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止まない雨に傘を差して  作者: もち
1章:雪解雨
8/8

兄たちの秘密話

壮真視点です

 

「・・・流石にわざとらしかったんじゃないか?」


 隣に立っている黒髪の青年は、飄々と笑みを浮かべている。4人居た内の2人がいなくなり、今は彼と自分しか残っていない。


「何のことだ?」


「しらばっくれる気か」


 青年は依然として口を割る気配はない。


「この書類、上の方には真白のことが書かれてあるけど・・後ろには長谷川海人(かいと)のことが書いてある。これを小晴(こはる)くんに見せないために出て行かせたんだよな?」


「偶然だな。何の根拠もない。俺は紅茶が飲みたくて、資料も間違えて持ってきただけだ」


 と、口では語って本心は晒さない。変に格好つけたがるのがコイツらしいと言えばらしいか。

 恐らく、俺と2人で長谷川海人のことを話したかったのだろう。


「分かった。お前が話さないのなら俺も詮索しないさ」


「クックック・・なら本題に入ろう」


 人気のない校舎裏で、風の音が強く聞こえる。


「長谷川海人を一言で表すなら “平凡” だ。成績が良くも悪くもなく、素行に問題もない。だが、コイツの行動には不可解な点がある」


「不可解な点?」


「長谷川海人は入学した後の登校初日、クラス分けの名簿を見ずに教室へと入っていったらしい。人づてに聞いたら確かにクラスは分かるかもしれないが、流石に教室の場所までスムーズに行けるか?」


「それは・・・学校見学で見たとか、場所知ってる友達と行ったとか」


「ほう、頭が回るじゃないか壮真」


「?頭は回ってないぞ」


 頭は回転できないだろう。首の骨が折れてしまう。

 恭介は俺を見るや、はぁっと深くため息をつく。


「なぜお前は言葉の意味をそのまま受け取るんだ・・まぁいい。お前のいう通り、説明しようと思えばいくらでも理由付けできる。だが、今回素行調査をした結果、アイツの動きには一定のパターンがあることが分かった」


「一定のパターン?」


「ああ、まるで()()()()()()()()()()()行動をすることが多いらしい」


「・・・お伽話だな」


「もちろん信じている訳ではない」


 未来が分かるなんて非現実的なことだ。やはり、頭のいい恭介はそんなこと信じない。


「そういえば・・それに関わっているのか分からんが、少し前に不思議なことがあったんだ」


「何だそれは?」


 恭介は意外そうに耳を傾ける。


「長谷川くんと妹は中学生の頃仲良かった時期があって、何回か遊んでいたんだ。一回妹が長谷川くんの家で寝落ちして、車で送ってもらったことがあってな・・・でも、常に気を張っている妹が寝落ちするなんて信じられないんだ。まして他人の家で居眠りするなんてあり得ない。目が覚めた後本人に直接言ったら驚いていたし」


「勉強している日頃の疲れが出ただけじゃないか?」


「だといいんだが・・もう一つ不自然なことがあってな」


「何だ?」


「長谷川くんの車は()()()()()真白を送り届けたんだ。彼の両親に話を聞いたら、長谷川くんが案内してくれたらしいんだが・・今思えば何で家までの道のりを知っていたのか疑問なんだ」


「お前の妹が教えただけではないか?それとも、前に一回来たことがあるとか」


「長谷川くんが家に来たことは一度もない。それに、自分の家の住所を易々と人に教えるか?」


「だが、考えられることは それ位しかないぞ」


「そうだな・・幸い怪我とかもしてなかったし、真白が酷い目にあった訳ではなかったから、特に触れなかったんだが・・やっぱり不自然じゃないか?」


「ああ、裏がありそうだな。未来予知なんて現実離れしたもの信じないが、俺の方でもう少し調べてみるとするさ」


「俺も協力するぞ」


 そう言って恭介に手を差し伸ばした途端、額を指で弾かれた。


「いたっ、何するんだ恭介」


「クックック・・協力は感謝するが、俺が調査するまでお前は待機だ。あっちの方から証拠が見つからないと、こちらも下手に動けないのでな。頭脳派と武闘派で使い分けるぞ」


 ケラケラと笑っているが、俺を問題事に巻き込まないよう配慮しているのだろう。

 こいつ・・また1人で全部抱え込もうとしてるな。

 恭介は口悪いし打算的なとこあるけど、人に親切な奴だ。素直じゃないけど、何やかんや面倒見がいいし。デレが抜けたツンデレみたいな。

 先ほど小晴を追いやったのも、彼を危険な目に遭わせないようにするためだろう。


「なるほど・・これがブラコンってやつなのか」


「納得するな口を慎め壮真」


 少しだけ怒ったように語気を強める。ブラコンと呼ばれるのが癪に触ったようだ


「まぁい、事件が起きる前に方をつけるぞ」


「そうだな」


 本当、いいお兄ちゃんをしていると思う。俺も見習わないとな。


「ていうか、いい加減真白のことを認めてくれないか?恭介。兄として、友人が妹のことを好ましく思っていないのは嫌なんだが・・」


「・・・別に嫌いではない。ただ、小晴の魅力に盲目で、長谷川海人しか眼中にない態度が気に食わんだけだ」


 ああ、確かに。それは少し同感だ。

 長谷川海人に好意を抱いている女子は可愛い。だからこそ、1人の男子生徒にのみ恋愛感情が向けられている状況を、周囲の男子は好ましく思っていない。その女子に好意を抱いている男子なら、尚更・・

(小晴のことを大切に思っている)恭介でさえ辛いなら、小晴本人は相当しんどい思いを抱えているに違いない。


「じゃあ、2人が付き合うこと自体はいいのか?」


「・・・小晴が決めた事なら、俺に口出しする権利はない」


 恭介の言葉に思わず笑みが(こぼ)れる。

 遠回しに言ってはいるが、付き合う事になっても反対しない、という事だろう。

 ・・・実際にそうなった後、寂しさで精神が崩壊しないかは心配だが・・


「本当、似たもの兄弟だな。恭介も小晴くんも」


 自分よりも、好きな人の幸せを願えるんだがら。

 その生き方は苦しいだろうが、誰よりも格好良く、立派だと思う。本当に尊敬できる。


「どこがだ。俺なんかと小晴を一緒にするな」


 恭介は口を尖らせて眉間に皺を寄せる。弟と自分を比較されたことをよく思わなかったのだろう。

 変に自己肯定感が低いんだよなぁ・・


「そんなに顔を(しか)めるなよ。かっこいい顔が台無しだ」


「常々思うのだが、お前の真顔フェイスで言われると煽られているのか そうでないのか分からん」


「表情筋が硬いから仕方ない。フィーリングで読み取ってくれ」


 昔から笑ったり泣いたり驚いたりしても、中々顔に出せなくて無表情になることが多い。笑顔の練習は毎日しているんだがな・・


「そういえば、恭介は何で今日このメンバーで集まろうと思ったんだ?」


 元々俺(壮真)と恭介と紗雪の3人で食べていて、そこに小晴が加わった。

 最近は小晴くんも友達ができて、紗雪も長谷川くんの所に行っているから2人で昼ごはんを食べることが多かったのだが・・昨日の小晴くんの事情を踏まえると、タイミングが良すぎないか?


 そう聞くと、恭介は少し言い辛そうに目を背ける。


「・・・・小晴が・・・だ」


「うん?」


 小声で何を言っているのか聞き取れなかった。何かを必死に押し留めようと、両手で顔を覆っている。






「小咲には昨日の夜に相談していたのに、お兄ちゃんには相談してくれなかったんだ!!」






 あー・・・・・・自分に話してくれなかったことがショックだったんだな・・

 小咲くんは恭介と小晴くんの弟だ。直接は会ったことないが、小晴くん同様可愛い見た目をしているとか。


「ま、まぁ・・俺たちは受験生だし、そこら辺は配慮していたんじゃないか?」


「ああ、そんなことお前に言われなくても百も承知だ!!だがな、兄である俺より、小咲おとうとの方を選んだことが悲しかった!!家族の信頼度ピラミッド(小晴専用)に亀裂が生じている・・・これはあってはならない!だから俺は今日小晴を誘い、頼れる存在として兄の優位性を見せようと思って今に至るというわけだ・・!」


 何で誘う前に小晴くんの昨日の事情全部知っているんだとツッコミたくなったが、とりあえず考えないことにした。

 ・・・やっぱり恭介こいつを兄として見習いたくはないな


「クックック・・見てるか小咲、小晴の一番の理解者の座は譲らんぞ・・」


 指の隙間から眼光を覗かせ、不気味な笑みを浮かべている。まるで獲物を狙った狼のようだ。


「・・・・・頑張れ」


 返す言葉に困ってそれしか言えなかった。


「フハハ、感謝する。お前もな」


「俺も?」


 突拍子もないことを言われて戸惑う。

 俺が何を頑張るというのだろう。確かに勉強は努力した方がいいと思うが・・


「お前の今の状況も、小晴と同じだろう?」


「・・・・・!」


 なんで・・恭介が知っているんだ。

 彼は疑問に答えるように話を続ける。


「ククク・・・先程言ったではないか、”全生徒の全情報を隅々まで把握している“ とな」


「・・・長谷川くんのことは隅々まで知らなかったのに?」


「あくまで “知れる範囲” だ。人のプライベートまでは知らんさ」


「そっか・・意地悪だな」


「お前もだろう」


「恭介程じゃないさ」


 お互い付き合いが長いんだ、知られていないとは思っていなかったが、流石に驚いた。

 やはり恭介は人のことを見ているな・・兄弟揃って本当に凄い人たちだ。

 ・・・俺は小晴くんにアドバイスできる立場じゃない。勇気が出なくて臆病で、今の関係で満足しているような奴が、上から目線で物を言う訳にはいかない。


「壮真」


「どうした?」


 恭介は何か言いたげな目で、俺の方をじっと見ている。


「・・・・・いや、何でもない。もうすぐ昼休みが終わるから、小晴と会って早く戻るぞ」


「?分かった」


 一体どうしたのだろう、と思いつつ彼の後に続く。

 ガシャンと閉めたドアの向こう側は、誰もいない静寂に包まれたー






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