第九章:覚醒
自分でハードルを上げてしまった気がする……この展開(汗)
《システム管理室》
「あなた達は火星軌道F地点を巡回してください」
霧島マネージャーの指示により、オレと高藤樹羅と相楽臣は火星軌道上を巡回することになった。レーダーを見ながらそこを回り、大気の状態や隕石の接近を調べるのが今回の任務だ。隕石の接近など危険が発生した場合は皆、零号士が出動して処理に向かう。危険業務は全て零号士任せな為、安全と言えば安全だ。
基地へ向かう途中相楽臣が言った。
「オレの機体、超ダサくなっちゃった〜。白だぜ、白」
普通白だが……相楽臣にとって普通はダサいのだろう。前の機体は銀色にしていた。オレや高藤樹羅が所属するパトロール隊機関では機体の塗装は白と規制されているが、零号士にはないのかもしれない。相楽臣の零号機を爆破した零号機も白ではなく、青だった。ちなみに相楽臣が言った“ジタ”とは、零号機のコールサインが『ZR―0(ZitaRose―0)だからだろう。愛着を持って他にもさまざまな呼び方をされている。
この日オレは初めて宇宙に出た。そこは上も下もわからなく地面も無い無限に広がる闇空間。この闇の中に父は消えて行った。魂はどこへ行ったのだろう。そもそもあの世とは存在するのだろうか。この闇に散って行った魂はどこへ行ったのだろう。
機体から出れば答えが出るだろう。
一瞬で押し潰され“無”となるか、その“続き”があるか……
その時警報ランプが点滅した。
《隕石が接近中! 零号士以外のパイロットは至急退避せよ!》
宇宙飛行用に設置したスピーカーからマネージャーの声が響く(※フライト以外や緊急時などは常用語を使う)
「……?」
巨大な闇に魅せられてしまったオレは、ぼんやりとして上の空だった。
《今の聞こえた? 至急退避だって》
高藤樹羅の声。それも通過した。
《遠山くん?》
「……」
隕石とはどんなものか見てみようか。
それが迫り来る恐怖を体感してみようか。
《響! 至急待避しなさい!》
「……」
失敗したら格好悪いな。ただの大馬鹿野郎だ。
オレはドアロックを解除しようとする。が
「?」
“ERROR”――と表示された。
「何故だ?」
もう一度試すが、やはり駄目だった。
《何してるの響、命令が聞こえないの!?》
「マネージャー、オレも隕石の処理業務に立ち会います」
《何言ってるの。その機体は零号機じゃないのよ? 爆発に巻き込まれたらどうなるか分かってるの。即刻待避しなさい!》
「マネージャー」
《何!?》
マネージャーはすっかりご機嫌斜めだ。霧島マネージャーも気の毒に、こんなパイロットの担当なんか任されて。
「ふふ」
オレは笑っていた。危険が迫るというのが待ち遠しくて。
《響っ!》
「ドアが開かないんです」
《はっ?》
「ロックを解除しようとしたらERRORになって……暗証番号教えてください」
《解除はできないわ。自殺防止のため基地のゲートを通過するまで機内からは解除不能にしてあるの。至急戻りなさい!》
「そうですか」
――余計なことを
もう止められない。自分でもどうすることもできない。オレは……
零号士の息子だ
……ここは?
少年が見える。水色の髪――相楽臣?
険しい表情をしている。
「臣、お前はアンドロイドだ」
誰だ。この白衣を着た男は。
「嘘だ!……や、やめろっ!」
白衣の男は相楽臣の腕にメスを入れた。
「!?」
血が出ない。
「これで分かっただろう。その身体には血液など流れていない。人口皮膚でコーティングされたアンドロイドなのだ」
「ち……違う」
相楽臣が完全に狼狽しきっている。
「何が違う?」
白衣の男の眼鏡越しの眼は陰湿で無表情だ。
「臣、お前は私が造ったアンドロイドなのだよ」
「違う! オレは人間だ!……」
相楽臣が怯えた目で後退していく。
「アンドロイドだ。だから死なない」
白衣の男が迫って行く。
「お前は私の“最高傑作”だ」
「うわぁぁぁぁぁ――――っ!」
相楽臣の叫び声が轟き……
「!?」
……ここは
「やっとお目覚めかな」
「?」
眼鏡を掛けた白衣の男。誰だ?
「気分はどうだね。遠山響くん?」
「……!」
――声が出ない!? 何故だ。
オレは辺りを見渡した。
それに何でオレはこんな所で寝てたんだ?
……っ頭痛が。何で……
「ふふ……良い夢が見れたかな?」
夢?――そう言えば……
「私は相楽。ここは私の研究室だ」
「……」
“相楽”?
「声が出ないだろう? 薬が切れるまで我慢してくれ。そのうち出るようになる」
「?」
薬だと? 何でそんなこと……くそっ! 喉が……っ。
「かはっ! けほっけほっ……!」
「慌てることはない――では少し話をさせてもらおうか」
「……」
「君は人口蓄積知能チルドレンだ。その中でも類をみないほど正常な」
類をみないほど正常な? 他で何か問題でもあったのか、とオレは首を傾げた。声はまだ出ない。
「人口蓄積知能を施した子供の多くが精神のバランスを崩し、思春期に入る頃には暴徒と化している」
「!?」
そんなことが起きていたとは――全く知らなかった。
「しかし君にはその傾向が見られない。優秀な“作品”……いや、成功例だ。是非とも私の研究に協力してほしい」
「かはっ!……どんな……研……究なんで……すか」
オレはかすれてほとんど空気が漏れただけのような声でなんとか質問した。
「クローンもしくは“アンドロイド”の研究だ」
「…… !」
アンドロイド!?――あの夢と同じ。まさか相楽臣は……
「君のような優秀な人間の遺伝子を集めクローンまたはアンドロイドを造り、人類をエリートで埋め尽くす。ふふ、素晴らしい計画だろ?」
「……」
これが相楽臣の父親なのか? この人なら奴のクローンでも、アンドロイドでも造ったとしてもおかしくない――そう思った。




