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知識的自由と身体的自由と

作者: P4rn0s
掲載日:2026/03/31

外に出ると、世界は驚くほど狭かった。


歩ける範囲も、行っていい場所も、やっていいことも、

ほとんど決まっている。


公園の入り口には注意書きが並んでいる。

ボール遊び禁止。

大声禁止。

危険行為禁止。


何が許されているのかより、

何が禁止されているのかの方が、ずっとよく分かる。


足元の砂は、踏んでもいいのか一瞬迷うくらいに整っていた。


誰もいない。


遊具は揃っているのに、

遊び方だけが失われているみたいだった。


ポケットの中でスマホが重い。


取り出して画面を開くと、そこには別の世界がある。


知らない国の街並み。

見たこともない料理。

会ったこともない人たちの生活。


指でなぞるだけで、どこまでも行ける。


山にも、海にも、空の上にだって行ける。


危険な場所ほど、鮮明に見える。

本当なら簡単には行けない場所ほど、簡単に辿り着ける。


知ることだけなら、何の制限もなかった。


むしろ、知ることだけが無限に許されていた。


画面を閉じる。


目の前には、同じ公園がある。


行けるのは、この中だけ。

触れられるのも、この範囲だけ。


さっきまで見ていた世界が、嘘みたいに遠い。


ほんの数センチのガラスを挟んだだけで、ここまで違う。


思い出す。


昔は、逆だった気がする。


知らないことだらけだった。

遠くのことは何も分からなかった。


でも、体はどこまでも動いた。


知らない道に入って、怒られて、戻ってきて。

川に近づいて、危ないって止められて。

それでも少しだけ触ってみたりして。


全部、自分の足で確かめていた。


世界は狭かったのに、自由だった。


今は違う。


世界は広がったのに、動ける範囲は小さくなった。


知っていることは増えたのに、触れられるものは減った。


何が危ないかは全部知っている。

何がダメかも、全部分かっている。


だから、やらない。


やる前に止まる。


止まることが、正しいから。


ベンチに座る。


頭の中には、たくさんの景色がある。

砂漠も、雪山も、海の底も、ちゃんと知っている。


でも、手のひらには何も残っていない。


砂の感触も、水の冷たさも、風の強さも、全部ぼやけている。


知識は増えたはずなのに、記憶は薄くなっていく。


それが少しだけ怖かった。


遠くで、自転車のブレーキ音がした。


一瞬だけ、子供の声が聞こえた気がして顔を上げる。


でも、すぐに静かになる。


その音も、どこかへ消えていく。


ポケットの中のスマホが、また震える。


新しい情報が届いている。

新しい世界が、また一つ増えている。


それを見れば、もっと知れる。

もっと広がる。


でも、その分だけ、ここは変わらない。


ここは、ずっと同じ広さのままだ。


立ち上がって、公園の端まで歩く。


それ以上は、なんとなく行ってはいけない気がして止まる。


理由は分からない。

でも、分かっている気がする。


戻る。


ベンチに座り直す。


結局、ここにいる。


どこへでも行けるはずなのに、どこにも行っていない。


自由になったはずなのに、何もしていない。


ふと、思う。


この世界は、本当に広がったのだろうか。


それとも。


広がったのは、頭の中だけで。


体は、少しずつ、

小さな箱の中に収まっていっているだけなのかもしれない。


風が吹く。


何もない公園の中で、その音だけがはっきりと残る。


その音は、どこにも行けないまま、

ここに留まっているように聞こえた。

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