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止まない雨に傘を差して  作者: もち
1章:雪解雨
1/8

物語には終わりがあって始まりがある

初投稿です。ギャルゲーの世界に転生した少年と、ヒロインの少女のお話

週一投稿目安に頑張ります!

 

「ん?なんだこの投稿」


 とあるマンションの一室、猫背の男が椅子に座ってパソコンを操作していた。

 実年齢は20すぎくらいだが、ボサボサの髪と不健康な目のクマから、何歳か老けて見える。

 床には段ボールやティッシュ、服などが散らかっていて、机の上には飲みかけのエナジードリンクが置いてある。


「えーっと何々・・ ”雨と乙女心” をクリアした奴が死ぬと、そのゲームの世界に行ける?」


  ”雨と乙女心” というのは、一部の界隈で人気のギャルゲーだ。

 ミステリアスな先輩キャラや、学園のアイドル、わんこ系後輩、男の娘キャラなど、10人のヒロインとの恋愛を楽しめる。

 部屋にいる男ー もとい俺、(ひいらぎ) 小助(こすけ)は、その中で委員長キャラである “和泉(いずみ) 真白(ましろ)” が最推しだった。

 部屋一面に彼女のポスターを貼り、フィギュアまで揃えているほどの大ファンだ。

 とある理由で高校を中退してからずっと引きこもってる俺にとって、真白の存在は生命力そのものだった。

 周囲の人間からなんと言われようと、俺は『和泉 真白』に人生を救われた、と答えたい。


 しかし、死んだ後ゲームの世界に行けるとはどういうことだろう。

 確かに俺は ”雨と乙女心” を全エンド回収してるし、条件に当てはまると言えるが・・信憑性がなさすぎて子供騙しにすらならない。

 今はやりの転生ものか?そういう話は二次元(もうそう)の世界だけにしてくれ


「はっ、くだらねぇ」

 そう言ってパソコンの画面を閉じると、奥にある置き時計が見えて11:30を指していた。


「やっべ。今日12時からバイトだっけ」


 気乗りしねぇなぁ


「面倒だけど行くしかないか」


 そう言って上着を取り、自分の部屋を後にした。

 今日は雨が降るらしいから、傘を持って行かなきゃな。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「はぁ〜疲れた」


 バイト帰り、激しく降る雨の中、家に向かって真っ直ぐ歩く。どんよりとした雲と共に、俺の気分も憂鬱だ。


 全く、こっちはただでさえ外出するだけで吐きそうだってのに・・今日3回も女子高生に睨まれたんだが?!

 確かに喋り方は吃ってたけどさ!何も当人の前で “きもっ” とか言うなんて酷いじゃないか!どんな教育してるんだ!!

 ・・・まぁ、人の事とやかく言える立場じゃないけどさ。


 高校を中退し、大学にも通わずコンビニバイトだけしてる21歳実家暮らし。家に帰ったら明日のバイトの時間まで部屋に引きこもってネトゲとアニメ鑑賞。きっと、俺みたいな奴のことを世間は社会不適合者と言うのだろう。何やかんやバイトだけしてるから、完全に社会と断絶している訳ではないが。


「ただいま」


 小声でそっと玄関のドアを開ける。返事はない。聞こえてないのかシカトしてるのか知らんけど。

 ・・・靴が2つある。

 おそらく、父さんが帰っているのだろう。


「・・だから、私のせいじゃないって言ってるでしょ!」

「じゃあこれ以上どうするんだ!あのまま “アレ” を何年も放置しておけないだろ!家のことはお前の管理下なんだから、お前何とかしろ!!」


 リビングから聞こえる罵声音。父と母が喧嘩している。原因は—俺か。

 昔は怖いと思った2人の声も、聞き慣れてしまえばどうってことない。今はもう何も感じなくなった。罪悪感も責任感も恐怖も悲しみも・・・全部俺の心の中から薄れていった。


「大体、あんな程度のことで引きこもるなんて思ってなかったのよ!だから私だけに責任を押し付けないで!!あれは、どう考えてもあの子がおかしいのよ!」

「アレを産んだのはお前だろ!!今更どうなったって、産んだ以上お前にも責任はあるんだよ!!このババア!」


 そっか、俺名前すら呼ばれないのか。

 いつもは早々に部屋に行くのだが、今日は自然と足が止まってしまった。


「ああもう、収拾が付かないわね!」

「誰のせいだと思ってる!」

「いっそもうー」


『死んでくれればいいのに』


 そう言ったのはどっちの声だったか。もしかしたら、2人共そう言ったのかもしれない。

 気がつけば俺はリビングのドアを開けて、その場で立ち尽くしていた。


「「?!」」


 俺を見上げて大人たちは驚いていた。まさか本人の前で聞かれるとは思っていなかったのだろう。


「チッ・・なんだ、帰ってたのか。俺の前でわざわざ顔を見せるなよ」


 そう言って父は俺の横を通っていく。

 謝罪すらないのか、父さん。


「こ、小助ちゃん!今のは・・えっと、全部お父さんが言っただけだから!私は勝手に巻き込まれただけ、悪くないのよ!信じて!!」


 母は焦った顔で俺に訴えかけてくる。

 言い訳するならもっとマシな嘘つけよ、母さん。


 俺は何も言わずにその場を去り、自室へと向かった。

 シャワーを浴びる気にもなれなかった。全部、どうでもよくなった。


 別によくある話だと思う。父さんがDV気質で、母さんがヒステリックなんて。

 それに、子供である俺がその原因を作っているのなら、一方的に責めるのはお門違いだ。

 もし神がいるというのなら聞きたい。俺は一体何をした?何の罪を犯した?何が間違いだったんだ??

 ただ普通に暮らして、普通に生きて、幸せな人生を送りたかっただけだ。それの、それのどこが間違いだったと言うのか。


 自室のドアを閉めて電気をつけようとした途端、何かに滑って転んだ。その拍子にドアノブに頭をぶつける。


「いでっ」


 踏んだものを確認しようと、右手で頭を押さえながら左手で電気をつける。

 部屋が一気に明るくなり、見えなかったものが視界に映った。


「・・・カッターナイフか」


 こないだ段ボールを開封した時にしまうのを忘れていたのか。こんなところに置いておくのは危ないな。

 そう思って立ちあがろうとした瞬間、ある言葉を思い出した。


『 ”雨と乙女心” をクリアした奴が死ぬと、そのゲームの世界に行ける』


  ”雨と乙女心” の世界に行けば、和泉 真白に出会える。

 俺の最推しにして最愛の人。俺の人生の支えになってくれた人。

 負けヒロインでありながら、好きな人に振り向いてもらうおうと挑戦し続けた女の子。

 努力家で夢に向かって勉強して、誰に対しても礼儀正しく接していた女の子。

 そんな理想の子と一緒にいれたら・・いや、遠くから見ているだけでも、俺はなんだって頑張れる気がする。今まで避けていた人間関係も、運動も勉強も、全部全力で頑張れる。自分の人生を変えようと思える。


 この話がもし、本当なら・・・・・


 その後はもう何も考えず、握ったカッターナイフを動かした。

 意識が遠のいていく中、最後に目に映ったのは—窓の外の、止まない雨だった。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「おぎゃあ!おぎゃあ!」


「あ〜よしよし、いい子でちゅね〜」


 赤ん坊の声と、それを(なだ)める若い男性の声が聞こえる。


 ・・・というか今の鳴き声、俺が言わなかったか?!

 え、どういう状況これ。絶対赤ちゃんになってるよな??


 急な展開についていけなくなるが、冷静に先程までのことを思い出していった。


 えーっと・・確か、”雨と乙女心” のゲームの世界に行けるって知って、カッターナイフで首を切って・・その後の記憶がない。

 ・・・もしかして、ここはそのゲームの世界の中なのか?

 まさか、本当に転生して行けるとは・・・ってちょっと待て


「は〜い、オムツ替えの時間でちゅよ〜」


 いや21歳が0歳児装うのはきついだろおおおおおおおおおおおおおおおお


 こうして、俺の第二の人生(ニューゲーム)が始まった。






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