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黎明のデシリア  作者: 中條利昭
第八話「輝く星の内側」

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第八話「輝く星の内側」-2-

 四時間目の終わりを告げる、どこか気の抜けたようなチャイムの音が教室に響き渡った。その音を合図に、授業で張り詰めていた空気がふっと緩み、賑やかな話し声が教室を満たし始める。

 だが、瑞季の心は、そんな明るい雰囲気とは裏腹に、重く沈み込んでいた。

 自分の席についたまま、ぼんやりと教室の前方を眺める。瑞季がいるのは、教室の窓側から二列目の、後ろから二番目の席。そこからは、右隣の列の一番前の席に座る星輝の後ろ姿が、よく見えた。

 星輝の後ろの席に座る優菜が、彼女の肩を後ろからぽんぽんと叩くと、星輝はぎこちなく振り返った。その表情は、瑞季が予想していた以上に暗い。

 この日、瑞季はまだ一度も星輝の声を聞いていなかった。朝、教室で顔を合わせたときも、彼女は力なく頷くだけで、一言も口を開こうとはしなかったのだ。

 優菜が何か言葉を語りかけると、星輝は力なく首を横に振り、ぼそぼそと口を動かした。いつもであれば、彼女のよく通る元気な話し声は、瑞季の位置まではっきりと聞こえてくるものだが、今日は何も聞こえなかった。

 星輝は一言何かを言い終えると、くるりと優菜に背中を向け、自分の机に突っ伏してしまった。

 困ったようにため息をつく優菜。静かに席を立ち、お弁当箱を持って、瑞季の元へとやってきた。瑞季の前の席に座る男子生徒は、チャイムが鳴るや否や、友人たちと連れ立って学食へと向かってしまっていたため、優菜はその席にそっと座る。

「一緒にご飯、いい?」

「もちろん」

「ありがと」

 優菜は膝の上でお弁当箱の風呂敷を開ける。

 瑞季はバッグから自分のお弁当箱を取り出して体の近くに置き、机の優菜側半分を差して「ここ、使っていいよ」と言った。優菜は「ありがと」と微笑み、水色のお弁当箱を置き、蓋と風呂敷を前の席に置いた。

「……しばらくひとりになりたいんだって。夕方には復活してると思うって言ってたけど」

「そっか。から元気じゃなければいいけど」

「十中八九、から元気だろうね」

 優菜はどこか遠い目をしていた。

 すると、瑞季の右の席に座る西沢沙耶にしざわさやが「あの、」と話しかけてきた。

「星輝さん、何かあったの? 元気ないみたいだけど」

「昨日ちょっとつらいことがあったみたいで。励ましてあげたいんだけど、今日はひとりになりたいそうだから」

「そうなんだ。心配だね」

「ね」

 三人の間に重たい沈黙が落ちた。

 瑞季は、冷めたくてしょっぱい卵焼きを頬張りながら、改めて星輝に目を向ける。鈍い動作でお弁当をバッグから取り出していた。蓋を開け、お箸を手に取るが、お弁当箱にはなかなか手をつけなかった。十秒ほど硬直し、ようやくお箸でお米を掴み、口に入れた。ゆっくりと咀嚼しているが、味わっている風ではない。まるで、味のしない砂のようなものを、義務のように噛み続けているかのようだった。

 瑞季が次々とおかずを頬張る間、星輝は最初に口に入れたお米を噛み続けていた。ようやく口の中のものを喉に落としたかと思うと、星輝はお箸を箸箱に戻し、ほとんど手付かずのお弁当に、ぱたんと蓋をしてしまった。

 瑞季と優菜は互いの顔を見合わせ、眉を八の字に曲げた。隣に座る沙耶の角度からは、星輝の背中しか見えてはいないはずだ。だが、瑞季と優菜の痛ましげな様子を見て、察したのだろう。彼女もまた、眉をきゅっと曲げた。


           ◆


 自室の姿見を見ながら、ナーサは緩めていた紫色のネクタイをしっかりと絞めた。うまく左右対称になったのを確認し、改めて全身を眺める。黒の半袖ブラウスはタイトなサイズであるため、胸の膨らみやくびれのラインがよく見える。黒とスカートは膝上丈で、黒革のコンバットブーツはふくらはぎ中間くらいまでの丈であるため、膝の辺りの白い肌が際立っていた。頭の右側の黒髪が一箇所跳ねており、櫛で軽く解いて整える。

「行くか」

 ふう、と息を吐き、自分の中のスイッチを押す。自室を出て階段を降り、ロビーに出ると、ちょうど散歩から帰ってきたカスパールが、入り口の金属製自動扉を開け、入ってきたところだった。

「おかえりなさい、カスパールさん」

「ただいま。これから町へ行くのか?」

「はい。今度こそデシリアを打ち負かします」

 カスパールはかすかに眉を曲げた。

「……理解していると思うが、先日の地の黒槍の性能テストは合格だった。ジンがブラフザールと私の分の開発に着手したのだから、もう危険な目に遭いに行かなくても、よいのだぞ」

「承知しています。それでもあたしはこの手であいつらを倒して、デシリル・ジェムを奪還したい」

 カスパールはナーサの瞳を見つめる。その鋭い瞳からは、数日頭に血が上りっぱなしであることが、容易に読み取れた。

「……そうか。私の本心としては、君の安全のため行かせたくないのだが、止めてしまうのは少々過保護かもしれないな。……よいだろう。好きにすればいい。しかし、無理はするな。君は、感情的になると自分の限界を見失いがちだ。何よりも、生きて帰ることを優先しなさい」

「はい」

 ナーサが歩みを進める。カスパールは立ち止まったまま、ナーサを見つめる。ナーサはカスパールに目をやることなく、敵のことだけを見据えてまっすぐ進み、カスパールの横を通り過ぎていく。

「自信ありげだな。勝算はあるのか?」

 問いかけると、彼女は足を止めた。

「あたしと第一世代のスレイヴ相手で互角でした。今回は第二世代のスレイヴを使うので負ける道理はありません。それに——」

 カスパールが振り返って彼女に目を向けると、ナーサも同じようにカスパールに顔を向け、尖った犬歯を光らせていた。

「強力な黒感情の持ち主を見つけたので」


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