第七話「選ばれなかった者たち」-4-
放課後、瑞季たち三人と沙耶が玄関を出て校門に向かっていると、「おっ、星輝じゃん」と女子の声が聞こえた。グラウンドを見ると、体操服の女子がこちらに向かって歩いてきていた。瑞季たちのいる箇所にはちょうど給水栓が並んでおり、彼女はそこに向かってきているところらしい。
「おっ、久しぶり。元気か?」
「一応私は三年なんだけどな」
「別に先輩後輩って間柄じゃないだろ?」
「まあな」
星輝はその三年女子の名前と、バンド仲間であることを紹介した。その間、女子は給水線で手を洗っていた。
「今日も相変わらず変な名前してるのか?」
「おいおい、超イケてる名前の間違いじゃないか?」
「ほんとポジティブなセンスしてるな、星輝。羨ましいよ」
星輝は楽しそうに声を上げて笑った。
三年女子は給水線を止め、ポケットからハンカチを取り出して手を拭く。
「引き止めて悪かったね。久々に見かけたもんだから嬉しくて。次のライブ期待してるよ」
「こちらこそ、先輩のドラム捌き楽しみにしてるよ。じゃあな」
瑞季たちは再び歩みを進める。三年女子が走って持ち場に戻っていくのを確認すると、星輝は「あいつ、この辺のバンド界隈でそこそこ名の知れた、結構いいドラマーなんだよ」と誇らしげに語った。
「へえ」
「ウチの悠太には及ばないがな。沙耶はライブとか興味ある?」
「行ったことはないけど、星輝さんのステージなら見てみたい」
「お! ぜひ来ちゃってくれ。次はもうしばらく先だけどな」
そうこう話している間に、四人は校門まで辿り着いていた。
沙耶と仲良くなって以来、ほぼ毎日四人一緒に教室を出ていたのだが、彼女だけ帰る方向が真逆だった。そのため、校門まで四人でお喋りし、話が中途半端であれば校門前で立ち止まって、気が済むまで話してから別れることが日課となっていた。この日は別れ際で急遽「十年後の小池先生の頭髪がどうなっているか」という話題が盛り上がり、十数分校門で話してから沙耶と別れることとなった。
たくさんの生徒たちが下校している通学路の坂を降りながら、先頭を歩く星輝が振り返った。
「ごめん、ちょっと寄り道していい?」
「いいよ。どこ行くの?」
「脇道」
それはすなわち、下校中の他の生徒たちに聞かれたくない話をしたいということだ。
瑞季も優菜も頷き、人通りの少ない脇道へ逸れた。
しばらく無言で歩き、周囲に人の気配がない路地にたどり着いたところで星輝が切り出した。
「その……、デシリアになるための条件について、考えたことがあるんだ」
星輝はこれまで二度、デシリアに変身しようとデシリル・ジェムを握って祈ったが、デシリル・アンプが現れず、変身することは叶わなかった。前回の戦いではデシリアになれないなりにアドバイスをくれたり、離れたところから状況を観察して機転を効かせた作戦を実行するなど、デシリアでないからこその活躍をした。しかし、彼女がデシリアになりたいと強く思い続けていることは、瑞季も優菜も察していた。
「聞く限りさ、ふたりが初めて変身したときは、近くにヒナがいただろ?」
瑞季が初めて変身したのは、訳もわからずヒナにスレイヴの元に連れて行かれたときだった。最初は危険なことに首を突っ込む気にはなれず、ヒナを置いて逃げたのだが、かつて憧れたヒーローの姿を思い出し、素体となった少年とヒナを助けに行った。テレビのヒーローがかつての自分を救ったように、今度は自分がヒナたちを救うのだと、ヒナを抱えながら誓った。すると、デシリル・アンプが現れ、彼女はリアハイリンに変身した。
優菜が初めて変身したのは、漫画家になりたい女子高生のスレイヴと戦ったときだった。彼女は元々瑞季と同じく物語で活躍するまっすぐなキャラクターへの憧れがあり、「いわば、物語がわたしの先生」を座右の銘にして人一倍の努力をした結果、周囲から羨ましがられる優等生となった。しかし、それは安全な籠の中で、親や周囲が求める自分を演じ、本当になりたい自分を抑えている状態でもあった。瑞季の戦いを見て、彼女はその籠から飛び出し、危険を承知で瑞季を助けたいとヒナへ宣言した。すると、デシリル・アンプが現れ、彼女はリアマイムに変身した。
「うん」
「そうだね。確かにそばにヒナがいた」
頷きながら瑞季はバッグを開ける。すると、すぐにヒナが顔を出した。
「ヒナ、話は聞いてた?」
「聞いてたニャ」
ヒナが星輝を見つめると、彼女は頷いて続けた。
「ウチが最初に変身しようとしたとき、ヒナは優菜のそばにいて、優菜の変身を見届けただろ? 次に変身しようとしたのは、莉照のスレイヴが中庭で暴れたときだ。あのときヒナは教室に残ってた。要するに、どちらもウチの近くにヒナはいなかったんだ」
「なるほどニャ。ということは、精霊が近くにいることがデシリアになる条件——言い替えると、デシリル・アンプが出現する条件かもしれない、ってことかニャ」
「そう。……どう思う?」
「充分にありえるニャ。……ニャ?」
ヒナは突然明後日の方向を向く。
「どうしたの?」
「スレイヴの気配だニャ」
「え? そんな妖精あるあるな便利機能備わってたの?」
「妖精じゃなくて精霊だニャ。今まで、使う機会が意外となかったんだニャ」
「そっか。だいたいスレイヴの側にいたしね」
「あっちだニャ」
ヒナはオフィス街方面に身体を向けた。優菜が初めて変身した場所の辺りだ。
「分かった。みんな、行こう!」




