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止まない雨に傘を差して  作者: もち
1章:雪解雨
7/8

先輩は頼れる?

 

「・・・っていう訳なんだ」


 真白と話した次の日のお昼休み、人気のない校舎裏でお昼を食べていた。

 いつもだったら友人二人(大和と太一)と食べているが・・・今日は兄に呼び出されて、久々のメンバーで食事をしていた。

 そして、丁度いい機会だったので昨日あったことも軽く話したのだ。


「よし、とりあえずお兄ちゃんが和泉真白と話し合いをすれば万事解決だな」


 笑いながら言ってるが、目が全く笑っていない。今にも真白の所へ乗り込みそうな勢いだ。

 いや何も解決しねーよ何が “よし” だ!ぜったい問題増やすだろ!!

 相談とは言ったが、兄は鼻から戦力外だ。期待してない。俺に対して過保護すぎて周りの人間アンチしてるからな。


「おい、いくら恭介でも俺の妹にちょっかいかけたら許さないからな」


 隣に居た白髪の青年が、襟首を掴んで制止する。


「ごめんな小晴こはるくん、うちの真白が迷惑かけたみたいで・・」


 彼の名前は和泉壮真。真白の実兄で、白髪赤眼のイケメン。兄の親友兼、俺の一個上の友人でもある。元々俺が友達少なかった時期に兄繋がりで仲良くなった。

 柔道部の主将をしている彼の力には、流石に恭介も敵わない。


「そうだ壮真、もっと謝れ。お前の妹が俺の弟を奪おうとしているんだからな!」


「いやーこっちこそごめんね壮真くん。毎度こんなへんじんに付き合ってくれて本当に感謝しても仕切れないよ」


「何、感謝するのはこちらの方だ。君がこないだくれたプロテインバー美味しかったよ」


 兄の戯言を無視して話を続ける。

 先日、兄が自分のファンを壮真に押し付けて俺の教室に押しかけてきたことがあった。その侘びとして後日彼の好物を渡したのだ。


「でも本当にプロテインバーで良かったの・・?」


 正直聞いた時には少し驚いた。

 もっとこう他に・・お菓子とかゲーム系のものでも良かったんだが全然。


「ああ、最近噛みごたえのある食べ物にハマっていてな。栄養補助食品とかもよく食べるんだ」


 と、真顔で真剣に答えた。

 壮真くん・・・基本的に兄のお世話してくれる聖人なんだけど、たまに食生活聞くと不安になるんだよな・・


「おい小晴。そんな脳筋体育会系の話に耳なんて傾けないで、天才生徒会長のお兄ちゃんの言うことを聞いてほしいな〜?」


 なんだこいつ、と思ったが口には出さない。もう一度無視するのは流石に可哀想めんどうなので、反応することにした。


「はいはい、天才じゃなくて “天災” の間違いだろ」


「ごめんな小晴、口頭じゃ漢字が分からん」


 ダメだ、口で何言ってもこの兄貴には勝てそうにない。

 反論するのを諦めて、壮真の方に話を戻す。


「壮真くん、健康には気をつけてね」


「ああ」


「ちなみに今日は何を持ってきたの?」


 彼の隣にあるお弁当袋に目を向ける。

 流石にちゃんとした食べ物入ってるよな・・?


「小晴くんの言う通り、今日は健康に気を遣って・・・プロテインバー全種類持ってきたんだ!」


 そう言って弁当箱から山のようにプロテインバーを出す。

 チョコレート味、バニラ味に抹茶味、フルーツ味・・たくさん種類あるな〜健康的・・・って、どこが気を遣ってるんだ!


 目の前でドヤ顔している白髪の青年を目にして、俺は何も言えなくなる。

 なんでイケメンって少しズレてる人しかいないんだろう・・・


「壮真くん・・・今後は俺と一緒に学食行こう。全然毎日とかじゃなくていいから」


 肩をガシッと掴み、真剣な眼差しで彼を見る。


「?でも・・」


「そっちの方が金銭的にも節約できるからお得だよ!!」


「そ、そうなのか。ならそうするよ」


 と言って、何がおかしいのか分かっていない顔で頷く。

 若干強引に押し切ったかもしれないが・・友人が偏った食生活をしているのは見過ごせない。恭介(兄貴)は別だけど。


「小晴、今何か失礼なこと考えなかったか?」


「いや気のせい」


 俺の周りエスパー多くないか?

 皆聞かれたらまずい事に関しては敏感になるもんなのかなぁ・・


 依然として壮真に襟首を掴まれている兄を尻目に、頭上にある空を見上げた。

 今日はいい天気だなと、呑気なことを考えていた時、校舎裏のドアが開いた。


「ごめんなさい。遅れたわ」


 黒い髪を腰まで伸ばした女性が出てくる。髪は乱れていないものの、急いできたのか、少し息が上がっている。


「大丈夫ですよ。さっき集まったばっかりなんで」


「ああ、気にしないでくれ紗雪」


 俺たちがそう言うと、彼女は安心したように笑みを浮かべ、隣に腰を下ろす。


「ありがとう壮真君、小晴君」


 彼女の名前は霜月紗雪。高校3年生の先輩で、恭介と壮真の同級生。容姿端麗、頭脳明晰な学年一の美少女で、2人(恭介と壮真)同様、周りから多くの支持を得ている。3人とも顔がいいから、一緒にいても違和感がない。

 類は友を呼ぶ、なんて言葉が当てはまっていると思うが・・・この言葉には意味がもう一つある。


「おいそこの読書オタク、分かってると思うが小晴の半径2m以内には近づくなよ?ここから先は兄である俺にしか許されない絶対領域なんだ」


 顔だけはいい男が、俺を守るように視界を塞いできた。いつの間に壮真くんのガードを抜けたんだ。


「貴方は人に喧嘩を売らないと気が済まないのかしら?ブラコンも大概にした方がいいわよ」


「クックック・・遅れた貴様にそれを言う権利はあるのか?」


「みんなが早くきていただけでしょう?・・まぁ、弱い犬ほどよく吠えるとは良く言うわ」


 2人の間で見えない火花が散っている。

 会う度にしょっちゅう喧嘩してるよな・・なんでこんな仲悪いんだ。

 皆がいる前ではお互いに猫被って笑顔でやり通してるけど、俺や壮真の前だと良く言い争っている。ある意味信頼されてるって事か・・?


「喧嘩する程仲がいいってやつだ。多分」


 疑念を解消するように壮真が答える


「ああー納得」


「「誰がこいつ何かと!」」


「息ぴったりじゃん」


 それからしばらくの間、2人の口論が続いた(って言っても3分程度だが)

 壮真は一歩引いたところから2人の様子を見守っていた。その目は慈愛に満ち溢れていたが、どこか寂しそうに思えた。

 

「壮真くん大丈夫?」


 少し様子が気になったので声をかける。

 

「?ああ、大丈夫だ」


 俺の予想に反し、彼は平然としていた。

 あれっ、いつもの無表情壮真くんだ・・俺の杞憂だったかな?


 薄い雲が消えて太陽が見え始めた頃、両者の口論はようやく終わった。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 とりあえず全員集まったので話を本題に戻す。

 壮真は終始真顔で、恭介は黒い笑みを浮かべ、紗雪は何かを言いたそうな目を向けてくる。

 ・・・三者三様、思うことがあるのだろう。大方予想はつくが。

 ちなみに相談した内容は、”好きな子とどう話せばいいか” だから、彼女の内面やプライバシーには一応配慮している。恋愛相談をお互いにすることは話していない。訳あって定期的に話す間柄になったことは伝えた。

 昨日小咲(おとうと)の前で限界オタク化した時は口が滑ったかもしれんが・・


「えーっと・・各々言いたいことはあると思うんだけど、誰から話す?」


「俺は後で大丈夫だ」


「おっけーじゃあ霜月先輩からで」


「分かったわ」


「待て小晴、兄に人権がないんだが」


「兄ちゃん絶対長くなるから一番最後」


「なん・・だと?」


「とりあえず私から話すわね」


 ショックを受けてる兄を横目に話を進める。


「小晴君・・・」


「は、はい」


 美人が真剣な眼差しで俺のことをじっと見つめてくる。もし、俺が彼女に好意を寄せていたなら告白する雰囲気だと勘違いしただろう。






「告白しましょう!」


「早い!!」






 思わず敬語なしで反応しちゃったじゃんか


「良く考えてみて小晴君、貴方が今このタイミングで真白さんに告白して付き合えば、私は海人かいと君の()()が1人減って、小晴君は好きな子と付き合うことができる、最善だと思わない?」


 そう言って、接近しながら両手で俺の手を包んできた。近い!!

 ・・・お分かりの通り、彼女は・・霜月紗雪は、 “雨と乙女心” のヒロインの一人なのだ。

 海人に好意を寄せる先輩キャラで、男の娘キャラの俺や委員長キャラの真白は彼女のライバル。


 初めて会った時はびっくりしたよ!何で兄貴が霜月紗雪ヒロイン(つる)んでるんだって思ったし・・

 昔この前のヒロインみたいに、海人の件で勘違いされた時は説明するの大変だったな。


「大丈夫よ。そこにいる男(恭介)の弟だって思えないくらい貴方は優しいし気遣いができるし顔も整ってる。だから、どんな手を使ってでも和泉真白を奪いなさい。貴方にはスペックが十分備わっているわ」


 何でだろう、前半褒めてくれたのに後半の言葉から寒気が止まらない。目にハイライトが入ってねぇ!

 普段は品行方正で、図書室で読書している時の凛とした佇まいに定評のある彼女だが、今は見る影もない。

 恋する女の子って怖いな・・・


「紗雪、小晴くんを困らせないでやってくれ」


 なんて返事をすればいいのか分からず困惑していると、壮真が助け舟を出してくれた。

 恭介きょうじんはともかく、壮真じょうしきじんに言われたからか、彼女はすぐ冷静になった。真白が壮真の妹なので、それに対する後ろめたさもあったのだろう。


「そうね・・ごめんなさい。勢いで言い過ぎたわ」


「大丈夫ですよ。さっきはノリでツッコんじゃったけど・・・俺も早く告白した方がいいと思いますし。気持ちを隠したまま本人と接するのは、あっちにも失礼だと思うので」


 だが、真白の恋愛相談相手になったからには、ちゃんと彼女の恋愛を成就させたい。真白には幸せになって欲しいから。

 だから・・・それまでは、下心を隠して関わっている事を許してほしい。バレたらきっと、彼女を不快な気持ちにさせてしまう。


「そう・・・でも小晴君、さっき言ったことは本当よ。私は小晴君だったら真白さんとお似合いだと思うわ」


「えっ」


 俺と真白が・・??

 ・・・・まぁ、外見だけだったら海人よりはマシか。それでも周囲から噂されるよな。

 なんで先輩はお似合いだって言ったんだ・・?


「2人でいる所見たことないから何とも言えないけど・・」


 おいっ

 なんて実際には言えないから不満気な表情を見せる。や、確かに俺と真白が一緒にいることってあんまないけどさ・・

 “お似合い” なんて言葉に特別な意味なんてないか・・


「け、けどね!私小晴君のこと本当に応援しているのよ。優しいし気遣いできるし顔もいいし」


 さっきと同じことしか言ってなくないか・・?


「真白さんのことはあんまり知らないけど、評判を聞く限り親切な子なんだと思うわ。元々壮真君と小晴君が信頼を寄せてるし・・・同じ人を好きにならなかったら、私も純粋に仲良くなりたいって思っていた・・」


 紗雪は悲しそうに目を俯かせる。

 ・・・その気持ちは分かるな。海人が真白のことを好きじゃなかったら、俺も海人と友達になってたかもしれないし・・って一瞬思ったけどアイツはやっぱナシだな。俺のこと女扱いしてくるし。


「貴方の相談に答えるなら、そうね・・自然体でいれば、きっと彼女は貴方の良さに気づいてくれるし、恋愛関係なく仲良くなれると思うわ。あまり何も考えずにいたら会話できるんじゃないかしら?」


 うーん自然体か・・・難しいな。

 でも確かに、細かいこと考えていない方が話は弾むかもしれない。真白は素の俺の方が好きって言ってくれたし。


「そうですね・・ありがとうございます」


「まぁ、私的には恋愛的な意味で真白さんが小晴君のこと好きになったら嬉しいけど」


「が、頑張ります・・!」


 ・・・結局のところ、恋敵を減らしたいという思いも本音だと思う。

 けど、俺の気持ちを汲んで恋路を応援してくれたんだ。先輩の言葉を信じる以前に、その事実だけは受け取っておこう。


「じゃあ、私はそろそろ海人君の所に行ってくるわね!後はごゆっくり〜」


「えっ、足速っ!」


 言いたいことだけ言ってそそくさと帰って行った。そういえば、海人とご飯食べてるヒロインズの中に先輩もいたな・・・そこがいつもの集まりなのだろう。


「すまんな。あいつは心を許した奴にはマイペースなんだ・・悪く思わないでくれ」


「い、いや大丈夫。今回は俺が急に集まれないかなって思っただけだし」


 他のヒロインとも一緒にご飯食べるって、先輩強いな。真白の恋愛相談乗ってるから、先輩の恋愛は応援できないけど・・・どうか幸せになってくれ。

 余談だが、真白は海人と昼を食べているわけではない。輪に入りづらい、という理由ではなく、昼はすぐに食べて勉強しているからだ。

 何で知ってるかって?前世のゲームの知識だよ・・・・・・うん、今日も正常にキモいな俺。


「小晴くん」


「うん?」


 先輩が行ったところで、壮真くんが話しかけてきた。


「前にも言ったと思うけど、俺が仲介役として間に立つのはダメなのか?」


「・・・・うん、気遣いには感謝するけど、あんまり第三者を頼りたくないっていうか、自分の力で仲良くなりたいから大丈夫だよ」


 本当だったら壮真くん経由で真白と仲良くなる方が一番手っ取り早いのだろう。

 けど、もしそれで好意がバレたら怖いし、少し格好悪いと思ってしまう。こればっかりは俺のプライドだが・・


「そうか・・でも困ったことがあったらいつでも頼ってくれ。真白の兄じゃなくて、君の友人として俺は力になるよ」


「壮真くん・・・ありがとう」


 この人本当にいい人だ・・俺の実兄とチェンジしてほしい、切実に。


「知ってると思うけど、うちの妹は真面目な性格だから、悩みとか抱えやすいんだ・・・だから、一生懸命頑張っている姿を見てくれる人がいるのは、真白も喜ぶと思う」


 そう言って、少しだけ寂しそうに笑う。

 家族と一緒にいる時の真白は知らないが・・・大切にされているんだな。

 受験って時期も関係していると思うが、壮真かぞくだからこそ、話しづらいこともあるのだろう。


「あと紗雪も言ってたけど、小晴くんは優しい子だし、周りのことよく見てるからきっと大丈夫だ。俺の妹も小晴くんのことを気に入ると思う」


「・・そんなこと言ってくれるの壮真くん くらいだよ」


「そうか?俺は君のこと高く評価しているんだが・・それこそ妹と付き合って欲しいくらい」


「?!か、からかわないでよ!」


 急に何を言い出すんだこのイケメンは

 純粋な眼差しから、告げられた言葉に悪意がこもっていないのが分かった。んー何も言えん・・

 壮真は自分が変なことを言った自覚はなさそうだったが、急に何かを思い出したような顔をした。


「すまん、確かに本題から話が逸れたな」


 うーんだからツッコミ入れた訳じゃないんだけど・・まいいか


「真白は割とおしゃべりだから、話を聞こうとしてあげるといい気がするぞ。自分に興味持ってくれる人間を好きになるタイプだから」


 そうなのか・・確かに普段の彼女は自分から人に話しかけることが多いが、結構無理をしていた らしいしな・・


「でも、人の事を良く見ている小晴くんだったら意識しなくても大丈夫だと思うな」


「そっか・・・でも一応聞けて良かったよ。俺も結構おしゃべりな所あるし。今後話す時に気をつけられるから」


 何より、実兄からの貴重な意見だからな。


「ていうかさ、今更だけど何で3人とも和泉・・真白さんが海人のこと好きだって知ってるんだ?俺口滑らせたっけ」


 恋愛相談し始めたのは高一の頃からだけど、初めから真白の好意のことをみんな知ってる前提で話が始まった気がする。


「俺は本人から聞いてたんだが・・紗雪は『海人君を見る目が私と同じ、あれは恋する乙女の顔よ』って言ってたぞ」


 嘘だろ?!どんだけ観察眼いいんだ先輩

 でも確かに、今思い返せばゲーム内でもお互いの好意を知りながら海人(主人公)を取り合ってた気がするな・・


「あと恭介は・・」


「クックック・・俺は全生徒の全情報を隅々まで把握しているからな。人間関係程度、造作もないことよ」


 空気になっていた兄が急に話に割り込んできた。


「怖っ、てかまだいたんだ」


「フハハ、他の奴らが話している間暇だったからな、生徒会長権限で和泉真白の素行調査と周囲からの好感度や意見を集めたデータをまとめて印刷してきたぞ。本人の尊厳を傷つけるような事は書かれていないから安心しろ」


 そう言って、クリップで止められた書類を渡してきた。


「おー、何で一介の生徒会長がそんなことできるんだってツッコミたいけど、とりあえず貰っとくわありがとう」


「恭介、ここに書いてあること俺も知らないんだが・・何でこんなにたくさん情報を持っているんだ」


「ククク、人脈とここを使うんだ壮真」


 自慢気に頭の右上を指でトントンしている。無性に腹立つなこのイケメン。


「そうか、すごいな・・?」


 壮真は煽られている事に気づいていないのか、すぐに興味を失って書類に目を通す。

 俺も見るか、と思った瞬間、恭介に書類を取り上げられた。


「何するんだ兄ちゃん」


「悪いな小晴・・この書類を渡すには一つ条件がある」


 悪そうな笑みを浮かべて人差し指をピッと伸ばす。


「なんだよ条件って」


「今からお前に2つ選択肢を与える。どっちを選ぶかは小晴次第だ」


 ・・・嫌な予感しかしない。


「ああ、非常に残念だ。お兄ちゃん的には小晴の嫌がることはできればしたくないんだが・・」


「ちょ御託はいいから早く言って」


「何だノリが悪いな、まぁいい」


 何様だこいつ・・


「一つは、今からお兄ちゃんがお金を渡すから、自販機に言って紅茶を買ってくるか」


 ・・・・意外と拍子抜けだな。それ位だったら全然平気だ。

 しかも恭介はお金を多く渡してくれるので、余ったお金は俺の貯金にできる。本当にこれが条件でいいのか・・?絶対何か裏あるだろ。


「もう一つは、メイド服を着てお兄ちゃんに一日ご奉仕・・」


「自販機行ってきます!」


 兄が言い切る前に、勢いよく扉を開けてその場を去る。走りたい気持ちは山々だが、廊下だから一応早歩きだ。

 ほら見たことか!こんなこったろーと思ったよ!!メイド服とか否が応でも着ないからな絶対!!!

 去年の文化祭、俺のクラスはメイド喫茶を企画した。基本女子はメイドで男子は調理や裏方だったんだが、俺は問答無用でメイドをやらされた。そして、何人もの男たちとチェキを撮らされ・・・

 うわあああ想像しただけで吐き気が・・・

 と、とにかく・・あんな男の尊厳を奪われるような思いはもう絶対にしたくないんだ。メイドだけじゃなくて、女装も嫌だからな絶対・・・

 にしてもあの兄貴・・普段は俺に甘いくせに何で今日は条件なんて設けたんだ・・?

 そんな俺の疑念はメイド服を着させられる、という不快感にかき消されていった。






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