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黎明のデシリア  作者: 中條利昭
第十話「辛口カレーに魅せられて」

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第十話「辛口カレーに魅せられて」-2-

 瑞季が自宅玄関のドアを開けると、高梁星輝たかはしてんし月音優菜つきねゆうなが立っていた。

「よっ」

 星輝は軽く手を上げるが、眉は八の字気味だった。優菜は美しい姿勢で会釈する。

「どう、ヒナは」

「まだまだ苦しそう。上がって」

「お邪魔します」

 星輝たちが玄関に上がると、リビングから母が顔を出した。まさか母に「ぬいぐるみの看病をしに来た」と言うわけにもいかない彼らは至って元気そうに挨拶をした後、瑞季の案内で二階に上がる。瑞季はすぐ左手のドアを開けた。

「ヒナ。ふたりが来てくれたよ」

 ヒナはローテーブルの上でアイス枕に顎を乗せていた。身体をひっくり返して枕に頭を乗せたほうがいいのでは、と瑞季は思ったが、ヒナはおなかが下にあるほうが落ち着くらしい。

「こんにちはニャ……」

「こんにちは、ヒナ」

「つらそうだな……。コンビニで色々買ってきたから、ちょっとでもよくなるといいんだけど」

 星輝はレジ袋を掲げた。

「瑞季」

「なに?」

「部屋綺麗じゃん」

 唐突に褒められ、瑞季の耳が熱くなる。

 午前中のうちに必死に掃除した甲斐があった。

「えへへ」

「押し入れはぐちゃぐちゃだニャ。まるで地獄の入り口だニャ」

「病人は黙ってて」

 瑞季たちはヒナの乗っているローテーブルを囲むように、座布団に座った。いつもは推しのVチューバーのグッズの座布団をひとつ置いてあるだけだが、瑞季はそれに座り、残りふたつは母の部屋から借りたシンプルな座布団を置いていた。

 星輝が手にしていたレジ袋に手を入れる。

 そこから取り出されたのは五百ミリリットルの水二本とタオル、一キロ分のロックアイスの袋、チョコチップメロンパンだった。

「あ、ごめん星輝。ヒナの体調不良の原因、人間の食べ物らしくて」

「そうなの?」

「うん。たぶん中毒みたいなものだって。だからメロンパンは星輝のほうで——」

「チョコチップメロンパンは別腹だニャ。ぼくが食べるニャ」

「なんでやねん」

 瑞季はメロンパンを「早くしまって」と言いながら星輝に渡す。星輝は苦笑いをしながらバッグに入れた。

 ヒナはそれをもの惜しげに見つめている。

 優菜が「ごめんね、ヒナ。つらいよね」とヒナに語りかけた。

「今はちょっと辛抱しててね」

「ニャ……。ここは我慢するニャ。背に腹は変えられないニャ」

「ヒナは昨日何を食べたの?」

「ビーフカレーの残り」

 元気が出るからと、瑞季は良かれと思ってヒナにそれを与えていた。ヒナはおいしく平らげていたが、一晩経つとこのようになっていた。

「じゃあ、カレーアレルギーか何かか?」

「そんなアレルギーあるの?」

「いっぱいスパイス入ってんだからひとつくらいあるんじゃね?」

「確かに」

 そんな星輝と瑞季を見て優菜は苦笑いしていた。

「スパイスというより小麦や乳製品のアレルギーになるんじゃないかな……。人間であればだけど」

「特定の食材が原因じゃないニャ。人間の食べ物を日常的に食べすぎた中毒みたいなものだニャ」

「自業自得じゃん。私の財産削って勝手に倒れるなんて」

 辛辣な指摘をする瑞季に対して優菜が「こらこら、そんな言い方しなくても」と困った顔で宥める。

「ヒナの食費さえなければ、あと二回はコンビニくじ引けたのに……」

 目当てのものが当たらなかった悔しさを噛み締めながら、瑞季はヒナを寝かせているアイス枕を触った。

「アイス枕、ちょっと温くなってきたね」

 ロックアイスの袋をタオルで巻き、簡易的な枕にしてアイス枕と取り替えた。

「どう?」

「ひんやりして気持ちいいニャ」

「それはよかった」

 星輝はペットボトルを取り出し、ヒナに見せた。

「水くらいは飲むよな?」

「飲むニャ。僕の前に置いといてほしいニャ。蓋は開けなくてもいいニャ」

「え?」

 星輝は困惑した様子でおそるおそるヒナの前にペットボトルを置いた。

 すると、水の量がちびちびと減り始めた。水面は揺れていない。まるで手品のようだった。

「すげえ」

「そんなことできたの? 今までわざわざコップに入れてきてたのに」

 ヒナは瑞季の言葉が聞こえていないかのように、黙って水を飲み続けている。

「こぼすリスクを追わずに飲めるんだね」

 優菜の一言を聞いて、瑞季は名案を思いついたとばかりに手を叩いた。

「これを利用してさ、一切ペットボトルに触れることなく水を消してみせます、とか言ってその辺で実演してみたらワンチャン稼げないかな」

「そんな地味な芸しなくても、ヒナに飛び回ってもらうだけでいいんじゃないか?」

「それはそう」

「王子様を小遣い稼ぎに使おうとするなニャ」

 二百ミリリットルほどかさが減ったところで、ヒナはふうと一息ついて目を瞑った。朝よりはいくらか楽になっているように見えるが、まだまだ苦しそうだ。

 そんなヒナを見ながら、瑞季は気づいてしまう。

「もしかして、私が教室で授業受けてる間に、水筒のお茶飲んだりしてないよね?」

「……してないニャ」

「今の変な間は体調不良ゆえのものだってことにしといてあげる」

「助かるニャ」

「助かるな」


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