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TOKYO PMC  作者: ヒロセカズヒ
ニューロン
8/10

仕様外

 翌朝、病院に戻った。


 ニコールはサーバー室で電力線経由の転送ログを追っていた。俺は外来棟を担当した。


 昨日の記録を確認しながら歩いた。


 少女のデバイス付近から出ていた電波が気になっていた。スマホとBluetoothで繋がっている補助デバイス——それは普通だった。しかし、もう一つ。デバイス本体から直接、一般携帯電話帯域の電波が出ていた。


 病院のシステム担当者を捕まえた。


---


「昨日の少女について確認したいことがあります」と俺は言った。「補助デバイスを装着しています。耳に小さなデバイスです」


「ああ」と担当者は言った。「水無瀬さんですね。視覚補助のデバイスです。うちで治験中の患者さんです」


「デバイスの仕様を教えてもらえますか」


「詳しい仕様は私たちは持っていません」と担当者は言った。少し困った顔をした。「デバイスの管理権限は私たちにはないんです」


「どこが持っていますか」


「経済産業省です」と担当者は言った。「デバイスの開発と管理は経産省の委託プロジェクトです。うちはあくまで治験の場所を提供しているだけで」


 俺はグラスのフレームに触れた。


「病院が把握している仕様の範囲で構いません。デバイスに通信機能はありますか」


「スマホと連携します」と担当者は言った。「Bluetooth接続です。スマホ経由で病院のマップデータや外部カメラの情報を受け取っています。それが基本的な仕様です」


「デバイス単体での通信機能は」


「ないはずです」と担当者は言った。「スマホがなければ動作しない仕様だと聞いています」


 俺は頷いた。


「確認します。ありがとうございました」


---


 廊下の隅で記録を整理した。


 デバイスの基本仕様——Bluetooth、スマホ連携、単体通信機能なし。


 しかし昨日の記録には、デバイス本体から一般携帯電話帯域の電波が出ていた。スマホとは別の電波だった。微弱だったが、確かにあった。


 三つの可能性があった。


 一つ目——病院が把握していない仕様がある。開発段階で追加された機能を、病院側に伝えていない。


 二つ目——経産省が意図的に組み込んだ機能がある。デバイスを通じて何かのデータを収集している。


 三つ目——第三者がデバイスに細工をした。開発者でも経産省でもない誰かが、デバイスに通信機能を仕込んだ。


 インフェクターの偽装ルーターとは別の話だった。


 二つの侵入経路に加えて、デバイスの問題が出てきた。


---


 ニコールに状況を伝えた。


「経産省の案件が絡んでいるとすれば、動き方を考える必要があります」とニコールは言った。「政府機関に直接聞けば、情報が向こうに伝わる」


「そうです」


「IAISに照会するのも同じリスクがある」


「経産省とIAISが情報を共有していれば」と俺は言った。「ただし、それを確認する方法がない」


 ニコールが少し考えた。


「デバイスの開発元を調べましょう」とニコールは言った。「経産省の委託先です。そこから当たれば、経産省に知られずに情報が取れる可能性がある」


「IAISには偽装ルーターの件だけ照会します」と俺は言った。「デバイスの件は別に動かします」


「賛成です」


---


 午後、外来棟を歩いていると、少女がいた。


 今日は廊下の真ん中を歩いていた。耳のデバイスから何かを受信しながら、壁に触れずに歩いていた。


 俺は少し離れて見ていた。


 少女が自動販売機の前で止まった。昨日と同じ動きをした。硬貨を入れて、指でパネルをなぞった。


 少女の体の近くでグラスが電波を捉えた。


 携帯電話帯域の反応があった。今日もあった。


 少女がボタンを押した。


 缶が落ちる音がした。


 少女が振り返った。視線が俺の方を向いた。俺の少し横を向いていた。


「昨日の人ですか」と少女は言った。


 俺は驚いた。グラスのフレームに触れた。


「そうです」と俺は言った。「気づきましたか」


「足音です」と少女は言った。「昨日と同じ歩き方をしている人が近くにいました」


 俺は少し間を置いた。


「水無瀬さんですか」


「そうです」と少女は言った。「あなたは病院の人じゃないですよね。昨日もそう思いました」


「違います」と俺は言った。「調査をしています」


「何の」


「病院のシステムです」と俺は言った。「あなたのことではありません」


 少女が缶コーヒーを持ったまま少し考えた。


「そうですか」と少女は言った。「邪魔してすみません」


「いいえ」


 少女が歩いていった。


 俺はその背中を見ながら、グラスの記録を確認した。


 携帯電話帯域の電波データが残っていた。


 仕様にない電波が、今日も出ていた。


 経産省の思惑なのか。それとも第三者がいるのか。


 今日の段階では、まだ分からなかった。



―― 第8話 了 ――


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