戦いは更衣室の中で
「皆の者、準備はいいかー!!」
「「オォー!」」
青春の真っ只中をフリーラン中の高校生である我々の叫びは、竜の咆哮が如く雄々しい。
「おし、今日は何の日か言ってみろ佐藤!」
「うっす! プール初日なのであります!」
「うむ! その通りだ! ではプールと言えばなんだ? 佐藤!」
「それはもちろん覗きであります!!」
佐藤が下卑た笑いを浮かべる。さすがは我が片腕、私とのシンクロ率が暴走レベルだ。
「そう! プールと言えば覗き! ごく当たり前の事だ、覗きが無ければプールでは無いと言ってもいいだろう。覗きをせずになんで共学になんか入ったのかと! 男子校にでも行ってアッーなことでもしてればいいのだと! そう私は思う!」
「「せやなー!!」」
その場にいる全員が叫ぶ。今の我々はさながら兵隊だ、いや戦場に赴く……戦士だ!
戦友を見渡しながら私は激を飛ばし続ける。
「準備を怠っている者はいないな!? いるなら今すぐ前に出て歯を喰いしばれ! その歯の間にう○い棒をぶち込んでやろう。……何でか分かるかサトーウ!!」
「わ、わかりません!」
「私の趣味だー!!」
「「イーヤッフー!!」」
こうして盛り上がるだけ盛り上がった我々は時が来るのを、体育の時間になるのをひたすらに待った。しかし余りにも退屈だったので佐藤にう○い棒を三本刺しておいた。イーヤッフー!
「……時は満ちた」
薄暗い更衣室の中心で私はニヤリと笑う。
「さすが我らがリーダー! たまらなくイタいっす! でもそこがかっこいいっす!」
「今こそ! 我々の真価が問われる時だ! 各自持ち場につけーい!」
「了解しましたー!」
私の号令にそれぞれのポジションに移動する。
窓の近くにはスタイルが抜群な伊藤、天井と壁の隙間から見える位置には上半身に自信のある後藤、そして絶好のポジション、壁の穴の正面には私が陣を取る。
顔は可愛いが体が残念な佐藤には死角に待機してもらう。
これが私たち現役女子高生(戦士)の本気!
気になる男子を仕留める。もとい! 射止めるためなら覗かれることすら望むのだ。
しかし、恥じらいが無いわけではないのだ。私だって女の子だし、肉体に自信はあると言っても……それとこれとは話が別で、その証拠に私の心臓の中では現役ロックドラマーが小粋なビートを刻んでいた。
「隊長ッ! 準備できましたー!」
いつ男子が覗いてきてもいいように万全のポージングで待ち受ける我が部下達。私の教えを守り皆自然なポージングだ。
ポージングは狙いすぎてはいけない。相手はあくまでも着替え中の女子を覗きたいのであって、更衣室の中でグラビア的なポーズをしている女子を見たいわけではないのだ。そんなことは長年の研究で分かっている。
部下の声に私は自分の立場を思い出し反省した。私が恥ずかしがっていてどうする! 先陣を切って見本とならねば!
二回ほど深呼吸をし、私は気合いを入れ直すとともに恥ずかしさを打ち消した。
「チャンスが二度あると思うなッ! 死ぬ気で魅せろ!!」
「オォオオオオオオ!!」
私の号令に皆の女子力が高まるのを感じ、私は勝利を確信した。
さぁ、こちらの準備はできているぞ! いつでも覗いてこい、この飢えた野獣どもが!!
――十分後――
「なぜだ!? なぜ誰も覗いて来ない!?」
私はうろたえていた。佐藤の口にう○い棒と間違えてからあげ棒を刺してしまうほどに。
十分間もワイシャツから手を抜く瞬間をキープしていた私は限界に近かった。靴下を脱ぐ瞬間をキープしていた後藤はすでに涙を流している。
くそう、なんで覗きに来ないのだ男共よ! こんなにおいしい物が揃っているというのに! ネコだったらまっしぐら間違いない状況だと言うのにっ!
私はたまらず目の前の壁にへばりつきその穴の中を覗き込んだ。
「――ッ!?」
私は目の前の光景が理解できなかった。
そこには、覗かれるのは今か今かと待ちポーズを決めている男子高校生の姿があった。
「なんでっ! ……なんで、男子が覗かれるのを待ってるんだよぉぉおおおおおおお!」
こうして我々の戦いは幕を下ろした。
全く、草食系男子にも困ったもんだよ。