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第二十九章:反逆者

大変長らくお待たせ致しました。本編の更新はもうないんじゃないかと思われていたことでしょう。忘れ去られてしまわないようになんとか今日仕上げました(最終話ではありません)。では本編の続きをご覧ください。

「これで晴れてお前もオレ達の仲間入りだ」

 モーゼズがオレの肩に手を置いて笑顔で歓迎する。これで良かったのだろうか。オレはたった今、零号士(ゼロ)になった。それは望んでいたことだったが、何か、してはいけない契約を交わしてしまったような気がした。オレはモーゼズ達の仲間になった。オレは……



 “反逆者(あく)”になったのか?



「手続きは以上だ」

 言って相楽氏はまた肘掛け椅子に戻り、それを回転させてオレ達に背を向けた。

「さぁ、行くぞ」

 モーゼズが背中を押してオレを出口に向かわせる。

「失礼します……」

 オレは相楽氏の背中に一応そう告げた。それからモーゼズに促されて来た時乗ってきた貨物用エレベーターに乗り込み、その部屋を後にした。







 戻る途中のエレベーターの中でオレは切り出した。

「部屋に戻ったら教えろよ。何故オレを地球に連れていこうとしているのか」

「ああ、分かってる」

 とモーゼズは頭を振って頷きながら軽く返事した。

 こいつは変わらないな。

 オレはいつもと何ら変わった様子が見られないモーゼズを、目を細めた冷たい眼差しで下から見据えた。

 オレはもう、ただの防衛パイロットではなくなってしまった。“ただの”零号士でもない。希望が現実となって動き始めた。それが正しいのか間違っているのかは分からない。分かっているのは、オレは自分の意思でそこに向かおうとしていること。オレは何か答えを探している。そこに行けば見付かるような気がする。それは



  “地球”か?



 オレは養成施設に入る前に立てた誓いを思い出した。


 “零号士になって大切な人を地球旅行に連れていく”


 その誓いには別の意味も含まれていた。


『父が見てきた景色をこの目で見たい』 

『父と同じフィールドに立ちたい』



 昔からオレは憧れていた。

 父の生き様に。

 父が愛し、魅了された――


 “地球”に。


 もうすぐ手が届きそうだ。

 あの星に。

 地球がオレを目覚めさせる。

 オレのなかの“地球人”のDNA(遺伝子)を。

 遺伝子(細胞)が主張している。

 オレの故郷は“地球だ”。

 “火星ではない”と。


 ――not Mars――


 モーゼズのブレスレットに刻まれていたあの文字もそういう意味なんだろうか。そして


 ――BLUE HEVEN――


 “青い天国”

 あのチーム名は地球のことか?



「今日はすべて話してもらうぞ。オレはお前達の“仲間”になったんだからな」

 部屋に着き、後から入ってきたモーゼズがドアを閉めると攻撃的な口調でオレは言った。モーゼズは身構えるわけでもなく、余裕のように微笑した。





 カーペットを敷いた部屋にモーゼズと向かい合って座った。緊張が走る。気持ちが高ぶっているのはオレだけだった。モーゼズ(こいつ)が緊張している所なんて見たことがない。こいつはいつだって自由奔放で、からかうような目でオレを見る。真面目な話をする時も、口の端は上がっている。

 モーゼズはムートンクッションの上であぐらをかいて言った。

「今日は何でも答えてやる。何が聞きたいか言ってみろ」

「じゃあ、聞くが……」

 オレは疑問を一つ一つ紡ぎ出した。ブレスレットに刻まれていた“not Mars”という文字について。さらに何故チーム名が“BLUE HEVEN”なのか。

「ふっ、そんなことか」

 モーゼズは軽く鼻で笑った。オレは、そうやって笑って誤魔化されないぞと視線で挑みかける。モーゼズは「わかった」と言うように唇を動かした。

「あのブレスレットの文字はな、あれは――」

 彼は言葉を選び、唇を湿らせてから続きを継いだ。

「火星に生まれながら、生きる価値を認められず、存在する権利も認められないNO ID'(オレたち)が生きる場所はここではないと、火星コロニー政府に対する批判の意味が込められている」

「……」

「チーム名の“BLUE HEVEN”は、オレ達の希望の星――地球を意味している」

「そうか……」

 希望の星。あんなに傷付き、病んでしまった星が“希望”。あの青い星にはきっと不思議な力がある。巨大な生命力を放っている。生命を育んできたあの星に



 還りたい――



「オレを地球に連れていく理由は?」

 オレは最後の問いを繰り返した。モーゼズが軽く開けていた唇を閉じて含み笑いをする。

「……」

「……」

 鼓動が強くなる。胸腔を突き破らんばかりに、ドックン、ドックン、ドックン、ドックン……と。泰然とした含み笑いのモーゼズと目に力が入り、隠そうとしてもそこから高揚の色が顕わになってしまうオレの睨み合いが続く。

 息苦しくなる間を開けてから、ようやくモーゼズが開口した。

「お前を何故地球に連れていくのか、オレも理由は知らない」

 ?――

「はぁ!?」

 オレは気が抜けたように半笑いになる。なんだそれは……

「オレは雇い主にそうするように言われただけだ。遠山雄二の息子を零号士にして、物資輸送メンバーとして地球に連れていけと。それがもっとも怪しまれずに地球に連れていく方法だと」

「……っっ」

 オレは眉間に皺を寄せて唸った。

「結局分からないままじゃないか。なんだったんだよ、今の間は?」

 溜息が零れる。もう嫌だ、こいつ。疲れた。

「ふっふっ……」

「笑ってごまかすな!」と冷たくオレは一蹴する。溜息ばかり繰り返していると


「響」

 ふとモーゼズがオレの名を呼んだ。落胆して項垂れていたオレは顔を上げた。

「なんだ」

 気怠そうに問い返す。モーゼズの顔を見ると、笑顔の中に決意を表明する男の強い眼差しが並んでいた。

「二十日のショーでオレたちは新しい記念日を作る。同志を歓迎する記念日だ」

 潔いその表明に迷いは見られなかった。彼等は変えようとしている。彼等の生きる世界を。その決意は、決して誰の言葉にも揺るがないだろう。


今年中に完結できるかな…。あと何個か描きたいエピソード入れたら終わりだ。なんか辛いよ。情が湧いて。これでも作者にとっては大事な作品なのです。最終話までお付き合いよろしくお願いします。

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