・というか是非代わって下さい。

 俺を尋問しているリーダー格の女子は、親の仇を目の前にしたかのような表情でこちらを見ている。

「そうね、まず土下座して床を舐めながら拝聴なさい」

「今の俺の状況を全く配慮しない姿勢を求めるとかまじ鬼畜っすわ」

「黙りなさいと言ったでしょう。聞こえなかったのかしら坂城健平」

 うわすげえ、本当に床を舐めるくらい頭を下げそうになる程の声の圧力。こいつ声で稼ぐ仕事できるんじゃね。

「今まで反省くらいで済ませていた私たちが愚かだったわ。もう法的手段に移るしかないようね」

「法的手段に移る経緯で石畳正座はおかしいだろ」

「大丈夫、さっきの土下座もオプションできるから」

 本気の目をして笑うリーダー格の女子と、うなずく他の女子たち。だめだ、もう言葉のキャッチボールが出来ていない。

 俺こと坂城健平は、この千波第三高等学校において、さる方面ではちょっとした有名人である。だからたまーに、こんなにも熱烈な対応をされることがある。いやー、人気者って辛いよね!物理的に。でもまさか、俺用にと、石畳とか荒縄とかの決してお手軽でない拷問グッズが、おとなしい委員長のロッカーから当たり前のように取り出されたときは流石に焦ったね。というか石畳って。よくロッカーに入りきったな。四次元にでも繋がってんのかよ。

「いつか必要になると思ってね。皆で話し合って買ったのよ」

 無駄なところで日本の経済に貢献しやがって・・・どこでこんなの売ってんだ。女子がこぞって石畳を購入するなんて絵面、シュールすぎるぞ。

「無駄話は仕舞いよ。さて、この性犯罪兼窃盗犯の処理をどうしてくれようかしら」

「処理とか怖えよ。というか俺は盗みなんてやらない。窃盗犯なんて不名誉なレッテルを貼らないでもらおうか」

 きっぱりと言い放つ。盗みなんて人の苦労をあざ笑うような真似なんてするものか。そのあたり、勘違いされたくはない。

「さらっと性犯罪に関しては流したぞ・・・」

「否定してねえ・・・」

「何であいつはあの格好でドヤ顔できるんだ・・・」

 周りからぼそぼそと言われるが気にしない。男子諸君、言いたいことははっきり言い給え。だから最近草食系などという言葉が流行るんだ。

「ふうん・・・なら、午前の体育の授業の後、女子更衣室から五人分の下着が消えた事件について、どう説明してくれるのかしら」

「何で俺が関与してるのが前提なんだよ」

「今まで女子更衣室に入った回数は?」

「余裕で二桁は越えるな」

 あ。周囲の女子の目が更に厳しくなった。くそう誘導尋問とは卑怯な。・・・ん?ちょっと待て、五人分?

「なあ、一つ聞きたいんだけど」

「・・・何よ」

 相当警戒しながらこちらを睨み付けるリーダー格の女子。別に変態的な質問をするわけでもないのに。ちょっと傷つく。

「五人分ってことは、上下セットってことか?そうじゃなけりゃ今、上だけもしくは下だけ着用している奴がいることに・・・ってアレ、何その笑顔、マジ怖いんですけど何その高級そうな碁盤ちょっと待ってそれは碁を打つものであって俺に鞭打つモノじゃやめて積まないで」

 ずっしり。

「重くて痛い!」

 すねが!脛が石畳のギザギザに更に食い込んで重さと痛みのえもいわれぬコンボが!!

 既に自重でかなり足に負担がかかっているのに、囲碁を打つ際に使用する縦三十センチ程の高さのいかにもな碁盤を、身動きのとれない俺の太ももの上に積むという、鬼もためらうレベルの所業を成す女子高校生。俺の悲鳴を余所にため息をつく。

「はあ。ふざけるのもいいかげんにして頂戴」

「お前らもこの拷問、いいかげんにして頂戴」

 ここでまさかの碁盤一個追加。理不尽だ。

 完全に反抗心を失った俺は、か細い声で精一杯の反論を試みる。

「・・・もうなんださ・・・知らねえよ・・・さっきの体育って合同授業だったから、隣りのクラスの女子の荷物とかに紛れてんじゃねえの・・・」

「五人分よ。そんなことあるわけ」

「大変!さっきの体育って合同授業だったから、隣りのクラスの女子の荷物とかに紛れてたわ!」

「一概にないとは言えないわね」

「ふっっっっっざけんなあああああ!!」

 扉を勢いよく開いて入ってきたクラスメイトの女子による報告に、さらりと前言を撤回するリーダー格の女子。それに伴い、一気に怒りの沸点を突破する俺。もう理不尽とか生温い。謝罪で済まされない冤罪だ、これは。

「あらまあ、良かったわ。命拾いしたわね」

「なあんだ、一件落着ね。今日のところは見逃してあげるわ」

「さ、午後の授業の準備をしましょう。次は無いわよ」 

 口々に安堵の言葉と俺に対する敵意のこもった捨て台詞を言いながら、ぞろぞろとそれぞれのクラスや席に戻っていく女子たち。うんうん、良かった良かった、これで一件落着・・・してねえ。

「おい待てやコラ、解放しろよ!そして丁重に謝罪をしろよ!何当たり前に放置してんだよ!」

「「「チッ」」」

 集団で舌打ちのハモリはやめて。女子の舌打ちって何でこんなにも怖いんだろう。すぐにテンションが下降し、少し落ち込んでしまった俺に声をかけてくる野郎が二人。

「いや、今日もピエロってるねえ。お疲れ様」

「本当、退屈しねえよなあお前。流石に今回ばかりは同情するわ」

「陸、左之助・・・そう思うならとっとと助けて下さい」

 悲壮感たっぷりに懇願してみせる。

「余計なことで女子に恨み買いたくないから、パス」

 そうあっさり言い放ったのは、多少日焼けしているものの身体の線が細く、ギリギリ分かる範囲で髪を染めている、ぱっと見は普通のどこにでもいるような男子高校生の、新堂陸(しんどう りく)。よく一緒に遊んでいる。人畜無害そうな風貌のくせに、実際は生粋のオタクでゲーマーである。そのレベルは俺よりも高く、俺がエロゲに手を出すことになった元凶でもある。ちなみに周囲には見事にオタクだということを隠している。

「おい桐原、健平の処刑はこんなもんなのか?」

「左之助!?」

 せっかく魔女裁判が終わったというのに、なんて余計なことを言いやがる!

「いや安心しろ、冗談だ」

 ニヤリと野性味たっぷりに笑ってみせるこの男は、対馬左之助(つしま さのすけ)。小さい頃から武道を嗜んでおり、身長が平均より少し上くらいの割にはかなりガタイが良い。色は浅黒く、陸と比べるとワイルド系の顔立ちである。この二人は特に仲がよく、数少ない俺の友人兼理解者である「「じゃ、達者で」」はずだった。

「いやだから待て、解放してくれ!」

 からかうだけからかって、くるりと背を向ける二人に本気で戦慄する俺。鬼かこいつら。

「でもまあせっかくだし、午後の授業それで受けたらいいんじゃないか」

「心の底から君にこの言葉を送ろう左之助、“ふざけんな”」

 何考えてんだこいつ。どう考えてもこんなサイケデリックな格好で授業を受けられるわけが無い。実際、痛みを通り越してもう足の感覚が無くなって来た。

「俺も賛成」

「だよな陸。このうすらバカにガツンと言ってくれ。そして俺を解放してくれ」

「え、いや違うよ、左之助に賛成」

「っはぁ!?何で!?」

「だって下着が無くなった話が出たとき、真っ先に疑わしい奴として健平を挙げたの、俺だし」

「不肖この左之助、俺も賛同した」

 開いた口が塞がらないとは正にこのことだ。まさかの身内の犯行。ふつふつとある感情が沸きあがる。

「・・・なるほど、これが純度100%の殺意か・・・!」

 溢れんばかりの殺意に身を包む俺だが、流石に拘束を破る程の力は無い。が、ありとあらゆる仕返しが簡単に浮かび上がる。

 ・・・こいつら覚悟はできているようだ・・・鈍器・・・まずは鈍器を調達しないと。話はそれからだ。校庭で探せばいくらか見つかるだろう。

「つーわけでスマン、放課後までよろしく」

「これも日頃の行いということでひとつ。応援してるよ!」

「左之助ェ・・・陸ゥ・・・」

 怨嗟の声を上げる俺にひらひらと手を振りつつ、自分の席に戻っていく二人。・・・あいつら本気で許さねえ。


 

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