第3話
いらっしゃい
「お伽の国」へ───
本当は、私も疑っていたのかもしれない。
そんなもの、存在しないんじゃないかって。
だからこそむきになって、必死になって、
真実に変えようと───
していたのかもしれない…
でも、
きっとある、
そう信じていた気持ちに、
「嘘」はないから───
よ う こ そ ───
あれ、また本を読んでる途中で寝ちゃったのか…、と蒜羽は目をあけて思った。
しかしその思考を、否定されるものが、彼女の目の前に広がっていた。
しばらく蒜羽は何も考えられなかった。
いつもうっかり寝てしまい、目覚めたときに目にするものは、
公園で、小さな体をいっぱいに広げ、笑い声で駆け回る子どもたち───
ではなかったから。
学校の帰り道にある、丸い砂場が特徴の、「まんまる公園」。
その真ん中にある、背の低い、でもがっしりとした木に登り、太い枝に座って、
蒜羽は本を読む。
お母さんには、はしたないからやめなさい、って言われるんだけど。
ここはお伽の国に、なんだか近いような気がするから───
そんな風景だと思ったのに。
ここは、まるで───
まるで
「お伽の国───…」
思わず口にした言葉は、蒜羽自身に緊張をはしらせた。
ドクン、と胸が波打つ。
嬉しいのか、それとも、まだ
疑っているの───?
どこまでも続く、広い草原。
見たこともないような、真っ青な空、ときに除く白い雲。
どうやらここは丘の上のようだが、はたして、日本にこんな場所があったのかな…と蒜羽は考えていた。
数十メートル先はもやがかかったようで、あまり見えない。
あたりを見回しても、誰も───
「ねぇ、聞いてる?もヒもヒ〜??」
いたっ?!
しかし人ではなく…
「う、馬…」
何これ何これ。
とってもかわいい、ぬいぐるみみたいな素材でできた(?)蒜羽の半分ぐらいのお馬さん。
それが私に向かって、日本語を話している?!
「馬とは失礼な!確かに馬だけれどもっ!」
怒っているようだが、目がとってもくりくりしているので、全然怖くない。
むしろ愛くるしい一方なので、蒜羽はぎゅっと抱きしめてみたくなった。
「名前は何てゆーの?」
「あ…、平枷蒜羽…」
「ん?!ヒヒーンヒンヒ?!」
馬語?!つか無理矢理?!
「ひらかせひるはだって!!」
長いなぁ、と呟きながらお馬さんは少し考えて、
「ヒラカセヒルハ、じゃあ、「ヒラヒル」で十分だね」
「ヒラヒル…」
蒜羽は初めてつけてもらった、「あだ名」というものに感動していた。
私のもうひとつの名前。
ヒラヒル───なんだか、お姫様みたいですごくかわいい!
なんだか満足した気持ちになった後、
何か大切なことを尋ねなくてはならないのでは、と頭の中でひらめいた。
目線をお馬さんに合わせるため、かがむと、
緊張が一気に込み上げてきた。
その緊張をのみ込んで、
「ねぇ、ここは、もしかして───」
蒜羽が尋ねたと同時に、その声はやってきた。
「こんなとこで何してるんだ、ピニー!」
懐かしいような、何だか優しさの塊でできたような面影の青年の姿に、
蒜羽は自分の鼓動を止めてしまうところだった。
次回から、例の魔法使いのお話でございます。よろしければ、次回もご覧になってくださいねっ↑