表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

戦いは更衣室の中で

「皆の者、準備はいいかー!!」

「「オォー!」」

 青春の真っ只中をフリーラン中の高校生である我々の叫びは、竜の咆哮が如く雄々しい。

「おし、今日は何の日か言ってみろ佐藤!」

「うっす! プール初日なのであります!」

「うむ! その通りだ! ではプールと言えばなんだ? 佐藤!」

「それはもちろん覗きであります!!」

 佐藤が下卑た笑いを浮かべる。さすがは我が片腕、私とのシンクロ率が暴走レベルだ。

「そう! プールと言えば覗き! ごく当たり前の事だ、覗きが無ければプールでは無いと言ってもいいだろう。覗きをせずになんで共学になんか入ったのかと! 男子校にでも行ってアッーなことでもしてればいいのだと! そう私は思う!」

「「せやなー!!」」

 その場にいる全員が叫ぶ。今の我々はさながら兵隊だ、いや戦場に赴く……戦士だ!

 戦友を見渡しながら私は激を飛ばし続ける。

「準備を怠っている者はいないな!? いるなら今すぐ前に出て歯を喰いしばれ! その歯の間にう○い棒をぶち込んでやろう。……何でか分かるかサトーウ!!」

「わ、わかりません!」

「私の趣味だー!!」

「「イーヤッフー!!」」

 こうして盛り上がるだけ盛り上がった我々は時が来るのを、体育の時間になるのをひたすらに待った。しかし余りにも退屈だったので佐藤にう○い棒を三本刺しておいた。イーヤッフー!


「……時は満ちた」

 薄暗い更衣室の中心で私はニヤリと笑う。

「さすが我らがリーダー! たまらなくイタいっす! でもそこがかっこいいっす!」

「今こそ! 我々の真価が問われる時だ! 各自持ち場につけーい!」

「了解しましたー!」

 私の号令にそれぞれのポジションに移動する。

 窓の近くにはスタイルが抜群な伊藤、天井と壁の隙間から見える位置には上半身に自信のある後藤、そして絶好のポジション、壁の穴の正面には私が陣を取る。

 顔は可愛いが体が残念な佐藤には死角に待機してもらう。

 これが私たち現役女子高生(戦士)の本気!

 気になる男子を仕留める。もとい! 射止めるためなら覗かれることすら望むのだ。

 しかし、恥じらいが無いわけではないのだ。私だって女の子だし、肉体に自信はあると言っても……それとこれとは話が別で、その証拠に私の心臓の中では現役ロックドラマーが小粋なビートを刻んでいた。

「隊長ッ! 準備できましたー!」

 いつ男子が覗いてきてもいいように万全のポージングで待ち受ける我が部下達。私の教えを守り皆自然なポージングだ。

 ポージングは狙いすぎてはいけない。相手はあくまでも着替え中の女子を覗きたいのであって、更衣室の中でグラビア的なポーズをしている女子を見たいわけではないのだ。そんなことは長年の研究で分かっている。

 部下の声に私は自分の立場を思い出し反省した。私が恥ずかしがっていてどうする! 先陣を切って見本とならねば!

 二回ほど深呼吸をし、私は気合いを入れ直すとともに恥ずかしさを打ち消した。

「チャンスが二度あると思うなッ! 死ぬ気で魅せろ!!」

「オォオオオオオオ!!」

 私の号令に皆の女子力が高まるのを感じ、私は勝利を確信した。

 さぁ、こちらの準備はできているぞ! いつでも覗いてこい、この飢えた野獣どもが!!


――十分後――


「なぜだ!? なぜ誰も覗いて来ない!?」

 私はうろたえていた。佐藤の口にう○い棒と間違えてからあげ棒を刺してしまうほどに。

 十分間もワイシャツから手を抜く瞬間をキープしていた私は限界に近かった。靴下を脱ぐ瞬間をキープしていた後藤はすでに涙を流している。

 くそう、なんで覗きに来ないのだ男共よ! こんなにおいしい物が揃っているというのに! ネコだったらまっしぐら間違いない状況だと言うのにっ! 

 私はたまらず目の前の壁にへばりつきその穴の中を覗き込んだ。

「――ッ!?」

 私は目の前の光景が理解できなかった。


 そこには、覗かれるのは今か今かと待ちポーズを決めている男子高校生(エモノ)の姿があった。


「なんでっ! ……なんで、男子が覗かれるのを待ってるんだよぉぉおおおおおおお!」

 こうして我々の戦いは幕を下ろした。

 全く、草食系男子にも困ったもんだよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ