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第十一章:依存症

 “相楽”と名乗った男はやはり相楽臣さがら しんの父親だということが分かった。夢の中で相楽臣やつはアンドロイドだと言われていたが、本人に確かめようとはしなかった。オレには関係のないことだ。だがオレ自信に異変が起きたことは否めない。

「あの時君は何故、命令に逆らったの?」

 相楽臣に聞かれた。その時の記憶は曖昧で、自分にもよく分からなかった。宇宙に出てその広がる深い闇を目にした途端、血が騒ぎ出したのだ。その闇に身体を開放してみたくなり。

「隕石の爆破がしたかったんだろ?」

「はぁ……」

 オレは曖昧に返事した。相楽臣は不敵に笑う。

「なら、零号士ゼロになれよ」

 やはりそう来たか。だが、そうするべきなのかもしれない。こいつの父、相楽氏の話にあったように“人口蓄積知能”が影響している可能性はある。オレもいずれ凶暴化し……その兆候が顕れた。その可能性を完全には否定できなかった。

 もう一度確かめてみるか……


 オレはそうすることにした。




 システム管理室を訪れ、霧島マネージャーを探す。モニターには機体の位置が表示されている。霧島マネージャーはそのモニターを見ながら担当パイロットをナビゲートしていた。モニターをチェックしているのは数十名おり、オレが近付くと霧島マネージャーは振り向いた。

「どうしたの?」

 動きに合わせて彼女の髪が揺れた。肩まである前下がりの黒髪は真っ直ぐで乱れがなく、制服のシャツもしっかりとアイロン掛けされていて、全く隙がない。オレは話を切り出すが

宇宙そとを巡回する仕事ねぇ……」

 そんなに都合よくは行かなかった。前回オレは指示に背いたためペナルティが課せられており、すぐには宇宙そとの仕事がもらえなくなっていた。

「あなたは宇宙そとに出ると性格が変わるようね。今度また勝手な行動をとったら、謹慎処分になるから肝に命じておいて」

「はい」

 彼女の厳しい眼差しに対し、オレはしっかりとそう返事をしたがそれに保証はない。また暴走してしまうかもしれなかった。だが、抑えきれなかった。


 あの闇空間に行けば答えが出る。


 想いはただ一つ、それしかなかった。





 その後オレはまだ喉の調子が悪かったため、総合医療ルームに向かった。そこは薬品の匂いが仄かに漂い、白い壁に囲まれている。その中に医療機器や仮眠カプセルが設置され、オレにとってはそこが安らぎの場所でもあった。部屋に入ると数人の白衣を着た男女の姿があった。その中に高藤沙羅たかとうさらもいた。彼女は仮眠に訪れたパイロットのカプセルのタイマーをセットするとこちらに歩いて来た。

「おはよ、仮眠しに来たの?」

 淡い青色の髪を今日は左で一つに束ねていた。薄紫色の大きな瞳。温和な表情がとても安らぎを与えてくれる。

「いや、喉の調子が悪くて。何か喉にいい薬ない?」

「塗り薬があるけど……何で喉痛いの。風邪?」

「分かんないけど、何か薬を飲まされたんだ」

 オレがそう言うと彼女は不思議そうに目を丸め、首を傾げた。

「この前オレ、勤務中に爆風に巻き込まれて気を失ったんだ。その後、投与された薬で喉がおかしくなって」

 彼女が心配そうな瞳でオレを見詰める。目が潤んで泣きそうだ。

「大丈夫?」

「ああ、なんとか」

 本当は調子が悪かったが、オレはそう誤魔かした。

「そこに座って?」

 オレは診察イスに腰掛けた。

「口を開けて」

 彼女がオレの喉の中をライトで照らして診察する。

「少し炎症を起こしてるみたいだから、薬を塗っておくね」

「……っ」

 薬が苦かったのでオレは少し顔を歪めた。

「はい、お終い」

「ありがとう」

「響くん」

 彼女は不安な顔をした。

「ん?」

「気を付けてね? あまり危険な仕事はしないで、怪我しないように……」

 思わずオレは苦笑いした。これからもっと危険な仕事をしようとしているのに、こんな悲しい顔をされたら何て言っていいのか分からない。

「沙羅ちゃ〜ん、タイマー押して〜?」

 仮眠カプセルの開いた蓋の中からパイロットが顔を出して呼んでいた。

「は〜い!」

 沙羅はそこへ行き、オレは部屋を出て行った。





 この日はコロニー周辺の担当地区をパトロールする仕事だけだったが、ペナルティのためオレは機体(MECA)での移動を許可されず、徒歩で巡回するはめになった。球、円錐、三角、正方形。図形のような形をした建築物が並ぶ町並。その風景は見慣れていた。それはさほど変化もせず、退屈だった。宇宙そとはどんなにいいだろう。何もなかったが、自由に飛び回れそうだった。いや、見付けていないだけで、まだ何が隠れているか分からない。


 早くまたあの闇の空間に行きたい。


 完全にオレはその闇に取り憑かれているようだった……


次話に続きます。

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