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TOKYO PMC  作者: ヒロセカズヒ
ニューロン
4/11

アマギフ

虎ノ門のオフィスまで、東京駅から地下鉄で二十分だった。


 ニコールとは駅で別れた。彼女は先に横田へ向かう。合流は明日の午前中だった。


 日比谷線の改札を抜けたところで、グラスが周囲を照合し始めた。通勤客、観光客、ビジネスマン。該当なし、該当なし、該当なし。


 階段を上がって地上に出た。二月の虎ノ門は風が冷たかった。


 オフィスまで徒歩五分。俺は霞ヶ関方面に歩き始めた。


---


 コンビニの前を通りかかった時、男が立っていた。


 40代前半、スーツ、ネクタイが緩んでいる。グラスが照合した。該当なし。登録のない人物だった。


 男が俺を見た。


「あの」と男は言った。「すみません」


 俺は立ち止まった。


「Amazonギフトカードって、どこで買えますか」


 俺はコンビニの看板を見た。それからグラスで男の表情データを確認した。発汗、視線の揺れ、声の微細な震え。


「このコンビニで買えます」と俺は言った。「ただし、今日は買わない方がいいと思います」


 男が固まった。


「なんで分かるんですか」


「表情と声に出ています」と俺は言った。「誰かに指示されて買いに来たんですか」


 男が俯いた。否定しなかった。


---


 少し離れたところで立ち話になった。


 男の話を聞いた。消費者金融、カードローン、リボ払い。気がついたら三社から借りていた。返済のために別のカードを作った。雪だるまだった。そこに「アマギフで返済できる方法がある」と連絡が来た。


 アマゾンギフトカードを使った資金洗浄の入口だった。


「僕がアマギフを買うのは違法なのか」と男は言った。声が少し上がっていた。


「違法じゃありません」と俺は言った。「ただし、後戻りできませんよ。今よりひどくなる」


「どうしろというんですか」


「破産するんですよ」と俺は言った。「制限はつきますが、やり直せます」


 男が黙った。


 スマホが鳴った。


 男が画面を見た。表情データが変わった。緊張から、別の何かへ。


「妻です」と男は言った。出た。「もしもし」


 スマホから声が聞こえた。女性の声だった。


「いま、玄関のドアが——」


 男の顔が変わった。グラスのデータではなく、俺にも分かるくらい変わった。


「分かった。すぐ帰る」


 電話を切った。男がコンビニの入口を見た。それから俺を見た。


 男が踵を返した。


---


 俺は周囲を見た。


 グラスが一人の男を捉えた。電柱の脇に立っている。スマホを見ているふりをしている。視線がこちらに向いていた。


 照合した。該当なし。ただし姿勢と立ち位置が監視の訓練を受けた人間に近かった。


 俺は男に追いついた。


「少し待ってください」


 男が振り返った。


「本当に困ったら、連絡してください」と俺は言った。名刺を出した。「私の仕事はあなたを助けることではありません。私の仕事は、あなたが組み込まれようとしている仕掛けを解明することです」


 男が名刺を見た。


「民間軍事会社?」と男は言った。「なんで」


「あなたが関わろうとしている仕掛けは、思っている以上に危険で大きいんですよ」と俺は言った。「破産の相談は、法テラスに電話してください」


 男が名刺をポケットに入れた。頷いた。歩いていった。


 俺は電柱の脇の男を見た。男はすでにその場を離れていた。


 グラスが歩行パターンを記録した。


 声紋は取れていなかった。ただし歩き方は残った。


---


 オフィスのビルに入った。


 エレベーターを待ちながら、グラスで記録を確認した。監視の男の歩行パターン。電話口の女性の声。アマギフの指示をした相手。


 全部が繋がっているとすれば——規模が見えてきた。


 ニコールが言っていた。


 思っている以上に大きい。


 エレベーターが来た。



―― 第4話 了 ――


本日は朝の投稿を忘れました。すみません。明日は朝の10時ごろに投稿します。

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