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50音順小説

変な苗字が集まる島 50音順小説Part~へ~

作者: 黒やま

久しぶりの投稿だす。

辺鄙な所に来てしまった。それが僕が抱いたこの萬豆島(まんずとう)に対する最初の嘆きであった。


本日 僕、別所(べっしょ)(みのる)12歳中学1年生は母親の再婚のため

再婚相手が住んでいるという離島に船で二時間かけて母共々こうして引っ越してきた。

そもそもその再婚相手が萬豆島にただ一人の医師であり、また生まれも育ちも

ここ萬豆島という生粋の萬豆島民なのである。

そんなやつと東京都民と東京都民の純血種である母がどうやって知り合ったかは

ここで語るとそれだけで小説一冊書けるほどの壮大な物語であるため

あえて、あえて話すことはしないつもりだ。

ただ物凄くロマンチックでシェイクスピアの傑作である「ロミオとジュリエット」を

超えるほどのラブストーリーであることだけはここに書き記しておく。


さて話を元に戻そう。

ともはなにあれ住民票を移しこうしてここまでやって来たので僕も今日から正式な萬豆島民なのである。

生粋の都会人である僕がこんな右も左も分からない田舎でやっていけるのかどうか

不安いっぱいながらも東京で暮らしていると目にしない自然豊かなものに

囲われて生活するというのもなかなかよいなとすでに思っている。

なんだ、この僕の順応性の高さは。きっとこれなら無人島でも生活できるだろうレベルだ。

まぁ、唯一適応していないのはこの船酔いくらいなものだ、これもそのうち慣れるのだろうか。

一人そんなことを考えていると誰かが僕の名前を呼ぶのが聞こえる、まぁ誰かといっても

この島内で僕が別所稔だと知っているのはいまだ僕を入れて三人だけなのだから。

「稔くん、こんなところにいたんだね。いくら小さな島だからといっても

 見ず知らずの場所なんだから迷子になっちゃったかと思ったよ。」

そういって僕に駆け寄ってきたのは新しい父親、興梠(こうろぎ)(さとる)だ。

三十代前半でウチの母より六つ年下の見た感じ草食系男子。

外見は男の僕から見てもカッコいいし人格者だし医者としても有能でなかなか出来た人だと思う。

どうしてこんな人が離れ小島に住んでるのか分からないと読者諸君ならそう思うのも当然だが、

僕はその理由を知っているので疑問には思っていない。

疑問に思っているのはただ一つこの島を一通り散歩してみて浮かんだことだ。

「あの覚さん、この島って興侶って姓多いんですか。」

「いやーそんなことないけど、僕んちだけだし。ほら前も話しただろう。

 僕の両親も移住してきた身だから古くからこの地にいるわけじゃないって。

 それがどうかしたのかい。」

「いや、ただなんとなく・・。この島って珍しい苗字が多いなって思ったんで。」

「それより早く家に戻ろう、恭子(きょうこ)さんが片づけほっぽり出して遊んでるんじゃないって怒っ てたよ。」

「別に遊んでるわけじゃないのに。僕は船酔いしてちょっと気分転換で散歩してただけさ。

 母さんが強すぎるんだ。」

「ははっ確かに。じゃあ僕は先に戻って上手く取り繕っておくよ。」

僕は遠ざかる覚さんの背中に礼を言うと再び歩き出そうとした

「おーい、そこの見慣れない少年。」

僕の汗ばんだ背中に誰かの声がかけられた、

後方からおそらくは同年代らしい少年三人がこちらにやってきた。

この島の子らしいがもちろん僕には面識は一切ない。

真ん中で威風堂々と仁王立ちしている少年が最初に声をかけてきたらしい、

向かって左側の鼻がすっと通って涼やかな目元をしている少年が次に口を開いた。

「そうそう、君の事だよ。えっと稔くんだよね。」

僕が驚いたというような表情をしたためか、流し目の彼はさらに続ける。

「こんな狭い島だからね、すぐに情報っていうのは広まっていくものなんだよ。」

「俺は月見里(やまなし)広海(ひろみ)でこっちのナイスガイが栗花落(つゆり)冴佐(さすけ)、んでそっちが―――――」

リーダー的存在であろう月見里広海が残りの一人を紹介しようとした時

「よそ者はさっさとこの島から出ていけ!!」

右側にいた中性的な顔立ちをした少年はずいと顔を近づけてきたかと思うといきなり僕に罵声を浴びせた。

「おい、あたる!!」

あたると呼ばれた少年はそのまま走ってどこかへ行ってしまった。

「わりぃな、あいつ島外関連のものって何かしらつっかかってくる奴だから。」

「悪い子ではないから気を悪くしないでくれるかな。」

「はぁ・・・・・。」

「まっこれから長い付き合いになると思うからよろしく頼むぜ、稔。」

いきなり呼び捨てでがっちりと肩を組まれた都会人としてはこのコミュニケーションには

まだついていけないし、正直ついていきたくないと思うものであった。


その後二人と別れた後のろのろと自宅(元は覚さんが一人で住んでいたところに僕と母が

越してきた)へと帰り罰として母にトイレ掃除を任せられて仕方なくゴシゴシと便器を磨いていた。

今日は酔うし、知らない人に怒鳴られるしトイレ掃除やらされるし踏んだり蹴ったりだ。

この後に自室へ戻ったら荷物の開封を行わなければならないと思うとさらに憂鬱感が半端ないと

タイル張りの冷たい部屋で一人ごちていたら

ガララと玄関が勝手に開けられ「すいませーん。」という声が聞こえてきた、

全く鍵をかけないで自由に出入りできてしまうのはどうかと思う。

「稔ー、ちょっと玄関見に行って。」

手が離せないらしいので母の命令で仕方なく玄関へ向かうとそこには二人の少女が立っていた。

「あー、おねえちゃん。この子が噂の子だよきっと!!」

背丈が小さく柔らかそうな栗色の髪がぴょんぴょんと跳ねて悪気なく僕を指さす女の子に少しムッと

したのも束の間、間髪入れずに隣にいる大人びた女の子が叱る。

ショートカットで前髪から覗く瞳は大きく僕をすっと見つめる、とても魅力的な女の子だ。

こんな子が田舎にもいるのかと驚いてしまった。

「こら、すず。こんにちは、あ、隣の家の者ですけど覚さんいらっしゃいますか。」

「あ・・・、えーと。」

僕がドキマギしていると知らない間に覚さんが玄関へ入ってきて少女たちに気さくに声をかけた。

「おーいろはちゃん、それにすずちゃんも。」

「これ引っ越しで大変だろうからお母さんが持ってってあげなさいって。」

いろはと呼ばれた子が提げていた紫色の包みを覚さんへ渡す、どうやら食べ物らしい。

「わぁ、いつもありがとう、お母さんにもそう言っといてもらえるかな。」

「いえいえ、それで覚さん。こちらの男の子は・・・・・」

すずという子を叱ってはいたがやはり彼女も噂の男の子が気になっていたっぽい、

こんな子に興味を抱いてもらえるとは引っ越しもなかなか悪くない。

「あぁ、そうだよ。稔くんこの子は隣の家の子で四月一日(わたぬき)いろはちゃん。

 それでこっちの元気がいいのがいろはちゃんの従妹の八月朔日(ほずみ)すずちゃん。

 えっといろはちゃんは稔くんの一コ上ですずちゃんは二コ下で小学5年生かな。」

いろはさんは中学二年生のお姉さんなのか、なるほどしかも隣に住んでいるとは

どこかの恋愛マンガのような展開を期待する僕がここにいた。

「あっども。」

でも都会ボーイは心は浮足立っていても表面には出さないものだクールにいこう。

「で、この子が僕の息子の稔くんだよ。二人とも学校では仲良くしてくれよ。」

「「はーい。」」

「えっ?ちょっと待ってください覚さん。四月一日さんはともかくこのちんちくりんは

 小学生なんでしょう?だったら学校は違うはずです。」

ちんちくりんという言葉に怒っているすずを無視して覚さんに反論する。

しかし僕の質問に答えてくれたのは覚さんでなくいろはさんであった。

「あぁ、それはねこの島の子供の人口が少ないから小中と校舎が一緒なのよ。

 全校人数は42人って一クラス分しかいないの、東京から来た稔くんからしてみたら

 びっくりするかもだけどなかなかいいものだから。」

そう彼女は説明してくれたが僕はそんなことよりいろはさんが僕の事を名前で呼んでくれたことに

喜びを感じていた、これが離島コミュニケーションか!ビバ離島!!

「お姉ちゃん、こんなアホヤローに優しくしなくていいよ!調子に乗るよ。」

「もう、すず。ごめんね、稔くん。あと私のことは下の名前で呼んでくれるとうれしいな。

 島の子たちはみんな名前呼びだから。それじゃあ私たちはこれで。」

「はい。また、いろはさん・・・。」

今まで恋愛らしい恋愛をしたことのなかった僕についにチャンス到来か!?少々やかましいのが

くっついていたが恋に障害はつきものだ、乗り越えて見せようではないか。

「稔くーん、そんなところでガッツポーズしてないでこっちでご飯にしよう。」


なんで潮風にあたりたいなんて思ったのだろう、柄にもないことしてしまったせいで

とんでもなくどうしようもない事態に陥ってしまったのだ。

遅めの昼食を食べた後、部屋の片づけもままならないまま今度は海の方へ散歩してみようと

ただなんとなく本当になんとなく砂浜を歩いていたら、偶然にも罵声を浴びせかけてきた

少年にばったりと出会ってしまった。

もちろんここでゆっくりお話しなんて空気ではないのでそのまま無視して歩こうとしたら

まさかどうしてこうなった、あたる少年から声をかけられ砂浜で二人体育座りでボーッと

海を眺めるなんてこんな気まずい状況どう打破すればいいんだ。

なんて言ってこの場から立ち去ろうかあれこれ考えていたらあたるの方から

話を振ってきた、驚くべきことに先程の怒り心頭ではなく落ち着き払った口調なものだから

本当に同一人物か疑ったぐらいだ。

「覚さんは良い人だ、島の皆からも慕われている。だから覚さんが選んだ人なら

 きっといい人に決まっている、多分。けどその子どもであるお前はどうか分からない。

 どうせ親が再婚するからって嫌々付いてきたんだろう。」

前半部分は大分イラッときたが後半は事実なので反論の仕様がない。

でもそれも今では随分と変わってきたのだ。

「お前、島から出ていけ。」

「それは困る、僕はこの島が気に入ったんだ。」

意外だと言わんばかりにあたるの目がまんまると大きく見開いて僕を見ている、

その言葉を信じたいけど信じ切れずにいる彼の表情、きっとこいつにも何かあるんだろう。

「お前だって所詮街の人間だろ・・、こんな田舎なんて嫌だとか思っているんだろ。」

「まぁ来る前は嫌だとは思ってた、けど引っ越してきて考えが変わった。

 むしろこっちの方がドラマチックな舞台が整っている。」

「・・・はぁ?」

「覚さんは良い人だし母さんを大切にしてくれる、お隣には美人のお姉さんがいるし、

 まぁほかにも空気がきれいで子供を育てるにはいい環境だし。だからは僕は萬豆島に住みたい。

 この島や島の人たちとも仲良くなりたいんだ、もちろん君とも。」

あたるに対する怒りを抑えて大人な対応を、そして自分の素直な気持ちを伝える。

僕にだって彼が悪い奴ではないことは分かる、むしろ非常に仲間思いな奴に違いないとさえ感じた、

一体どんな反応するのか待っていたがポカンとしたきりピクリとも動かない。

「なぁ、聞いているのか。」

自分から一歩近づこうと地元民のコミュニケーションの仕方で軽く肩を叩こうとした途端

「さっさわるな、ばか!」

僕の手が近づいていることに気付いたあたるはいきなり僕の頬を爪が食い込むまでつねってきた。

「何するんだよ。」

せっかく譲歩していたのにこんなとばっちりがあるもんか

僕は仕返しとばかりに思いっきりあたるの両頬をつねってやる。

「痛いなっ、放せバカヤロー!」

「お前が放せ馬鹿野郎。」

膠着状態が続きこちらから何か仕掛けようかと思ったちょうどその時であった。

「はいはーい、そこまで。この勝負引き分け。」

といきなり何かが二人の間に入ってきたと思ったらなんと物陰から飛び出てきたのは冴佐であった。

「冴佐っ、お前隠れて観ていたのか。」

「俺もいるぞー。」

後から登場してきた広海はニヤニヤ笑っていた。

「広海・・・、お前たち何のつもりだ。」

突然の二人の登場にあたるは怒りを隠さず広海と冴佐を睨みつけた。

「何ってお前らの仲を深めてやろうと思ってな、仲介人として来てやったぜ。」

「そろそろ彼の事認めてあげてもいいんじゃないかな。」

「・・・・・。」

「あたる、お前だってとっくに分かってるんだろう、こいつはいい奴だって。」

「・・・・・・。」

え?そうなのか、さっきの態度からして僕の事を明らか嫌悪しているようにしか

見えなかったが実は認めてくれているらしい。

そんな少年は真っ向から睨んでいたのに今では俯いて表情が読み取れない。

「分かってるならやることはやることは一つだよな。」

「・・・・・・・。」

あたるはクルリとこちらに顔を向けるとバツがわるそうに悪かったと何とか聞き取れる声がした。

「稔お前もなぁ、いくらムカついたからって女子の頬をつねるなんてことしなくてもいいだろ。」

「いくら女子だからってなぁー、って。」

そのまま言い返そうとした時不穏な言動が聞こえた気がしたのであたるの襟首を掴んだまま

首だけは広海の方をぐりっと回して凝視する。そして一拍置いてから

「えぇ!?女子!?女!?だってあたるって・・・。」

「あぁ、あたるっていうのは名字だよ。フルネームは(あたる)さつき。」

「だってみんなは下の名前で呼び捨てだからてっきり・・・、それにどこからどうみても・・・。」

男にしか見えないという言葉はあたる、いやさつきの鋭い眼光によって尻込みしてしまった。

「あたしはさつきっていう名前が嫌いだからみんなには上の名前で呼んでもらってるんだ。

 それにこの格好の方が動きやすいし好きなんだ、なんか文句あっか。」

「いえ、なにもありません。」

ただ、ややこしい名字だなと思っただけです。

「まぁ、無事あたると稔が仲直りがしたんだしこれでお前も俺らの仲間だ。」

「あのなぁ僕は君ら妙ちきりん名字集団の仲間になった覚えはないぞ。」

「何言ってるんだ、お前だってその妙ちきりんな名字じゃないか。」

「はぁ!?何言って・・・」

そうだ、あまりの珍妙な名字集団の多さにすっかり忘れていた。

僕、別所稔は別所姓から義父の姓に変更になったから僕の名前は興侶稔になったのであった。

これで僕もすっかり珍名集団の仲間入りというわけだ。

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